読書日誌2005'04〜06

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05'06'28 タイタニックを引き揚げろ (著)クライヴ・カッスラー <amazon>
 1912年に沈没したタイタニック号の中に、これからのアメリカの防衛の要となる稀少元素である放射性物質ビザニウムが積まれていた。大統領は自らの判断でタイタニックを引き揚げるという壮大な計画を立てるのだが、その責任を与えられたNUMAの職員ダーク=ピットはサルベージを指揮することになるが、その事実を知ったソ連首脳部も又動き出していた。
 映画レイズ・ザ・タイタニック(1980)の原作。はっきり言ってこの映画の出来は酷く、原作である本作もあんまり読む気になれなかったのだが、たまたま古本屋で100円で売っていたのを見て購入。著者の作品はこれまでにも何作か読んだが、そういえばダーク・ピットものは初めてだった。荒唐無稽な設定をかなりしっかりと科学的にとらえているし、後半部分の緊張感あふれる描写は面白いし、どんでん返し部分も良い(残念なことに映画観ていたからオチは分かっていたんだが)
05'06'24 げんしけん6 (著)木尾士目 <amazon>
 新入部員の二人も随分現視研に馴れ(?)、最大イベントのコミフェスも終了。現視研はいつものまったりムードへと戻っていった。だが、やはり時は流れ、4年生は卒業式を迎えていく…徐々に変化していく現視研の日常を描く。
 初期の頃の気恥ずかしい作風が、だんだんちょっと変わった大学生の日常へと変わっていき、普通のドラマにしてテレビあたりで放映しても観られる位のレベルになっていった感じがする…いや、所々ボーイズ・ラブネタが出てくるのはちょっとヤバイか?まあ、これはこれで馴れと言う奴か?
げんしけん 5
05'06'20 金色のガッシュ1 (著雷句誠 <amazon>
 天才少年高嶺清麿の元に突然飛び込んできた不思議な赤い本を持ってきた子供ガッシュ・ベル。その本を用いることにより、電撃を口から出すことが出来るガッシュに、戸惑いを隠せない清麿だったが、そのあまりの直情ぶりに徐々に感化されていく…
 ちょっと前、漫画喫茶で読み始め、一挙に全巻読んでから、少々考えてやっぱり買うことに決めた。こういう徹底したストレートな作品はなんだか自分のツボにはまる…昭和特撮ものが好きな私にはちょうどピッタリなのかも知れない。それにこれは藤田和日郎の香りがすることも、好みの理由かな?(アシスタントだったのかな?)
 そう言えば新しい漫画を買うのも久々。ゆっくり読んでいくつもりで、月1〜2冊程度の割で買っていく予定。(現時点でアニメ版は全く観ておらず)
05'06'18 読まずに死ねるか! (著)内藤陳 <amazon>
 冒険小説の大ファンで、芸能生活の傍ら、自ら経営するバーでAF(Adventure Fiction)の会を主催していた著者が、1978年から週刊誌に連載していた偏愛読書日記を綴った作品。
 とにかく著者の偏愛に溢れた作品で、面白い作品だったら、とことん褒めまくり、逆に面白くないとなったら、一刀両断にクズ扱いする。それがとても心地良い。
 面白いと言うよりは、これを読んだ時、本気で「悔しい!」と思った。最近すっかり映画の方に時間が取られ、読書も軽いものが中心になってしまった自分自身の読書生活に活を入れられた気分になった。1980年代から90年代の途中までは特に好きな海外SF作品をあれだけ読んでいたというのに、今はすっかり落ち着いてしまったし、色々冒険小説も読みたい作品はたくさんあって、山ほど積ん読しているのに、全然手を付けていなかった自分自身の情けなさを感じさせてしまった。読んでる最中にも、悔しさが募り、月に一冊は必ず冒険小説かSF小説のどちらかは読もう!と心に決めた。
 …いや、それだけじゃない。映画に関しても、本当に好きなのだったら、冷静にレビュー書くよりは、自分の思いを徹底的に前面に出したって良いじゃないか。いろんな意味で活を入れられた作品だった。読んでると、本を読みたくなる(なんか矛盾してるな)。
