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ファンタズム

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1979年
ドン・コスカレリ
 両親を早くに亡くし、兄のジョディ(ソーンベリー)と暮らしている13歳の少年マイク(ボールドウィン)。ある日ジョディの悪友で遊び人のトミーが何者かに殺され、その葬儀の際、マイクは異常に背の高い男(スクリム)をみかける。その男“トールマン”が葬儀の後、棺をどこかに運び込む姿を目撃してしまったことから、マイクの周囲には悪夢のような出来事が起こるようになっていった…
 かなり寡作な監督であるコスカレリ監督の出世作であり、その代表作と言われる作品。特にホラー関係では本作に登場する球体は大変な人気で、これを生み出した。と言うだけでもB級映画史に燦然とその名が残る作品でもある
(その後どんどん質を落とした続編が出てくるわけだが)
 ただし、本作の売りは球体だけではない。と言うより、あれはあくまで味付け程度。本作の本当の面白さと言うのは、思春期の少年の見る夢についての描写の面白さにこそあると言っていい。
 実際本作は名作(?)と言われるだけあって、ホラーとしてもかなり特異な位置づけにある。なにせ、ストーリーがあんまりにも脈絡がないため、ストーリーを解説しようにも、まともに説明できないのだ。
 なんでもこれは、コスカレリ監督が前に見た悪夢をそのまま映画にしてしまったということなので、脈絡がないのも当然と言えば当然の話。つまり、本作は純粋な意味での悪夢映画なのだ。
 それで悪夢映画大好き人間の私としては、やっぱりこれは捨てがたい。

 ただ、この着眼点はとても面白い。単なる悪夢ではなく、“思春期の悪夢”という設定が何より良い。こどもが大人になると言うことは、肉体的に大きな変化をもたらす時であり、この時に肉体の変化に伴い、精神も随分と変わっていくものだ。具体的には、これまで“善”とされていた価値観に疑問を覚え、全く逆の価値観に傾倒していったり、自分自身があたかも世界を支配しているような気分にさせられる一方、圧迫され、あたかも世界に一人っきりのような気分にもさせられたりもする。その発露がいわゆる中二病などと呼ばれたり、陰湿ないじめ行為に走っていったりもするわけだが、本作の脈絡のない物語展開は、まさしくそういう世代の不安定さそのものを示しているかのようだ。大人になると恥じて捨ててしまう部分をコスカレリ監督は大切に取っておいたのだろう。それだけでもクリエイターとして大した人物だ。仮に中学生あたりがこの作品を観たりしたら、精神が同調してしまって相当気持ち悪い状態になってしまいそう(というか、そういう人を何人か知っている)。
本作はホラーではあっても、とてもセンチメンタルな作品でもあるのだ

 そしてその意味のなさが逆にホラーとしての完成度を高めているのも事実。無意味に殺される人間や、しんだはずの人間が、モンスターのようになって生き返ってみたり、理由もなく怖いものに追いかけられてみたり、極めつけにあの金属球の恐怖もあり。ホラーとしてもなかなか優れてる。これまでが全部夢ではなかったか?という夢オチのような、全くそうでないような、ラストシーンのひねりもなかなか楽しい。

 ただ、コスカレリ監督が
そこまで考えてこれを作ったかどうかは疑問で、単に作りたいように作ってみたら、いつの間にか完成度が高くなってしまった。というかんじじゃないだろうか?

 そうそう。先日この金属球が何故ここまで滑らかに動くのか、ようやく知ることが出来た。あのカーブを曲がって襲い掛かってくるシーンなんかは、どうやって撮影したのか全然わからなかったのだが、あれは何でもセットを横向きに作り、そこに金属球を投げて、それを逆回転させただけとのこと。アイディアの勝負だったんだな。

 
金属球
【きんぞく-きゅう】
 正式な名称は不明で、銀球、殺人ボールなどとも呼ばれる。トールマンが用いる手のひらに乗るサイズの銀色の球体。人間の頭にくっつき、ドリルで頭部を破壊する。 甘崎
ジョディ
【じょでぃ】
 マイクの兄。弟が命を狙われていることを知り、謎の究明のためにマイクとともにトールマンに立ち向かう。 甘崎
トールマン
【とーるまん】
 極端に背が高い老人。墓場で死んだばかりの人間を掘り出しては、おかしなモンスターを作り出し、更に謎の金属球を使って人を襲う。 甘崎
トミー
【とみー】
 ジョディの悪友。墓場で女性と性行為を行っていたところ、女に殺されてしまう。 甘崎
マイク
【まいく】
 13歳の多感な少年。墓場荒らしの現場を見てしまったことがきっかけで謎の人物から命を狙われることになる。 甘崎
レジー
【れじー】
 ジョディの悪友。 甘崎