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紅茶の話1

紅茶の話 その2  私が好む、と言うより、専ら愛飲している紅茶の葉はキーマン(keemun)と呼ばれるもの(キーモン、キームンとも呼ばれる)。中国産の紅茶である。産地は安徽省の祁門(きもん)県。
 中国のお茶で有名なものに烏龍茶があるが、あれは青茶と言われる半発酵茶で、同じ葉を使っていても完全発酵させたものが紅茶となる。
 紅茶の産地は世界各国にあるが、その中でも最高峰と呼ばれる紅茶の産地は三つある。スリランカのスリランカ茶(セイロン茶と言う名前の方が有名)。インドのダージリン茶。そして中国のキーマン茶。この三つ
だが、今ひとつキーマン茶の知名度は低い。
 確かに香りはちょっとばかり生っぽいクセのある感じだし、飲み慣れないと味にも不満を覚えるだろう。(これは決して紅茶そのものが悪いのではなく、この紅茶に砂糖やクリームを入れようとする輩がいるからだ)だけど、飲み慣れると、そして一度でも完璧な味が出せると病みつきになる味となる。
 日本ではどこにでも売っていると言うわけではないが、注意深く捜せば結構見つかる。メーカーも様々。色々味わってみるが、どれが飛び抜けて良い。とは言えない。トワイニングスの「プリンス・オブ・ウェールズ」のファインは値段も手頃でかなりおいしい。ハロッズのものはやや癖が強いが、喉ごしは小気味よいほど。フォートナム・アンド・メーソンは高いが味としてはオーソドックス。ロイヤル・コペンハーゲンも高いが、これはお勧めできない。フォションはかなり上質。リッジウェイは可もなく不可もなく。と言ったところか。他にも二、三味わったが、メーカーの名前を忘れてしまった。他にも横浜の中華街で祁門直販。と銘打った中国産のものがあり購入したが、これは不味かった(でも、これをどうおいしく飲むか、色々試行錯誤繰り返したので、一番印象に残ってる)。
 一度吉祥寺にある専門店に入ったら、100グラム4,500円というのを発見。その時は金を持っていなかったので購入できなかったが、一度は飲んでみたいものだ。
 鹿児島には紅茶専門店があり(前は喫茶も出来たのだが、現在は閉鎖中。これは惜しい。もっと色々な紅茶を味わってみたかった)、現在はもっぱらそこで購入している。これはフランスの会社。勿論良質の紅茶は独占的にイギリス管理で作られるので、そこから一旦輸入してから出しているらしい。ここでの紅茶の種類の豊富さはかなりのもので、200種類以上あるそうな。内キーマンは2種類。ちょっと混ぜものをした方が味としては上。又、ここで初めてラプサンスーションという、やはり中国産の紅茶を飲んでみた。これはキーマンを凌ぐクセを持つ。まるで燻したかのような強烈な香りがする。ただ味と喉ごしはなかなかのもので、こいつにはまるとキーマンでさえくすんでしまうかも知れないとさえ思われる。病みつきになる可能性を秘めたお茶である。

 調べてみたら、ネット販売では意外によく売られていることが分かった。わざわざ「祁門県から輸入してます。」と言うコピーがあったりして、見ていても楽しい。その内通信販売のを買ってみようかな。
 
祁門紅茶(及び中国紅茶)
紅茶の話 その3  私の好きなキーマン茶だが、淹れ方そのものは他の紅茶と同じで、ティースプーンに人数分+1の茶葉をあらかじめ熱しておいたティーポットに入れ、そこに熱湯を注ぎ込む(基本的にお湯を作るにはペットボトル入りの水はやめた方が良い。あれらの大部分は硬水であり、茶に合う軟水は少ない。又、製造過程で空気を抜いてあるため、沸騰時に水内部に空気が入りづらいと言う難点もある)。水道の水を用いる場合、沸騰してもしばらく置いておき、カルキを飛ばすようにするのが良い。そして煮えたぎった熱湯をなるだけティーポットの口から離すように、注ぎ込む(これはホッピングと呼ばれる茶葉が元気に動く状態を促すため。このほうが良く紅茶のエキスが出る。この際にやけどをしないように注意)。そして蓋を閉める。ティー・コゼがあればそれを用いるに越したことはない。
 