05'06'14 映画道楽
鈴木敏夫(検索) <amazon> <楽天>
 アニメ映画のプロデューサーで、現スタジオジブリ社長となった著者のエッセイ集。自身が好きな映画の話からはじまり、これまでどんなアニメの製作に関わってきたか。そして現在進行中の作品(具体的には『ハウルの動く城』(2004)『イノセンス』(2004))でどれだけ苦労しているのか、それらを綴る作品。
 好きな世界の裏側というのは興味がそそられるものだが、本作は特に宮崎駿、高畑勲、押井守と言ったアニメ界の大監督らとの交流と、彼らの作り上げた映画の裏方はどれだけ苦労があったのか、一つ一つの作品を振り返って描いているのが大変面白いところ。それこそ金の集め方から、何故『天空の城ラピュタ』(1986)のタイアップ企画で映像を使わなかったのかとかの裏話。コピーライトのやり方まで懇切丁寧に書いているのが面白い。アニメに限らず映画は製作者が一番動かねばならない訳だが、作家性が問われるアニメ作品だと、その苦労もひとしおなんだろうな。
 それと、本作のイラストや写真は結構貴重なものが多い。イノセンスのポスターを、タイトル名は「イヌセンス」にして、バトーを煙草くわえた著者に、バセットをオシイヌに(しかも股間ぶらんぶらんさせた)したイラストにはには、思わず吹き出した。
映画道楽
05'06'11 北の豹、南の鷹 グインサーガ101
栗本薫 (検索) <amazon> <楽天>
 ルードの森からグインを救ったのは、はるか南の草原地帯の黒太子スカールだった。あたかもなにものかに導かれるように出会った二人だったが、ルードの森は出たものの、ゴーラ軍の追撃は厳しさを増していった。強大なゴーラ軍に囲まれた二人だったが…

 100巻が物語的に通過点に過ぎず、ここでも本来物語の節目となるはずの物語があっさりと過ぎ去ってしまい、しかもグインの記憶喪失のお陰で不発という妙な物語となってしまった。ここまで来てまだ話を引っ張るというのか?というか、著者は本当に終わらせるつもりがあるのかどうか、そちらの方が心配だったり。
<A> <楽>
05'06'09 行きそで行かないとこへ行こう
大槻ケンヂ (検索) <amazon> <楽天>
 目を転じてみると、わざわざ海外に行かなくても、目で見えているのになかなか行くことが出来ない場所というのは自分が住んでいる町の片隅にあるもの。そんなスポットを拾った著者のそぞろ歩き紀行文。

 積ん読のなかにたまたま本作があり、沢野ひとしによる表紙を見て、「久々に椎名誠」も良いな。と思って手に取ったら、大槻ケンヂの作品だった。タイトルデザインと言い、文庫版のこの表紙は明らかに狙ったな。
 著者の紀行文はこれまでも何作か読んだけど、この人の場合は日常レベルの話がやっぱり面白い。特にカレーに対する偏愛の話は大変面白い。高田馬場にあるというカレー屋は私の知ってる店なのかも知れない。そんな激辛カレーがメニューにあったかどうか記憶がないが。
<A> <楽>
05'06'05 毎日かあさん2 お入学編 (著)西原理恵子 <amazon>
 別れた元夫との関係も良好に、小学校に入学した息子を時に暖かく、時に叱りとばして日常を送る著者を巡る日常生活を描いた作品。
 家族を描いた、いわば漫画版私小説なんだけど、この人の作品を読んでると、ほのぼのしたものだけでなく、苦笑いさせられっぱなし。だからこそ何度でも繰り返し読めるし、その度ごとになんか妙に心地よい気分にさせてくれる。
 それに、時折深いものがあったりもする。ここではパン作り名人の知り合いのお母さん、パン生地を捏ねながら「何かね、無になれるの」と言っていたのが妙にツボ…というか、私自身最近そう言う心境に至る時があるから(笑)
毎日かあさん2 お入学編
05'06'03 からくりサーカス37
藤田和日郎 (検索) <amazon> <楽天>
 ゾナハ病を治す事が出来る機械「ハリー」をフウの元に戻すため、鳴海にとっては、子供達を守るため、オートマタとの戦いは続く。次々に仲間は倒れ、しかも続々とオートマタの増援が来る中、彼らは戦い続けていく。ミンシア、ジョージ、そして阿紫花が…
