ダロス

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リメンバー・バーソロミュー

 21世紀末。地球連邦政府は月面開発に乗り出し、幾多の苦難を経て開発に成功。月の裏側に巨大都市「モノポリス」を建築した。月に眠る豊富な資源から、地球は恒久的繁栄が約束されるのだが、一方で月面開拓者の子孫たちルナリアンは自由が束縛され、あたかも奴隷のような扱いを受けていた。そんな中、モノポリスを訪れた地球政府要人の令嬢メリンダ・ハーストの誘拐騒ぎが起こった。月移民三世代の青年シュン・ノノムラはその騒ぎに巻き込まれて統括局に逮捕されそうになってしまう。そんなシュンを救ってくれたのは、移民の解放をうたうテロリストのドグ・マッコイだった。
 日本初のオリジナルビデオアニメ作品として登場した本作。実際はテレビシリーズとして企画されたものだったのだが、企画そのものが没となってしまったものを監督の鳥海永行が意地で出そうとした結果だとか。
 本作の静かに、そして不穏に始まる。一見秩序が守られた未来社会だが、そこには根強い差別構造があり、いつ全体的な暴動が起こるか分からない状況。暗躍するテロリスト集団に、地球政府はますます弾圧の手を強めているという状況。テレビでやるにしては確かに不穏すぎる。
 だけどその枷を取り払ったお陰で大変大人向きの物語に出来た。重くはあるが、それだけ見応えもある。
 いわゆるノンポリの学生が何故テロリストに惹かれるのかというのも(たぶんスタッフの中にそういう世代の人が多かったのだろうが)丁寧に描かれているのでかなり好感度は高い。

ダロス破壊指令!

 地球政府の高官の娘メリンダ・ハーストを誘拐した過激派ゲリラは統轄局に交渉のテーブルに就くよう要求するが、軍長官のアレックス・ライガーはそれを拒絶し、軍隊を差し向ける。ゲリラリーダーのドグは更なる武装闘争に踏み込み、各地に甚大な被害をもたらす。業を煮やしたアレックスはゲリラの本拠地となっている巨大な顔のような人工遺跡ダロスを破壊するよう命令する。
 ようやくタイトルに出てきた「ダロス」が登場。とは言え、それが一体何なのか分からない。月の裏側にある巨大な顔を模した廃墟というだけ。しかも説明はほとんどないというのが面白い。でもそれが訳が分からないものだからこそ、信仰の対象として成り立つという考え方が面白いし、それが革命の旗印になるのも興味深い。実際の革命というのはこんな神秘も重要で、アクションアニメのような体裁を取っていながら、実はかなり哲学的な作品となってる。
 その分これが一般的な作品ではないことが余計際立ってしまった訳だが、これがOVAの最初だったことは逆に良かったのかもしれない。
 ちなみに不思議な話だが、1話ではなく2話の方が先に発売されるという珍事が生じたことでも知られる。

望郷の海に起つ ACT1

 シンボルであったダロス破壊によって怒りが頂点に達したモノポリスの住民達は次々とデモ隊に合流する。成り行きでメリンダをかくまっていたシュンだが、決断を強いられていく。一方、アレックスは態度を硬化させ、武力制圧を命じる。
 革命家たちはこれまでテロリストと見られてルナリアンからそっぽを向かれていたが、その認識が変わったという描写は、押井氏が高校生だった1970年時点の日本の左翼革命家の理想を描いたことになる。最も上手くいった場合の日本の過去の出来事と見ることもできる。

望郷の海に起つ ACT2

 ドグ率いるテロリストに入ったシュンたちは、市民達の支援もあり、地球連邦政府に対する反乱を続けていた。だが体制を整えた政府軍に徐々に後退を強いられていく。ついに追い詰められてしまうのだが…

 三章で比較的盛り上がり、このまま怒濤の展開になるかと思われたのだが、割とあっけない終わり方となった。月面の人々が目を覚まし、地球に対する反抗が高まったのだが、戦力に圧倒的な差があるため、ゲリラ戦法では限界があって、徐々に押し込められてしまう。これも押井監督お得意となった負け犬の遠吠え的な物語展開となる。
 そして最後にダロスの意味が出てくる。一気に時代を変えるような存在ではないが、きちんと意味があることを示したことを評価したい。
布川ゆうじ(製)
押井守
鳥海永行(脚)
中田浩二
鈴木瑞穂
玄田哲章
池田秀一
榊原良子
佐々木秀樹
鵜飼るみ子
田中秀幸
藤村美樹

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