それから約3分半。(ちなみに私は時計は見ないようにしている。淹れるタイミングや季節によって微妙に時間が違うし、コーヒーより味わいが微妙な分、毎回違った味が楽しめるからである)この際、ティーポット全体に茶葉が行き渡るように、そして茶葉のホッピングを促すためにもティーポットの中に茶漉しを入れないようにした方がはるかに良い。最後にカップの上に茶漉しを置いて注ぎ込む。出来るなら時間をかけ、全ての紅茶をカップに注ぎ込むようにしたい。残った部分に最高のエキスが含まれている。これで美味しい紅茶のできあがりである。
 元々イングランドで大流行した紅茶だが、意外なことにイギリスの水は大概硬水であり、本来なら紅茶はあまりおいしく淹れられない。それをいかに美味く飲むか。そこに努力が必要となる。最も単純な方法として、コーヒー同様クリームや砂糖を落として飲む方法。紅茶本来の愉しみ方とはやや離れていたが、これが英国風の伝統と言われるようになった。日本に入ってきた紅茶の飲み方はこれに則っている。
 しかし、紅茶本来の茶の愉しみ方も英国にはある。先程述べた紅茶の淹れ方は英国風の淹れ方そのもの。つまり元々これは硬水の紅茶の淹れ方なのである。硬水のお茶は冷めると不味くなる。だからいかにお茶を冷やさないか。と言うのが鉄則。茶器をあらかじめ熱しておくのはその為で、しかも「薬缶をポットに近づけるのではなく、ポットを薬缶に近づけろ」と言われるほど、熱の管理に気を付ける。
 日本の水は幸いなことに軟水。お茶に合う水である。そこまでの熱管理をする必要はないのは助かる。
祁門紅茶(及び中国紅茶)
紅茶の話 その4  持論だが、紅茶の楽しみ方は三通りある。一つ目は香り。この香りにおいて群を抜いているのがなんと言ってもダージリン。まさしく芳香と称するに足る素晴らしい香りがする。次がスリランカ(セイロン)、最後にキーマンだろう。やはり中国茶で柑橘系を思わせるアール・グレイと言う強烈な香りの紅茶もある。正直キーマンは決して香りは良くない。やや生臭さのようなものを感じる(慣れればこれも良い香りになるけど)。
 
二つ目は味。これは好みもあり、決してどれがどうとは言えない。ただ、素直な味で加工がしやすく、ストレートでも混ぜても良い。と言う意味で言えばスリランカだろう。日本人が最も慣れ親しんだ味とも言える。ただ、あまりに味が素直なため、物足りなく感じることもある。(そういう人はウバ産のファースト・フラッシュを試して欲しい。かなり評価が上がるはずだ)
 ただ、私は味に関してもキーマンが好きだ。最高に上手く淹れた味を一回味わうと、キーマンが混ぜものをしてはならない。と言った訳が分かると思う。舌ではなく、その奥、喉付近で甘さを感じることが出来るはず。(たった一度だけだが、かなり高級のダージリンでこの味を感じたことはある)
 そして最後の
三つ目は喉ごしである。これに関しては、声を大にして言えるが、キーマンの独壇場。ダージリンであれ、スリランカであれ、香りや味がいくら良くても最後の喉の通りだけ、どうしてもざらついた感触を受ける(本当に高級なものだとこれも少なくはなるが、そういう紅茶って滅多に飲めないし、普通置いてない)。上手に淹れたキーマンの場合、喉をこじ開けるように、しかしなめらかに滑り落ちる熱い固まりの感触を味わうことが出来る。そして更に胸の辺りでほっかりとした余韻を保つ。これはもう、最高の気分である。これは安いのでも比較的簡単に感じることが出来る。初心者でも1缶、若しくは2缶分をひたすら淹れ続ければ、一度くらいは感じることが出来るだろう。
ダージリン
スリランカ
アールグレイ
紅茶の話 その5  紅茶を飲む際、お茶はどんなものを使っているだろう?
 ティーポットに茶葉を入れて…と言うのは少数派で、ティーバッグを使う人が多いのではないか、と思う。
 確かにティーバッグは手軽だし、お茶を飲んだと言う気分にはさせてくれる。
 だが一つ、大きな問題がある。
 先に書いたのだが、何故紅茶には熱湯を用いねばならないのかと言えば、ティーポットの中の茶葉を可能な限り揺り動かすためである。
これをホッピング(若しくはジャンピング)と言う。
 茶葉はぎゅっと押さえつけると、タンニン成分が強く出過ぎて、苦みが強くなる特徴がある。苦みを出さず、必要な旨味だけを取り出す方法として、このホッピングが重要になるわけである。可能な限り茶葉を抑えず、自然にエキスを出すには、熱湯を使うのが一番楽な方法だからである
(最後にぎゅっと茶葉を抑える型のポットがあるが、あれは元々紅茶用ではない。コーヒー用なのだ。紅茶に使うのは間違っていると知って欲しい)
 それでティーバッグだが、ご存じの通り、あれは茶葉が狭いところに閉じこめられているので、ホッピングは起きない。その代わりとして、出来る限り茶葉を細かく砕くことにより、成分を抽出しやすくしているのである。
 だから、同じ銘柄、同じ葉っぱの紅茶を淹れても、茶葉で淹れる場合と、ティーバッグで淹れる場合では、まるで味が変わってしまう。
事実暇なときに並べて試したことがあるから、よく分かる。
 結論から言って、ティーバッグは茶葉には敵わない。最近出回り始めた三角錐型をしたティーバッグもあり、それはそこそこの味がするが、家で飲むなら、少々の手間を惜しまず、茶葉にすべきだ。それでもコーヒーよりは簡単だ。

