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クローネンバーグ作品

シーバース


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1975年
デヴィッド・クローネンバーグ(監)
 スターライナー島で大学の教授が19歳の少女を開腹して殺し、自らも喉をかき切るという事件が起こった。医者のロジャーは、流行している腹痛とこの事件の関連が気になり、調査を開始するが、そこで彼が知った事実は恐ろしいものだった…
 クローネンバーグ監督の長編デビュー作。第一作目からもはやジャンル映画に突っ走っていった感があるが、この時点で後の『ビデオドローム』(1982)『スキャナーズ』(1981)と言った監督流の演出は既に確立しているのが凄い。確かに演出とかはかなり安っぽいものの、特に人間の皮膚の下で生物がうごめいているというシーンは、
「おお、やっぱりクローネンバーグ!」と思わせる一方、体中にざわざわと痒みを感じてしまう。
 それと、既にこの作品で監督の作風もしっかり確立されているのも興味深いところ。クローネンバーグ監督作品には常に“科学と社会のあり方”というテーマが出てくるのだが、科学の進歩によって人間は変質していくのが繰り返し語られている。それは良い意味もあるが、当然同時に悪い部分も出てくる。その負の部分を乾いたタッチで描くのがクローネンバーグ流と言う奴だろう。この作品でも寄生虫に寄生される人間の姿が描かれるが、これも政府の陰謀で人の理性を失わせるという隠された目的がある。この辺の設定はそのまんま『スキャナーズ』に流用された設定に他ならないが、本作ではまだその辺は不充分かな?
 不充分になったのは、本作ではとにかくエロが多くて、そちらの方に意識の大半が持って行かれてしまったからだろう。まあ、エロって言っても、あんまりいやらしく感じないのもクローネバーグ流かな?
 なんでもクローネンバーグは本作品の映画化を夢見てコーマンの元を訪れ、そこでブレイク前のジョナサン=デミ(と言うか、『羊たちの沈黙』(1991)でブレイクする前はB級ホラーばっか作ってたけど)と出会い、そこで意気投合して本作の撮影に至ったのだとか。だから当時デミの恋人だったバーバラ=スティールがちょい役で登場してる。更に製作は後に
『ゴーストバスターズ』でブレイクするアイヴァン=ライトマン。地味ながら異様な豪華さが本作の信条。
 名作とは言わないまでも、
SF好きには一見の価値がある作品だろう。

 

寄生虫
【きせい-ちゅう】
 名前がついてない寄生虫。政府管轄の研究施設で培養されていた、人体の内臓の代わりとなる寄生虫で、巨大なウジ虫のような姿をしているが、一見真っ赤なクロワッサンのように見える。これに寄生されると知能が減退し、リビドーが高まってしまい、性行した相手に寄生虫を感染させてしまう。 甘崎
スターライナー島
【すたーらいなー-とう】
 モントリオール近くにある島。寄生虫の研究施設がある。 甘崎
ロジャー
【ろじゃー】
 ロジャー=セント=ラック。スターライナー島の医師。島で流行している謎の腹痛の原因を探す内、政府の陰謀に気付いていく。 甘崎

 

ビデオドローム


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1982年
デヴィッド・クローネンバーグ(監)
 暴力とセックスを売りものにしているテレビ局の社長マックス(ウッズ)は、自分の局で放送する刺激的で過激な番組を探していた。そんな時、海賊放送を探していた友人が偶然電波を傍受したというビデオを紹介する。その番組のタイトルは、「ビデオドローム」。拷問と殺人が延々と繰り広げられるその番組のリアルさと迫力に魅了されたマックスは、早速番組の出所を探るが…
 前年
『スキャナーズ』で多くのホラーファンを魅了したクローネンバーグ監督が作り上げた、不条理なホラー作品で、公開と同時に物議を醸し、特にビデオ化されてから、あっという間にカルト化されたという、ある意味伝説的作品。
 今や一級監督として数々の映画賞の常連となったクローネンバーグ監督だが、初期に作った監督作は、そのすべてがカルト作と呼ばれるものばかりで、特にホラー映画に関しては、作風の信奉者も数多く存在する。クローネンバーグの作る作品はホラーとカテゴライズされるものが多いが、むしろ低予算特撮と言った風情。一般人にも分かるようなきちんとした作品を作るようになった現在とは隔世の感がある。
 しかし、私に言わせれば、
監督の作る作品は全然変わってない。初期のころからクローネンバーグは物質的なものよりも精神的なものを徹底して撮り続けているし、悪夢的世界の中から物語を紡ごうとしている姿勢は一切変化したとは思ってない。この世界に入り込むには一種の背徳感と覚悟を必要とするし、観ている間は三半規管が警告を発し、終わっても酔ったような気分になってなかなか現実世界に戻ることができない。と、悪夢映画好きにとって至福の時間が得られる。私にとって、もっとも貴重な映像作家の一人だ。

