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特撮事典

宇宙の旅

2001年宇宙の旅


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1968年
スタンリー・キューブリック(監)
 月面で見つかった謎の物体。モノリスと名付けられたそれを発掘した途端、強力な電波が土星に向かって放射された。その電波を調査するため、宇宙船ディスカバリーが派遣される。航海途中でコンピュータに不審な点を見付けた船長ボーマンは、船の徹底的な捜査を行うことを決定する。だが、その意図を知り、自分が不審を持たれていることに感づいたディスカバリーのコンピュータ「HAL」は…
 1968年は映画史においても画期的作品が作られていることで知られるが、その中でもとびきりの作品。何から何まで画期的な作品だったことで知られる作品。この作品によって以降のSFムーブメントそのものが変化し、更に撮影技術の面から映画が語られるようになったのも本作からである。ただし、それは売れることには直結せず、莫大な製作費を回収するまで5年もの年月がかかり、更にこの興行的失敗によって製作会社はSFに二の足を踏むことになるという負の遺産をも残してしまった。早すぎた傑作だった訳である。
 私にとって映画とは何か。と尋ねられたら、
まず最初にこの映画を観たときの衝撃を語ることになるだろう。そう。この映画こそ、私が映画にのめり込むきっかけを作ってくれた最初の作品である(既にアニメについては『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)があったけど)。少なくとも、数多くSF作品を観てきて、これほど難解でしかも引きつけられる作品は他にはない
 本作は難解そのものであり、一回観ただけでは何がなにやら分からないもの。私にとっては、たまたまリバイバル映画で劇場で本作を観て、なにやら分からない衝撃を受けた後、ビデオを観て、と小説を読むことで、やっとある程度まで理解できたと言うだけに過ぎない。
 冒頭の猿人が道具を使うシーン、骨を宇宙に放り投げ、それが宇宙船になるシーン。冒頭部分は我知らずもの凄い感激を覚えたものだし、本編最初の食事シーンに始まり、途中の緻密な宇宙船描写やウィットの利いた会話など、そしてあの衝撃のラストと映像の流入も、最早関心の領域を越え、感動の範疇に入っている。宇宙船の理に適った構造も、随分後になってから知ったものだ
(この映画の訓練風景をNASAが参考にしたと言う笑い話もある)。特撮部分の予算は膨大なもので、なんと650万ドル。総製作費の60%以上だったという。
 本作品を俯瞰すると、二つの事件が並行して起こっていことが分かる。モノリスに始まる地球外知的生命体とのファースト・コンタクトもの
(正確には違うけど)と、コンピュータの反乱もの。この二つの一見別々に見えるストーリーが絡み合っているのだが、その指向は「知恵」と言うキー・ワードにまとめられていることに気付かされる。
 本作品はアーサー=C=クラークの書いたプロットをキューブリックが自分なりにアレンジして脚本化し、更にそれをクラークが小説にしている。結構複雑な経緯で映画と小説が出来ているのだが、実はこれは相互補完する形で作られている。
映画で分からない所は小説で。と言う形を取っているので、映画単体として観るだけでなく、小説を読んでこそ、本当にこの映画観た。と言えるだろう。考えてみればメディア・ミックスの本当に最初の作品なのかも知れない。色々な意味でエポック・メイキングだった。
 この映画でいつまでも印象に残っているのは、本編最初と最後に出てくる食事シーン。「本物に近いですよ」というあの食べ物がどんな味なのか、ずーっと知りたかった。それにあの真っ白い部屋でのボーマンの孤独な食事風景。見事にはまっている。
 ちなみに公開当時、ボーマンの見た映像流入シーンは、特にヒッピー連中に受け入れられたそうだ。何でも
LSDをキメてあの映像を観ると、トリップできるそうで。妙な使われ方をしたもんだ
 この当時としては画期的すぎるこの映画
(撮影も、それまでリア・プロジェクシェンと呼ばれている、俳優の後ろにスクリーンを置いて、裏側から背景を投射する方法を敢えて採らず、前から投射した映像に人間(この場合猿だが)を重ねるフロント・プロジェクション方式を採用している)は、多大な金額を用いることになったが、一番最初にここまで完璧なものを出されたとあっては、後の映画人が大変だっただろう。
 SF作品はどうしても説明過剰となる傾向があるが、ほとんど一切の説明を省き、視聴者に委ねて、しかも傑作となった本作に敵う作品は存在しないと断じて良かろう。
 最後に、冒頭の質問
「私にとって映画とは何か」という問いに敢えて答えるならば、「衝撃だ」と答えよう。この映画で受けた衝撃を忘れないように。
 徹底した秘密主義で知られるキューブリックだが、それは本作から始まったようなもので、本作公開までは一切の写真を公表せず、3点のイラストだけで宣伝を行ったと言うことでも知られている。又、本作はいくつものバージョンで知られるが、今現在観られる最も長いのは143分(これが現在のスタンダード)だが、たった四日間、ワールド・プレミア上映されたバージョンはなんと171分あったという。
 裏話になるが、本作のアート・ディレクターにキューブリックは日本の手塚治虫を指名した。だが、丁度その頃虫プロ経営が大変な時期で
(事実その後倒産してる)、丁重に「残念ですが、私には260人ほどに食べさせねばならない責任があるので」と断ったそうな。勿体ない話だが、これには更に続きがあり、キューブリックから「そんなにたくさんのご家族がいるとは知りませんでした」との返事が届いたとか。

 

スターチャイルド
【すたー-ちゃいるど】
 映画ラストに登場する宇宙に浮かぶ巨大な胎児。映画を観てるだけだと先ず分からないが、続編の『2010』でこれが行方不明となったボーマン船長であることが発覚する(原作でも分かる)。映画史に残るこのセンセーショナルな描写は数々の引き合いに出され続ける。 甘崎
ディスカバリー号
【でぃすかばりー-ごう】
 月のモノリスに信号を送っている木星付近の調査のために建造された新造艦。HAL9000を搭載する。 甘崎
HAL9000
【はる-きゅうせん】
 宇宙船「ディスカバリー号」に搭載された高性能コンピュータ。まるで意志を持ったかのようなコンピュータで、ロボット三原則を無視し、人間を排除までする(原作でも真相は明らかにされていないが、何者かによってそう仕向けられた)。元々の設定では「アテナ」と名付けられ、音声も女性が吹き込むことになっていたのだが、やがて「ソクラテス」となり、最終的に「HAL」となった。 甘崎
ブール
【ぶーる】
 フランク・ブール。ディスカバリー号乗務員。HAL9000の叛乱にいち早く気づくが… 甘崎
ボーマン
【ぼーまん】
 デヴィッド・ボーマン。ディスカバリー号船長。乗組員全員を失った後、単独でモノリスと接触するが… 甘崎
モノリス
【ものりす】
 人類が月面で発見した真っ黒いかまぼこ板(いや、本当に対比サイズは同じ)。1:4:9の黄金比率を持った立方体。実はこれは人類がどの程度の文明に達したかを計るために何者かが置いたもので、サイズは違うが土星にも同じものが浮かんでいた(文明黎明期には地上にもあり、後に木星にも発見される)。通信機であり、それ自体が思考を持つとも言われる…結局は人類が推し量ることが出来ない謎の物体である。 甘崎