 ところで、ティーバッグを用いて紅茶を淹れる場合も、やはりちゃんと方法がある。
 まず、よーく暖めておいた空のティーポットにバッグを入れ、そこにおもむろに熱湯を注ぐ。ファミリーレストランで見られるような方法に近い。ただし、重要なことは、完全に抽出が終わるまではティーポットを動かさないようにして、時間を見て抽出が終わったと思ったら、ちゃんとバッグを出すこと。
 
要するに、茶葉で入れる場合と何ら変わることがない。
 カップの中にティーバッグを入れ、ぬるま湯を注ぎ、更に出が悪いとバッグを押さえつけるなど、
言語道断。少なくとも、おいしい紅茶を飲もうという気が少しでもあれば、そんなことをしてはいけない。

 くだらん知識だが、何かの役に立てば有難い。
紅茶の話 その6
 少し前に水の違いを書いたが、これに関してもう少々。硬水と軟水の違いだが、その大きな違いは中にあるミネラル分、殊にマグネシウムの量の違いである。大体地下水は鉱物と接触し続けているので、どうしても金属分がとけ込んでしまう。降水量の少ない地域などでは水は基本的に地下水を利用するので硬水が多くなる。ヨーロッパなどは全土に渡り硬水の地域が多い。
 一方、日本は地下水よりむしろ雨水を飲料として用いるので、鉱分を含まない軟水を基本的に飲んでいる。一方売られている水の大部分は硬水だと思って良いだろう。
 硬水と軟水の見分け方はいくつか簡単な方法がある。例えば硬水は石鹸の泡が立ちにくいと言う特徴がある。これも面倒くさいと言うなら、もっと簡単な方法は水に茶殻を入れてみると良い。放っておいてしばらくすると、黒い沈殿が出来ていればそれは硬水。何も変わらなければ軟水である。これは
硬水に含まれるマグネシウムが石鹸質やお茶のタンニンと結びつきやすいと言う性質による。つまり、お茶の場合、主成分であるタンニンが変質してしまうと言うこと。それ故硬水はお茶には向かない。紅茶はご存じの通りイギリスで大流行したのだが、ここの水は硬水。いかに紅茶に合わない水で淹れて、おいしくするかと言う努力の賜である。

 紅茶好きな私だが、最近になってコーヒーも飲むようになってきた。眠気覚ましが主な理由だが、最大の理由は簡単で、
「まずい紅茶を飲むくらいならまずいコーヒーを飲んだ方がまだマシ」と言うこと。世の中、まずい紅茶ならどこにでもあるものだ。