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紅茶の話6

紅茶の話 その31  最近緑茶を飲み始めた。
 緑茶の良いところは紅茶と違って、一煎だけでなく、二煎、三煎とたのしめるので、食事を終えてビデオなどをのんびり見ながら飲むには丁度良い。紅茶の場合、一回で全ての成分を出し切るので、その分失敗するとやり直しがきかないから、気合いが必要なんだが、緑茶の場合気軽に楽しめる。
 とは言え、今飲んでいる緑茶は日本茶ではなく中国茶。
名間金萱(ミンチェンチンシェン)と言う茶だが、これは茶葉そのものを切断せず、そのままの形で丸めてお茶にするので、お湯を入れると茶葉の形に広がるのが、見ていて楽しい。今度ガラスのティーポット買ってこようかな
 前にもちょっと書いたが、緑茶と紅茶は同じ茶樹から作られるが、その大きな違いは発酵させているかどうかと言う点にある。
 茶葉というのはそのままお湯に入れて飲むことも出来るのだが、摘んで放っておいても自然と発酵してしまう。だから実際誰にでも飲めるようにするにはどこかで発酵を止める必要があり、加工することになる。
 基本的に摘んだ茶葉を適当に乾かした後で熱を加える事で、発酵を止めてしまう。
 ここで中国と日本の違いが出る。
 
日本ではこれを蒸すのだが、中国だとこれを炒る(紅茶も炒るので、中国茶の茶葉の香りは日本の緑茶より紅茶に似てる)
 それで中国緑茶というのが出来る。
 一方紅茶の場合、茶葉を完全に乾燥するまで乾かした上で炒る。これによって完全発酵茶ができあがる。

 この違いは茶葉の厚みになる。
 
緑茶の茶葉は紅茶のものと較べ、厚い(と言うより目が詰まってる)。お湯に入れるとゆっくりゆっくり成分を出すので、何杯でも飲める。
 一方の紅茶の場合、茶葉の目はスカスカになっているので、一気に成分を出し切る事になる。だから基本的に紅茶は一煎のみ。
二煎を淹れることも出来るけど、苦みばかりになるのでご注意を。
 それでゆっくり抽出する緑茶はぬるめの湯で、そして一回で全てを出し切る紅茶は熱湯で。と言うことになるわけだ。
 どちらも淹れ方には技術がいるが、私は緑茶の方は素人。色々と試してみたいな。
金萱茶
紅茶の話 その32  今日はイギリスにおけるティー・ポット及びティー・カップの歴史についてちょっと。
 さすが紅茶の本場と言うだけあって、イギリス製の茶器は世界的にも有名。殊にウェッジウッドあたりの最高級品はもの凄い値段で、日本ではたとえ持っていても使ってないと言う人も多いのではないかと考える
(カップ一脚が数千円から数万円もする)。私は一脚だけロイヤル・コペンハーゲンのティー・カップを持っているが、これをもらったときはそんなに高いものだと思わなかった。それで家に残しておいたら、普通のカップとして家の人間に使われていた(既に欠けていた)。全く。ものの価値の分からぬ輩は…(おめーもだ!)
 で、その茶器だが、元々イギリスというのはさほど陶器については盛んな場所ではなかった。
最初の内、中国から来たお茶だから中国の茶器を使っていた訳だが(実は元々茶器は美術品として輸入されてきた。船便で運ぶ際、その茶器を壊さないために、茶器を包み込む緩衝剤として茶を輸入していた訳だから、全く逆転してしまったというのは皮肉な話)、茶の消費量が上がると、深刻になったのが茶器の不足。
 中国製の茶器は高価だし、何せ数が足りない。とても中国からの輸入ではおっつかなかった。それで最初にイギリスがしたのは、
独自に茶器を製造販売していたオランダから輸入することだった。それで急場を凌ぎつつ、オランダから陶工を呼び、その技術を得ることによって独自の茶器を作るようになったのである。
 それでどこにその工場を置くかと言う段になり、陶器を焼く燃料である石炭を一番手に入れやすい場所としてテムズ河沿いが選ばれた。これは石炭は船で運ばれるので、効率よくそれを活かすため(つい先日知ったが、現代でも同じような工場がある。アルミニウム製造工場がそれ
。アルミの精製は極端なほど電気を使用するので、工場は独自に水力発電を行うことが許されている。それで小さいながら水力発電を工場内に持っているとか。実際電気を買うより発電所をメンテする方が安上がりと言うことになる。燃料と生産のバランスというのは決して馬鹿に出来ない)。
 それでテムズ河沿いには陶磁器の工場が立ち並んでいたそうだ。さぞかし壮大な眺めだったことだろう。
今は博物館として利用されている工場も多いらしい。

