エルム街に住む5人の若者は毎晩不気味な男に追いかけられるという同じ悪夢にうなされていた。それまでは夢から覚めることで恐怖から逃れていたのだが、その男はだんだん近くまで迫ってきており、ついには夢を見たまま現実の身体が引き裂かれるという事態に陥ってしまう。自分達が同じ夢を見ていることを確認し合った5人は、その夢に出てくる男の正体を探り始める。その中の一人ナンシー(マーラ)は、そこで街の大人達がひた隠しにしているフレッド・クルーガー(ヘイリー)と言う男の存在に行き当たる…
名作ホラー『エルム街の悪夢』のリメイク作。製作は2000年代になって『テキサス・チェインソー』、『13日の金曜日』を次々にリメイクしてきたマイケル・ベイで、フレディ役を『ウォッチメン』で印象的なロールシャッハを演じたアール・ヘイリーに変えた意欲作。
ウェス・クレイヴン監督の名を一躍有名にし、ジェイソンと並ぶホラー界の有名キャラクター、フレディを誕生させた『エルム街の悪夢』から早25年ほどが経過した。その後エルム街の悪夢はしばらく次々と続編が作られ、スピンオフ作品として『フレディVSジェイソン』も作られた。有名なだけあって長寿作品でもある。
その成功の秘訣は、やはりフレディというキャラがたってたことが一番だろうが、その指標となった一作目の演出の良さによるものだろう。いくつも怖がらせるシーンはあるものの、どっちかというと怖さよりも笑いの方に重点を置き、“怖いけど笑ってしまう”というのを、“怖いから笑ってしまう”にしてしまったことがこの作品の最大の特徴付けになったのだろうと思う。先行するジェイソンに対し、これが大きなアドバンテージになり、だからホラー界の二大キャラクタとまで言われるようになったのだ。
そしてそのリメイクである本作だが…
確かに映画単体としての出来は悪くないと思う。抑えの効いた演出と、次々に明かされていく過去の所行。むしろストーリーに関してはオリジナル版よりも深まっているくらいだし、CGの巧い使い方で不自然と自然の垣根を低くしているのも良い具合。
金と演出をたっぷりと使っているので、見所は結構きちんとしてるし、出てくるキャラもかなり良い感じではある。
あまりにはまりすぎていたため、ロバート・イングランド以外では合わないのでは?と思っていたフレディ役をアール・ヘイリーは確かにきちんとこなしてたし(極端に鼻の高いイングランドに対し、ヘイリーは鼻が低いので、なんかカエル顔っぽくなってたけど)、何よりナンシー役のルーニー・マーラが巧い。ほぼ新人のようで、本作で初めてその名前を知ったけど、見事にツボにはまった感じ。何というか、この人、微妙な表情が凄く巧いし、雰囲気に自らをぴったり合わせることを知っている感じで、一つ一つの画面に実によく映えている。
少なくとも、この人を見つけ出せたと言うその一点だけで私は本作を肯定できる。
ただ問題として、本作は忠実なホラー映画としてリメイクしてしまったと言うところ。
先に書いたとおり、オリジナル版が名作足り得たのは、これが怖さだけではないと言うところにある。たとえばジョーズを思わせるバスタブのシーンや、顔をなめ回す受話器とか、むしろこの作品の真骨頂は笑いの要素にこそあった。不謹慎かもしれないが、殺人のシーンまで笑える要素を入れてくれているので、それがサービスシーンとして際だった特徴になっていたのだ。
その最大の売りを無くしてしまったのは大失敗。もっとも肝心な部分を削除してなにがリメイクか。まさしく“仏作って魂入れず”を実際にやってしまったのが本作だったと言える。極端なことを言ってしまえば、本来真面目に作るべきじゃないものを徹底して真面目に作ってしまったために失敗したとも言えるか。 |