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特撮事典

ジョン・カーペンター

遊星からの物体X

遊星からの物体X 1982年
ジョン・カーペンター(監)
 冬で閉じこめられかけているアメリカ南極観測隊第4基地に1匹の犬が逃げこんできた。そして何故かその犬を執拗に追いかけるノルウェイ軍用ヘリの姿が。結局その射手は殺されてしまうのだが、何故この犬がそこまでして追われねばならなかったのか、調査を開始する。ヘリ・パイロットのマクレディ(ラッセル)は医師のコッパー(ダイサート)を乗せて、ノルウェイ基地へ向かうのだが、そこは既に廃墟と化していた。尋常ではない隊員の死体の数々。そして地下にあった、何かを取り出したかのような長方形の氷の魂りが発見される。その頃、アメリカ基地では生き延びた犬が変貌を起こしつつあった…
 ジョン=W=キャンベルJr原作
「影が行く」『遊星よりの物体X』(1951)に続く2度目の映画化。元々寄生生物を描いたSF小説だったのだが、『遊星よりの物体X』では、単なるモンスター映画になってしまったため、原作に忠実な映画化を考えていた製作者のスチュアート=ゴードンが、この映画のだ大ファンだったというカーペンター監督と出会うことで企画が始まった作品という。既に『要塞警察』(1976)『ハロウィン』(1978)『ニューヨーク1997』(1981)と立て続けにヒット作を作り出し、B級映画監督としては一級品と言われるジョン=カーペンター監督だが、本作はあくまで原作に忠実に、しかし自分らしさを失わずに作り上げることが出来た、上手く噛み合った作品でもあり、おそらくカーペンター監督作品の中では最も有名な作品だろう(ちなみに脚本にバート=ランカスターの息子ビル=ランカスターが参加している)。
 さて、そしてこの作品だが、これは面白い観方をした作品である。
 テレビで予告番組が流れた途端、当時中学生の私はぶるってしまい、絶対に観るものか!と心に決めた。そこで流される映像はおどろおどろしく、驚かせてやる!的な要素に溢れ、怖いのが嫌いだった私には刺激が強すぎた(たまたまその頃テレビで『エイリアン』(1979)の誕生シーンを観てしまい、食欲と睡眠欲が一気に減退した事もあって、SFホラーはこりごりだった)。
 しかし、長じてくると様々な刺激物も平気になってきた。何よりマンガで様々なパロディが使われているのを観るにつけ、これは絶対に観なければ!と心に決める。

 で、全くの初見で新品のLDを購入して観たという、唯一無二の作品となった(学生時代だったから金無い状態だった)。
 正直な話。これほど
「買って良かった!」と思えた作品は珍しい。私のかつてのLDコレクションの中では最大に鑑賞した作品の一本でもある。

 それでも最初は結構びくびくしながら
(でもディテールに凝ってわざわざ夜中を選んで部屋を真っ暗にして観たんだが)観始めたところ、途中で何故か爆笑。怖い作品だと思って観て、ここまで笑えたというのは、おそらく本作が唯一だし、おそらくもう出てくることもあるまい。ほんと、最高の作品だった。

 で、本作はコメディ・ホラーなのか?と言われるとさにあらず。
本当に怖いのである。
 ただ、その怖さというのは、モンスターではない。むしろ緊張した人間関係の方が遙かに怖い。誰に寄生しているのかが分からず、お互いに疑心暗鬼になって疑いの目で見つめる。しかも恐ろしいことに、寄生された本人でさえ最後まで自分がそうなのか分からないようにも思える。自分自身がひょっとして?と言う疑問が実は最後まで残るのである。事実主人公であるはずのマクレディでさえ、最後の最後、自分が何者であるのか、最後に生き残ったチャイルズに言おうとはしない
(実際は偶然らしいが、ラストシーンでラッセルの吐く息が白くなってないというのも象徴的)
 思えば、この作りは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)にも通じるものがあり、本当に怖いのは“理性的”とされている人間の方である。という事実を端的に示している。他の生き物は目的が明確なので、対処しやすいのだが、対して人間は嘘を言って、とんでもない殺戮を行うこともあるのだから。だからこそ本作は人間の怖さというものを示す面白い作りになっている。
 人間関係が緊張に満ちあふれているからこそ、むしろ観てる側は逆にモンスターが出てきた方がまだマシだ。という心理状況に置かれてしまう。そして期待を裏切らず、コミカルな登場の仕方でモンスターが出てくるので、それがどんな血しぶきを上げるような描写であったとしても、むしろほっとしてしまい、笑ってしまう。この逆転の発想は他の凡百のホラー作品とは明らかに一線を画するもので、だからこそどれほど時間が経過しても本作はホラーの名作として燦然と輝き続けるのだ。

 しかもカーペンター作品に特有のラストのケレン味は本作が一番映えているのも特徴。最後に基地を破壊し、モンスター毎葬ったところで物語は終わるが、残された二人はそこで死んでいく以外道が残されておらず、しかも仮にどちらかが寄生されていて、もし誰かに遺体が回収されたら…最後の最後まで怖い話なのだ。

 ところでここで書きながら一つの疑問が生じた。果たしてカーペンター監督、こんな事まで考えて本作を作っていただろうか?たまたまこういう作品が出来て、たまたま深く考えすぎる私がこんなこと考えてるだけなのかも知れないな。

 

ウィンドウ
【うぃんどう】
 アメリカの南極基地隊員。 甘崎
宇宙生物
【うちゅう-せいぶつ】
 正確な名称は無し。“物体(thing)”とだけ言われている。10万年前に明確に滅びの意志を持って地球へとやってきたが、着地したところが南極だったため、これまで活動出来なかったという、多少間の抜けた存在でもある。 甘崎
クラーク
【くらーく】
 アメリカの南極基地隊員。 甘崎
ゲイリー
【げいりー】
 アメリカの南極基地隊員。ライフルの名手で犬を追うノルウェイ軍人を射殺する。 甘崎
コッパー
【こっぱー】
 アメリカの南極基地隊員。医局勤務。 甘崎
チャイルズ
【ちゃいるず】
 アメリカの南極基地隊員。 甘崎
ノウルズ
【のうるず】
 アメリカの南極基地隊員。 甘崎
ノリス
【のりす】
 アメリカの南極基地隊員。 甘崎
パルマー
【ぱるまー】
 アメリカの南極基地隊員。 甘崎
フックス
【ふっくす】
 アメリカの南極基地隊員。 甘崎
ブレア
【ぶれあ】
 アメリカの南極基地隊員。生物学者。 甘崎
ベニングス
【べにんぐす】
 アメリカの南極基地隊員。 甘崎
マクレディ
【まくれでぃ】
 本編主人公。アメリカの南極基地勤務のヘリパイロット。 甘崎