 そしていつの間にやら、ロンドン製の茶器は世界的に有名になっていく。こう見てみると、お茶と言うのがイギリス文化に与えた影響というのはとんでもなく大きいものであったことが分かる。
紅茶の話 その33  ネットを巡ってみると結構紅茶好きは多いようで、所々にハンドルネームで出没し、情報交換などをしているのだが、あるサイトで「紅茶は銅の薬缶で沸かすと格段においしくなる」というのがあった。複数の人からその話を聞いていたので、是非とも銅の薬缶を見つけ、それで紅茶を淹れてみたいと思っていた。
 色々と店に行くたびに探してみるのだが、いざ探してみると、なかなか無いものだ。
 それでようやく先日遠出をしたときに見つけ、早速購入した
(5,000円也)

 はやる気持ちを抑え、先ず中を充分に洗って、何度も水を換え、それから改めて水道水を使ってお湯を沸かす。
 …思ったより時間がかかる。
銅ってのは熱伝導率が高いから早く沸きそうなものだが。

 それで今回だけはきちんと時間を計って愛飲している紅茶を淹れてみた。

 なるほど。確かに美味い。なんか口当たりが柔らかいというか、風味が増した感じがするし、紅茶特有のとげとげしさが無くなってる
(表現は難しいが、淹れ方を失敗するとどうしてもこのとげとげしさが残ってしまい、風味が台無しになる)
 キーマンは喉ごしが信条と思ってるけど、それも更になめらかになった感じ。
 買って良かった。

 ただ、何故銅だとおいしくなるのか。と言う点に関しては
科学的にはまだ解明されてないそうだ。鉄瓶だと鉄の微細成分が出てくると言う説明が付くけど、銅もそれがあるんだろうか?それとも保温効果の点で他のものと違っているのか?いずれにせよ、謎だ。
 もちろんこれは人それぞれの好みがあり、銅でなければならないと言うつもりはない。私の今まで使っていた琺瑯引きの薬缶でもタイミングさえ合って、本当においしい紅茶が出来たときはこれに決して劣ったものではない。
 尤も、既にこれで10煎ほど飲んでいるが、おいしく淹れることに成功した回数は琺瑯のと較べて格段に増してる(今のところ明らかに失敗した。と言うのは一回だけ。琺瑯だと半分近くは失敗になる…これでも大分良くなった方だ)。
 誰かそれを科学的に証明してくれないかな?
銅製薬缶
紅茶の話 その34  先日ネットの知り合いから「ドロップティ」なるものの存在を聞かされた。
 そのサイトも教えてもらって見てみたら、試験管のようなものに入ったハート形のペレット状の紅茶だと言うことが分かった。
 なるほど。これはなかなかおしゃれな紅茶だ。
 「普通のお茶と同じように淹れるように」との注意書きもある。
 つまり、茶葉をハート型に固めたものだと言うことが分かる。

 疑問が一つ。
 ガラスの試験管に入れると言うことは、当然直射日光に曝されることを前提としてつくられたものだろう。
 だが、茶葉に日光を当てるのは一応御法度と言うことになってる。
 
