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特撮事典

楳図かずお

蛇娘と白髪鬼


1968年
 孤児院で寂しく過ごしていた小百合は、突然自分が南条家の娘であることを聞かされ、両親の待つ家に行くことになった。だが、そこにいたのは自分を娘と思ってくれない母夕子と、それを助長するかのようなお手伝いさんのしげだった。唯一彼女に優しくしてくれた父吾郎は毒蛇の研究のために、アフリカへ出かけねばならず、小百合は孤独なまま屋敷に残される。その中で健気に母に接する小百合だったが、どうもこの屋敷には秘密があるらしいことを知るようになる。案の定、この屋敷には秘密の部屋があり、そこには小百合の姉、タマミが住まわされていたのだ。タマミは幼少の頃に毒蛇に噛まれたことが原因で、体中に鱗が生えてしまうようになったのだ。そして吾郎がいなくなったことで屋敷にでることができるようになったタマミは事あるごとに小百合に意地悪をしてくる。しかも夜な夜な小百合の前には真っ白い髪をした鬼面の女性の姿が…
 楳図かずお原作の漫画の映画化作品。『妖怪大戦争』との併映のため急遽作られた作品で、予算の都合上、モノクロ映画となってしまったが、実際の話、『妖怪大戦争』と合わせて考えてみると、
こちらの方が怖いのは事実。
 楳図かずおの漫画は怖いながら読んでると引き込まれてしまう感じがして、子供の頃は読みたくない読みたくないとか思いつつも、ついつい読んでしまって、夜眠られなくなってしまうということを繰り返したものだ
(小学校で流行ったもので、色々貸してもらった)。その辺が楳図作品の醍醐味というやつなのだが、今から考えてみると、この人の作品はお化けが出てくるのが怖いのではない。主人公が追いつめられていく課程が丹念に描かれているところが一番怖いのだと思う。つまり、ここでの怖さというのは、人間の本性に関わることであり、就中一番怖いのは人間に他ならないという結論が一番の醍醐味なのだろう。
 本作も一応特撮部分が多用された作品ではあったが、実際の怖さはやっぱり追いつめられていく主人公小百合の過程に他ならない。しかも小百合が健気なだけに、とても可哀想になってしまう…そうなんだよな。この作品の場合、怖いより、痛々しいというべきなんだろう。
 ホラーの怖さの演出というのは、こういう方法もある。

 

しげ 白髪鬼
【しげ】
 南条家のお手伝いさん。かいがいしく夕子に仕えているが、その実はタマミを通して南条家を乗っ取ろうと画策していた。白髪鬼の正体。 甘崎
南条吾郎
【なんじょう-ごろう】
 南条家家長。高名な学者で、毒蛇の権威。実は蛇娘となってしまったタマミの体をふつうの体に戻すために苦労していた結果だった。苦渋の選択の結果、小百合を家に戻すのだが、それがさらなる悲劇を呼んでしまう。 甘崎
南条小百合
【なんじょう-さゆり】
 孤児院で過ごしていた少女。実は南条家の娘で、故あって家から引き離されていたことがわかる。だが、家に帰ると、母や姉から激しい折檻を受けるようになる。健気で気丈な少女で、迫害にも負けないが… 甘崎
南条タマミ 蛇娘
【なんじょう-たまみ】
 南条家養女。娘を失ったと思いこんで半狂乱になった夕子を慰めるために養女にしたが、蛇に噛まれて蛇女になってしまう。本物の娘小百合が戻ってきたことで、自分の立場が脅かされることをおそれ、小百合を迫害する。白髪鬼に協力していたが、自分のしていることの恐ろしさに気づき、白髪鬼を止めようとした結果、二人で屋根から落下して死亡する。 甘崎
南条夕子
【なんじょう-ゆうこ】
 南条家の嫁で、小百合の母。小百合を出産した直後に病院が火事になり、娘を失ったことで精神に異常を来し、引き取った蛇娘のタマミを自分の娘と思いこんで溺愛している。 甘崎
白髪鬼 しげ
【はく-はつ-き】
 南条家に夜な夜な現れる白髪鬼面の女性。この姿で小百合をパニックに陥らせ、さらに殺人を繰り返す。正体は南条家お手伝いさんのしげで、タマミを通して南条家を乗っ取ろうと画策していた。最後はタマミと共に屋根から落下して死亡。 甘崎
【はやし】
 孤児院で働いている青年。小百合からは「お兄さん」と呼ばれていた。実家に戻ったものの、虐待されていた小百合を不憫に思い、共に真相解明に乗り出す。 甘崎
蛇娘 南条タマミ
【へび-むすめ】
 タマミのこと。幼少期に毒蛇に噛まれたことが蛇女になったと本人は言っているが、実際のところは、なぜ蛇女になったのか謎が多い。 甘崎