 この作品、本当にピンポイントで私の涙腺を刺激してくれる。前にあれだけ嫌な奴だったジョージがあんな死に方をするなんて事もそう。しかも最後が、本当にやりたいことを見つけたジョージが悔しそうな顔でねえ。
 鳴海はここでも強いけど、彼の取り巻く状況は本当に絶望的だというのも凄いところだ。
<A> <楽>
05'05'24 天地静大 (著)山本周五郎 <amazon>
 江戸末期。国元になほという想い人を残しつつ、奥羽の中邑藩から江戸に勉強に来た杉浦透は、ここで新しい学問物理学に出会い、その学びに惹かれていく。役に立たないと陰口を叩かれながらも勉学を続けようとする杉浦だったが、藩の佐幕派と開国派の争いは嫌が応にも彼の元に迫ってきていた。
 江戸末期、歴史の激動の時代に、決して国とは関わることの無かった一人の勉学生と、あらゆる可能性を捨て去った男の物語。彼らは時代の波に呑み込まれながら、その中で自分を見つけていく。そんな時代の一コマを描いた作品。大変長い作品だったため、読むのには疲れるが、質はなかなか高かった。ただひたすら“生きる”というテーマを素直に見つめた作品。
05'05'21 社賊 (著)森村誠一 <amazon>
 日本有数の巨大ホテルであるホテルフェニックスに、たまたま入社できた畑中教司は、偶然社長の誘拐現場に居合わせてしまう。その後無事に社長は救出されたものの、その後次々にホテルに入ってくる強迫文書のお陰ですっかり客足が遠のいてしまう。ホテル内部に事件の火種があったのではないかと疑う社長命令で畑中は内部調査を行うことになったのだが…
 著者の推理ものは大体形式が決まっていて、とっ初めに必ず主人公は偶然自分とは関係のない事件に遭遇するが、その際、重大な手がかりもやっぱり偶然遭遇してる。それがつながる形で展開していくわけだが、あんまりにも同じすぎて読めば読むほど笑えてくる。実際内容もTVドラマ向きだし、良い意味でも悪い意味でも実に著者らしい作品だと言って良い。
05'05'18 屍鬼4 (著)小野不由美 <amazon>
 外場は死に覆われていた。次々に住民は消えていく。だが一夜にして住民が丸ごと入れ替わってしまう家もあり、実質的に外場の人工は変わっていない。医師の敏夫は自らの妻の死体を監察することによって、今この村で何が起こっているのかを知ることになるが、それを説明することも出来ず、更に住職の静信も、このまま手をこまねいていてはいけない事が分かっていながら自分では何も出来ない自分に苛つくだけだったが…
 人間社会と屍鬼の世界の双方が描かれるようになり、ぐっとおもしろさは増してきた。屍鬼の世界というのもなかなか興味深いところがあり、こういう異常な社会構造を考えてみるというのなかなか面白い。
屍鬼〈4〉
05'05'15 自由と規律 (著)池田潔 <amazon>
 戦前に幼少の頃イギリスのリース・スクールに入学した経験のある著者が、当時のイギリスのパブリック・スクールの様子を懐古しつつ、日英の教育の差と、伝統の重みについて述懐する作品。
 たまたま読み始めた作品だったが、これがかなり面白い。古き良きイングランドの伝統とは、まさに学校から始まった事がよく分かるし、その学校を作り上げた土壌と言うことについても考えさせられる。ワーテルロー会戦にてナポレオンに打ち勝ったウェリントンが「ウォータールーの先勝はイートン校の校庭において獲得された」と言っていたのはこういう事なんだな。
 ところで本書最後の部分であるイギリス人給仕人がこう漏らしたと書いてある。「イギリス帝国が地球から消える時が来るかも知れません。しかし、大西洋上の芥子粒のようなこの小さな島の上で、緑の芝生に白線を引いて、食うや食わずのやせ細った身体で、このイギリスというおかしな国民が、やはり今まで通り、バットを振り球を蹴っているだろう、そしてスポーツマンシップなどということを後生大事と崇め奉って…おかしい国民ですよ。イギリス人と言う奴は」
 1980年代、日本と並びポストモダンの急先鋒となったこの国が持つ本当の力とは、表面的なものじゃなくてもっと奥にあったのかも知れない。
自由と規律