茶葉というのはこう見えてなかなか繊細なので(先日コーヒー好きの知り合いが、「コーヒーの方が遙かに繊細だと言ってたけど…)、密閉容器に入れ、しかもなるだけ温度差の無いところに保存しなければならない。直射日光に当てると酸化して、味が落ちる。
 これは葉っぱと違ってペレット状だから、多少酸化には強いのだろうし、やはり中身を見てもらいたい。かわいいと思って欲しい。と言う思いからわざとそうしてるんだろうと言うことは分かる。どうせ私の好きなキーマンは無いだろうし、あんまり気には留めなかった。
(この更新のためだけに買おうかと思ってもいたが)

 それでしばらく放っておいたのだが、面白いことが起こった。
 前後して二本のドロップティが送られてきたのだ。
 一本は前述のネット上の(映画好きの)知り合いで、ブルーベリーティを。
 もう一本はバレンタイン・デーの日にわざわざ送ってくれたもの。これはなんとキーマンだった。あったんだな。
 それで最初にキーマンから飲んでみた。

 …まずい!

 …元も子もない言い方だけど、
本当にまずい
 昔横浜の中華街で中国製のキーマンの屑茶を買ったことがあったが
(100グラムで600円というとんでもない安さだったけど)、あれに匹敵するまずさだった。
 前に書いたが、銅製のポットで淹れた紅茶はおいしい。それを以てして、まずくなるんだからたいしたもんだ。

 何故まずいか。その理由を考えてみた。
 1.これはブロークン・ティであること。
 紅茶にはブロークンとフルリーフの2種類(厳密にはその中間がいくつかあるけど)あるが、基本的にミルクティ用にはブロークンを、紅茶の風味そのものを楽しむためにはフルリーフが用いられる。
 理由として、ブロークンは抽出速度が速いから、すぐに濃いお茶が楽しめる。ミルクティ用だったら濃い方が良いので、これでいい。一方紅茶の風味を楽しむ場合、ゆっくり蒸らして抽出するのが良い。じっくりと成分が出てくるので風味が増す。
 ドロップティはペレット状に固める必要があるので、フルリーフでは無理だ。当然ブロークンとなる。
 …しかし、中国茶をブロークンで飲むってのは初めての経験だな。土台そんなものがあるなんて聞いたこともなかった。

 2.茶葉が固まってるので、茶葉がポットの中で動きにくい。

 お湯を入れたら、かなり早くバラバラになったけど、元々ばらけてるリーフティと較べれば格段の差がある。
 紅茶をおいしく淹れるコツは
ポットの中でホッピング/ジャンピングを促すことなのだが、最初が固まってると、それは極めて起こりにくい。

 …と、言うような理由ではないかと思う。
(茶葉を固める「つなぎ」に何が使われているかは分からないけど、その味はしなかった)

 その後、ブルーベリーティをミルクティにしてみる。
 こっちは結構良かった。
ミルクを多少少なめに。砂糖を多めに入れると良い感じ

 はっきりわかったのは、ドロップティはストレートで飲むことを前提としていないと言うこと。飲む場合はミルクティにする方が良い。
 結論づけると、
ティーバック以上、リーフ未満。と言う位置づけか。

 見た目が楽しいので、友達を呼んでティー・パーティをするとかには良いと思う。その場合、ガラスのティーポットを使うと更に楽しめるはず。
ドロップティ
紅茶の話 その35  最近中国茶が面白くなって、いくつかの茶を買い込んでいる。
 今は
水仙というお茶を飲んでいるけど、これはとても良い。
 水仙茶は福建省や広東省で作られる青茶
(半発酵茶。日本で一番有名なのは烏龍茶)
 青茶はあんまり飲むことが無かったけど、一回飲んでみると、これが又。実においしい。風味も香りも良いし
(なんかほうじ茶に似てる気がするが)、紅茶と違って2煎か3煎まで飲めるのも良い(3煎目はさすがに薄いから、一応2煎までにした方が良いけど)。食事の後など、ビデオで映画を観ながら飲むのが最近の日課となっている。
 一応青茶について。
 青茶は半発酵茶と呼ばれ、完全発酵茶である紅茶と未発酵茶である緑茶の中間に位置するが、製法は様々。
 多少乱暴に書かせてもらうと、最初に摘んだ茶葉を広げて乾かす。これを
萎凋(いちょう)と言う。これによって茶葉を乾かすのと同時に発酵させるわけだ(紅茶も同じように行うが、緑茶はこの過程がない)。これを時間をかけて行い、揉むと紅茶になるが、青茶の場合は紅茶ほど乾かすことが無く、途中で切り上げてしまうのだが、ここから特別な工程にはいる。
 先ず天日に干されていた茶葉を部屋の中に入れる。これを
揺青(ようせい・やおちん)という。外にある茶葉を部屋に入れるだけのことなんだけど、これが非常に重要。この際、手や機械で揺らしてやる。これを丹念に行うと、香りがとても良くなるらしい。
 その後、一旦釜に入れ、炒ってから
(これを炒青(さーちん)と言う)、ようやく揉みの作業にはいる。これを揉捻(じゅうねん)と言い、緑茶、紅茶、青茶全てで行う工程に入り、そこでやっとお茶として完成する。
 
