19世紀中葉。世界各地の海で次々に軍艦が沈没するという奇怪な事件が起こっていた。生存者は一様に怪物によって沈められたと語っており、列強各国による調査が進められていた。そんな中、米国政府は調査艦の派遣を決定し、そこに海洋学者アロナクス教授(ルーカス)と助手コンセイユ(ローレ)、そして銛打ちの名手ネッド(ダグラス)も、怪物を仕止めんと乗艦していた。3ヶ月にわたる調査では何も見つからず、一同が帰国を決意した夜に、艦は怪物の体当りで沈没した。博士、コンセイユ、ネッドの3人は漂流の末、巨大な潜水艦に助けられる。実はノーチラス号というこの潜水艦こそが怪物の正体であり、その艦長であるネモ船長(メイソン)は三人を捕虜とする。アロナクス教授をよく知るネモと教授は徐々にうち解けていくが、一人ネッドは、なんとしてでもこの艦を脱出してやろうと孤軍奮闘を続けていく…
ジュール=ヴェルヌによる傑作海洋科学小説をディズニーが映画化。で、ディズニーにとってはシネマスコープ劇映画の第1作作品。
この小説は私にとっては大変思い入れのある作品で、子供の頃に買ってもらった大きな児童書を繰り返し繰り返し読んで、細部に至るまで頭の中で構築されていたものだ。
その後、だいぶ経ってから本作を拝見したが、意外なストーリー展開に驚かされた。私の記憶ではもっとネモとアロナクスの交流がちゃんとあって、その二人の関係が主軸となっていたと思ったのだが、ここではむしろネモ艦長はほぼ悪役。むしろ物語の中心は銛打ちのネッドの方で、終始一貫ノーチラス号から逃げようとしたネッドの方が正しいように描かれていた。
それが悪い訳じゃない。むしろこういう描き方も出来るんだな。と感心したくらい。確かにネモを中心にヒーロー性を強調するだけでなく、彼の地上に対する怨みを主軸にして、冥い怒りを描くことも映画では可能なのだ。だからかえってここに出てきたネモ艦長はますます格好良く見える。情け容赦なく列強の軍艦を撃破した時の果断さと良い、そこに溢れんばかりの意志の力と、ねじ曲がった性格描写が観られる。『白鯨』(1956)のエイハブ船長のようでもあるが、より強い力を持った男の凄まじいまでのパワーを感じさせてくれた。ジェームズ=メイソン一世一代の名演だった。ヒーロー然としてないネモってのも魅力があるものだ。ディズニーが作ったというにしては、随分暗い内容に仕上がってた。だからこそ、ネモと逆のベクトル、つまり“生きる”事を肯定するネッドを主人公格に格上げする必要があった訳だな。TVアニメの『ふしぎの海のナディア』に登場するネモ船長は原作よりはこちらの方がベースとなっている気がする。
一方、視点がそう言う形で取られている分、ネモの優しさや、艦内の人間の描写などがオミットされてしまったのはちょっと残念。それに原作では主人公のはずのアロナクスが今ひとつ個性が見られないのも勿体ない所。
特撮に関しては、惚れ惚れする出来だ。特に大イカとノーチラス号の戦いは単に機械対生物にとどまらず、海水に溺れそうになりながら、人間が銛とか斧とかで触手と戦っていくのもアナログ特撮の最高峰!と言った感じ。特にイカの造形と動きは、特撮ファンには感涙もの。このイカは油圧や空気圧などで動く重さ2トン、触覚が15メートルあるもので、操作には28人も要する大掛かりなもので、ここでのイカとノーチラスの戦いの撮影は難航するものの、素晴らしい出来で、スピルバーグ監督は『ジョーズ』(1975)を撮影する際、「名前は知らないけど海底二万哩」のイカを手がけた人物を雇ってくれ」と言ったとか。
単なる特撮というのではなく、カリスマ性を持ったネモという人物を見るためにも。絶対お薦めできる作品。 |