05'05'13 ビリー・ミリガンと23の棺 下
ダニエル・キイス (検索) <amazon> <楽天>
 繰り返される裁判の末、ライマからデイトン司法センターに移され、更に保護監察を勝ち取ったビリー。しかし、監視の目をかいくぐって脱走を図ったことが原因で、又しても彼の状況は暗転する。収監、ハンスト、訴訟を経て、ついには安定した精神を勝ち取るまでを描く。

 ビリーの生涯とは確かに波乱に満ちたものだが、ここでは分裂した人格はほとんど出てこず、その分メリハリが少なくなってしまった感じ。事実を元にしてると言うことは、リアルに書けば、こうなってしまうんだろうけど。これはただ読んだ。と言う印象のみ。
<A> <楽>
05'05'10 ビリー・ミリガンと23の棺 上
ダニエル・キイス (検索) <amazon> <楽天>
 援助者の尽力にもかかわらず、ライマ精神障害犯罪病院に移されたビリー。そこは薬物と体罰が横行する恐るべき場所だった。そこでビリーの人格の分裂は激しくなり、統合者である“教師”はなんとかしてここから出る道を模索し始める…

 「24人のビリー・ミリガン」の続編。作品そのものは悪くないけど、ちょっとテンションは落ちたかな?先の作品では徐々に良くなっていったと思ったビリーの病状が、病院側の圧力によって酷くなっていく。その辺ビリーの半生そのものを描いた前作ほどのパワーは感じられず。やや間に合わせっぽい印象を受ける。多分これはビリーの人格があんまり出てこなかったこともあって、小説として見る分にパワー不足と思えたからだろう。
<A> <楽>
05'05'07 ジパング18 (著)かわぐちかいじ <amazon>
 クーデターにより艦内を掌握した菊池の判断により、「みらい」は日本海軍艦としてインド洋へ。待ちかまえるイギリス軍との間に戦端が開かれる。だが、艦隊を指揮する滝中佐は「みらい」を後方に置き、参戦を許さなかった。インド人でありながらイギリス軍のエース、シンのスピットファイアに次々と落とされる零戦の群れ。その中で「みらい」の取るべき選択は…
 これまでとは大きく異なり、「みらい」は積極的に戦闘に参加しようとしていて、逆に海軍の方がそれを抑えるという形を取っている。これはこれで正しい選択だろう。「みらい」乗員も、ふっきれたようで、描写が凄い。
 …しかし、これが本当に正しいのかどうか。著者はこの物語をどこに持って行くつもりだ?
 ジパング (18)
05'05'04 肝臓先生
坂口安吾 (検索) <amazon> <楽天>
 著者による短編集。「魔の退屈」「私は海をだきしめていたい」「ジロリの女」「行雲流水」「肝臓先生」の5編を収録する。
 いわゆる新文学の旗手であった著者だが、白樺派であれ、新文学であれ、どうにも好きになれないものばかりだったのだが、多少私自身の嗜好が変わったのか、改めて今読んでみると、結構面白いことが分かった。これは私自身が昔は道理というものに強く結びつきすぎていたため、それが嫌いだったんだと思うのだが、むしろここでは道理なんてものを持ち込まないことで、凄惨さを美に昇華しようとしているその姿勢がようやく理解できたと言うことだろうか?面白くはあったが、傾倒はしたくないけどね。
05'04'30 ローマ帝国衰亡史1 (著)エドワード・ギボン <amazon>
 強大な版図を誇ったローマ帝国が、次々と皇帝を変え、やがて衰亡していく様を捉えた筆者畢生の歴史絵巻。1作目の本作は五賢帝の時代を経て、次々と皇帝が換わっていく時代を的確に捉える。
 これを読み始めたのは既に4年前。一旦読み終えて、改めて再読してみたが、この辺の時代は私自身の趣味だとはいえ、基本的に年代が書いてあるわけでないため、他の資料と読み比べながら、この時は何があったのかと再考しながら読んでる内にすっかりく時間がかかってしまった。
 それでもさすがに一級の資料だけあって、他の資料と共に読んでると、その当の資料がどれだけ本作に負ってるのかを再確認できたりして、なかなか興味深いところ。
 しかし1巻を完全に読み切るまでに4年…全部読み終えるまでに私は生きていられるだろうか?