…念のため、これは非常に乱暴な書き方だよ。
 紅茶、緑茶と較べ、工程が複雑で、手作業も多いが、その分香りがとても良くなる。高いやつは100グラム5,000円くらいは当たり前にする。私が飲んでいるのは水仙の中でも一番安い奴だけど、これでも充分に美味しい。
 尚、烏龍茶は缶やペットボトルで売られているけど、本来青茶の一番の売りである香りがスポイルされてしまうため、本来のおいしさは別にあると思ってほしい。
水仙
紅茶の話 その36  中世ヨーロッパを語る上で避けて通れないのが一つある。猖獗を極め、実に多くの者を死に至らしめたペスト
 
ペストは鼠によって媒介され、不潔にしていると起こりやすくなるのが特徴で、当時のヨーロッパと言うのがどれほど汚れていたかを如実に示す事実でもある(千一夜物語を読んでみると分かるが、彼らはヨーロッパ人(正確にはフランク人)を「異臭漂う不潔な民族」としていた)。現代人からすれば多分信じられないことだが、ある貴族は生まれてから3回しか体を洗っていないことを誇りに思って吹聴していたとか…マジかよ(この話には直接関係ないけど、香水というのは本来体臭を中和するため、あるいは体臭を感じさせなくさせるために発明され、発展したものだ)。いずれにせよ、ペストというのは中世ヨーロッパを語る上での最大のキー・ワードの一つだ。
 イギリスで紅茶が流行ったのは、実はこのペストのお陰でもあるところが面白い。
 お茶というのは元々医薬品として輸入されたものだから、ペストの特効薬として用いられた…と言う訳ではない
(多少はそう言う期待もあっただろうけど)
 さすがに近代化された時代にあって、ペストはどういう場合に流行るか、そしてその予防策はどうするか。その辺がだんだん分かってきた。前者は上下水道の完備と言う形で、後者は健康ブームという形で。
 そう、まさに紅茶はこの
健康ブームに乗って消費量が激増したのである。
 当時健康になるためにはとにかく体を動かすこと、日の光を浴びることが奨励された。その両方を手っ取り早く、しかも短時間でするためにブームとなったのが
散歩
 散歩をしていて、ちょっと休もうか。と言う時、近くにカフェ、それもオープンカフェがあると、そこに寄りたくなるのが人情というもの。そこで何を飲むか?日光浴に出たのだから、当然それは昼間であり、酒ははばかれる。かといって水と言うのも少々情けない。
 それでお分かりだろうが、この
カフェで出されたのが紅茶なのである。何となく健康なイメージがあるし、砂糖やミルクをどっさり入れることで、疲れた体を適度にリフレッシュできる。これほどうってつけの飲み物は無かったわけだ。これのお陰で上流階級の飲み物であったお茶は瞬く間に中産階級へと広がっていく。そしてそれが工場へと流れ、労働者階級にも好まれていったのは前述の通り。

 ペストから紅茶へ。面白い組み合わせだが、だからこそ歴史を学ぶのは面白い。