 それで本作は監督の初期のころのカルト作と言われるが、それはよく理解できる。何せ何度観ても話がわからないのだ。大まかな物語は分かるとしても、話に整合性はないし、いったいなぜ主人公はそういう考えに至ったのか、過程を一切無視しているので、行動様式が理解できない。しかも一応本作はホラーと言うことになっているが、実際の話、内容で怖がらせようとしている演出は一切ない。その代わりグロテスク描写はてんこ盛りで出てくるので、
一見ただ気持ちが悪いだけに思えてしまう
 しかし、少なくとも、観るべき人間にとって、本作はたまらない魅力を持った作品には違いない。

 さて、それで本作の魅力とは何だろう?
 クローネンバーグ作品に共通しているのは、ある意味で心理的なレイプ作品と言ってもいいだろう。自分が嫌悪しきっているものに肉体が侵食され、それを快感として受け取ってしまう自分の身体。おぞましい快感をとめどなく与えられ、やがて精神がそれに屈して受け入れていく。受け入れたら受け入れたで確実な地獄が待っているのだが、それでもそうせざるを得ないという人間の精神状態というものを描こうとしているかのように思える。すべての作品においてその傾向は見られるが、本作には特にそれが強く感じる。だから、内容はぐちゃぐちゃドロドロのホラー作品にも関わらず、まるで怖さを感じない。
“変態的なホラー”作品ではなく、倒錯的な快感を描いた“単なる変態”作品なのではないかと思える。
 本作に限ってのことではないが、本作の描写による変態性は、機械と人間が融合するところにあるかと思われる。本作の主人公ウッズはビデオドロームを観続けることで脳に腫瘍ができると説明されているが、それによって何が起こったかと言うと、ビデオデッキやコルトと体がくっついてしまう(と言うより完全融合で、機械としての機能を完全に保持しつつ、全部肉に置き換わってる)。ましてやテレビ画面とキスしてるうちに顔がめり込んでしまうとか、機械とくっついてしまう描写が特に多く、機械によって体や精神が侵されていくという、相当に変態的でフェティシズムな作品であるということになる。
 機械と人間がくっつくことを性的快感として考えるなんてことは、普通考え付かないだろうけど、たとえば塚本晋也監督の
『鉄男』なんかに観られるように、そう言ったフェティな人間だって世の中には存在するのだ…少なくともこんな作品を“ポルノ”として観てしまう人間がここに一人はいるわけだから。

 

オブリヴィオン
【おぶりう゛ぃおん】
 メディア学を掲げる大学教授。実はビデオドロームの製作者。 甘崎
ニッキ
【にっき】
 ラジオDJ。ビデオドロームの噂を聞き込み、その真相を探ろうとする。 甘崎
バリー
【ばりー】
 時計屋。実はビデオドロームを配布していた総元締め。 甘崎
ビアンカ
【びあんか】
 オブリヴィオン教授の娘。ビデオドロームの恐ろしさを一番知っている存在だが、そのビデオドロームを頒布している張本人。 甘崎
ビデオドローム
【びでおどろーむ】
 深夜に流される海賊版のビデオ。拷問と殺人が延々と繰り返されるという番組だが、これを観た人間の脳内には腫瘍が生じる。 甘崎
マックス
【まっくす】
 暴力とSEXを売りとしたケーブルテレビの社長。過激なビデオを探している内にビデオドロームにぶつかる。 甘崎