ローマ帝国衰亡史〈1〉
05'04'27 鉄(くろがね)コミュニケイション2 (著)秋山瑞人 <amazon>
 ルークに捨てられることを怖れたイーヴァはこっそりとルークの同型アンドロイドのナイトとビショップを呼び出した。そうとは知らぬハルカは、急によそよそしい態度を取るようになったイーヴァと仲直りするため、キャンプを提案するのだった。楽園の崩壊を目前に…
 鉄(くろがね)コミュニケイションの完結編。著者らしい盛り上げ方で、読みやすく楽しい作品に仕上がっている。ただ、勿体ないかな?これだけの魅力的な設定を僅か2巻程度で終わらせてしまって。事実、多数のキー・ワードをちりばめておきながら、その大部分が消化できないまま終わってしまっていたように思える。これを一エピソードとしてハルカ達の日常をもっと描いて欲しかった気はするな。
鉄コミュニケイション〈2〉
05'04'23 鉄(くろがね)コミュニケイション1 (著)秋山瑞人 <amazon>
 荒廃した地球で5体のロボットと共に住んでいる人間の少女ハルカは、ある日自分とそっくりな女の子を見かける。用心棒ロボットのルークと共に旅をしているというその子イーヴァは共同体の中に入ってくるのだが…
 元が漫画だと言うことも、アニメ化されたと言うことも全然知らず、著者の名前だけで購入した作品。著者独特の文体というのが結構楽しい作品だが、妙にとらえどころがない。面白いか?と言われれば、面白いとは思うのだが…
鉄コミュニケイション〈1〉
05'04'18 恐怖 (著)筒井康隆 <amazon>
 姥坂市で文化人ばかりを狙った連続殺人事件が起こる。次々に起こる殺人に、姥坂に住む文化人達は疑心暗鬼へとなっていくが、特に最初の事件の目撃者であり、同じく文化人を自認する作家の村田勘市は、次は自分の番かも知れないと言う強迫観念につきまとわれ、やがて半狂乱へとなっていく…
 本作は断筆からの復帰後の作品らしいが、著者らしさは相変わらず高いレベルを誇っている。しかもそれのみならず、題にあるように、本作は本質的な恐怖というやつを、「どうだ!」とばかりに見せつけられたような気持ちにさせられる。人に本当の恐怖というのは、超自然的なものでは全くなく、身の回りの他者、そして何より自分の内面へと転換していく。やがて自分が狂気に冒されているのではないか?と言う思いがどんどん高まっていくと言うところにこそある。その課程の描写が本当に見事。
恐怖
05'04'15 ロッキン・ホース・バレリーナ
大槻ケンヂ (検索) <amazon> <楽天>
 リードギターの耕助、ベースのザジ、ドラムのバンからなるロック・バンド“野原”はマネージャーの得山のハイエースで全国ツアーの旅にでかける。名古屋に行く途中で拾ったゴスロリ姿の少女町子を加え、ハイエースは最終目的地の博多に向かってひた走る…

 著者の小説の描き方は本当に巧くなった。ちゃんと盛り上げるべき部分で盛り上げ、落とすべき部分で落とす。その辺の技術は明らかに上がってる。しかし、一方では、昔の小説にあった、一種異様なパワーを失ってしまった気もしてならない。面白いのは確かなのだが、読書中一抹の寂しさをも覚えてしまった。
<A> <楽>
05'04'12 豹頭王の試練 グインサーガ100
栗本薫 (検索) <amazon> <楽天>
 ルードの森で再びゴーラ郡に捕らわれてしまい、今度こそ逃げられない状態で、しかも記憶の混乱に苦しめられるグイン。しかしそんなグインの前に二人の魔導師が現れ、更に意外な人物が…

 とうとう100巻目に到達。しかも話自体はつなぎに過ぎないと言う恐ろしい事実…大体このストーリー展開にするんだったら、前巻で出来ただろうに。しかし、最後の最後に出てきた人物にはかなり驚かされる。全く考えてもいない人だったからなあ。
 そう言えば後書きに「これが折り返し地点」とか書いてあったけど…おいおい。
<A> <楽>
05'04'08 燃える男 (著)A・J・クィネル <amazon>
 戦うことしか知らず、その戦いに疲れてしまった元フランス傭兵部隊員クリーシィは、かつての同僚グィドーから、イタリアの富豪の娘のボディ・ガードを依頼される。嫌々ながらの仕事ではあったが、ボディ・ガード対象の少女ピンタのお陰でクリーシィは人間性を取り戻していく。だが…
 映画『マイ・ボディガード』(2004)の原作。全般的に言えばあんまり評価の高くない作品のはずだが、私は大変気に入り、すぐに原作を購入…読むまで時間がかかったけど。
 これは映画とは全然別物なので驚いた。映画の方は先ずキャラクタありきで、そこから設定を作っていった事がよく分かった。ダコタがイタリア人には見えないので舞台をイタリアからメキシコに持って行き、ワシントンがアフリカ系だったから、フランス傭兵からCIA特別班に移されているとか、その辺の事情がよくわかった。
 本作は4部に分けられており、それぞれが全く違った描き方をしてるのが面白いところで、特に3〜4部では、ほとんど人間兵器と化したクリーシィを直接描くのではなく、一見エリートで、趣味人のサッタという刑事を傍観者としての主人公に据えたことで、良い味を演出してる。この3〜4部は描き方を間違えると大藪春彦になってしまうため、これで良かったんだろう(笑)
燃える男
05'04'05 おとなになる旅 (著)澤地久枝 <amazon>
 記録小説家として、これまで働きづめだった著者が、長期休暇を前に自分の甥や姪に対し、自分の子供時代の事を思い出として語る形式の自伝的作品。
 戦中の子供を描く作品なのだが、戦争内の自伝というのは、何を読んでも嘘くさいというか、全部同じにしか見えてこない。多分これは戦争の中で、「戦争は嫌い」という姿勢を無理矢理だそうとした結果なんだろう。それが本当かどうかは別として。この人の記録小説は冷静で面白いんだけど、いざ自分のことを書いてみると、なんかありきたりに見えてしまうのがなんか悲しい。
おとなになる旅
05'04'03 海馬 (著)吉村昭 <amazon>
 著者による動物と人間との交わりを主軸とした短編集「闇にひらめく」(鰻)、「研がれた角」(闘牛)、「螢の舞い」(螢)、「鴨」(鴨)、「銃を置く」(羆)、「凍った眼」(錦鯉)、「海馬」(トド)の7編を収録する。
 積ん読に置いてあった作品で、著者は初めてだったが(映画では『魚影の群れ』(1983)を先日観て、それで興味を持ったため)、物語の構成そのものは全部同じ。とは言っても、そこに動物を絡めることで、一つの味が出来てるのは確か。まだ何冊か積ん読に置いてあるので、そのうち他のものも読んでみよう。
05'04'01 のほほんだけじゃダメかしら (著)大槻ケンヂ <amazon>
 著者が身の回りにいる様々な特殊な立場にある女性達にインタビューを行い、その様子を綴った作品。筋肉少女帯の追っかけ、女子プロレスラー、SMの女王様、UFOを見たと主張する女性、DVを受け続ける少女、そして著者自身の母親…それぞれの、その時に持っていた人生観を描く。

 そう言えば最近著者はNHKでよく対談を行っているが、それを見て思うのは、腰の低さと、聴き上手と言うこと。自分を出さず、知識だけ呈示して、それを語らせると言う術に結構長けている。著者自身のパッションではなく、他者の人生を覗き見る事が結構好きなんじゃ無かろうか?本作も結構面白い。
<A> <楽>