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特撮事典

ディストピア

THX-1138


THX−1138
1971年
ジョージ・ルーカス(監)
 25世紀。人類はコンピュータによって完全制御された地下で暮らしていた。だがそれは完全に機械に支配された、奴隷のような生活に他ならなかった。人間は登録番号で呼ばれ、精神抑制薬で薬漬けのまま機械のために様々な作業に従事していたのだ。THX1138(デュヴァル)は単純作業の繰り返しに深い鬱状態となり、やがて抑制剤の服用を止め、ルーム・メイトのLUH3417(マコーミー)もそれに倣う。やがて二人は人間的な感情に目覚め始めるのだった。だがコンピュータはそんな二人を不良品と見なし、処刑されてしまいそうになるのだが…
 後に『スター・ウォーズ』(1977)を撮って一世を風靡することになるルーカスだが、学生の頃から映像に興味を持ち、自主製作で結構な数の映画を撮っており、その完成度の高さでその筋では有名な人だったらしい。
 それで彼が学生時代に作った最大のヒット作に目を留めたコッポラが製作を買って出、低予算で作った作品
(WBは出来が気に入らないとして5分をカットして公開する)。当時は全然ヒットしなかったものの、『スター・ウォーズ』の成功によって再評価されるに到った作品。
 しかしこれを観ていると、SFというのはアイディアだなと思わせられる。管理社会を示すのにクリーンさと明るささを強調して無機質さを表し、そこでほとんど会話を出さないことで人間関係の異常性を強調する。これだけで充分SFとなり得るのだ。実際金かけた大作はどうしてもアクションに偏重する傾向があるため、SF作品なんだかアクション作品なんだか区別が付かないようなものになるが、低予算だと、そこにかける金を遣わないから、設定をソリッドに見せることが可能だ。本作はそう言う意味では突き詰めたSFと言った風情があって、それが嬉しい。特撮部分がちょっと少ないのはちょっとした不満でもあるけど、設定だけでちゃんと見せる作品は作れるという好例だろう。
 尚、ルーカス自身この作品には相当の思い入れがあるらしく、『スター・ウォーズ』で儲けた金でプロダクションを作る際、新システムにTHXという名称を与えている。今やアメリカを代表するSFスタジオとして名高い(日本の作品でもここで録音やSFX演出を作り出すことが多い)。

 

SEN−5421
【えす-いー-えぬ-ご-よん-に-いち】
 THX−1138の友人。抑制剤を定期的に服用しているため地下社会をユートピアと信じており、脱出しようとするTHX−1138とは敵対する。役はドナルド=プレザンス。 甘崎
LUH−3417
【える-ゆー-えいち-さん-よん-いち-なな】
 THX−1138の女性ルームメイト。THX−1138に倣って抑制剤を服用しなくなり、やがて人間的感情を持つようになり、THX−1138と愛し合うようになるが、監視者達によって捕まえられてしまう。役はマギー=マコーミー。 甘崎
THX−1138
【てぃー-えいち-えっくす-いち-いち-さん-はち】
 地下社会の住民で毎日の生活を疑問に思っていなかったのだが、単純作業の繰り返しで重い鬱状態となり、やがて精神抑制剤の服用を止めて人間性を取り戻していく。 甘崎

 

スリーパー


スリーパー
1973年
ウディ・アレン(監、主)
 胃潰瘍の検診で入院した際、併発症を起こし意識が回復しないため、カプセル凍結にされたマイルズ=モンロー(アレン)は200年後の独裁者によって統治される世界で目覚めた。既に胃潰瘍は治っていたが、周囲の状況に対処出来ずに逃げ回る。忍び込んだロボット工場でロボットの真似をしていた所、ルナ(キートン)という女の家へと連れて行かれてしまうのだった…
 俳優としてデビューしたアレンだが、直に頭角を現し、低予算コメディを作る監督になった。本作は初期のナンセンスコメディの代表作だが、アレンらしいシニカルさは充分によく出ている。アレンの初期作品で共通するのは、神経質なユダヤ人が革命騒ぎに巻き込まれ、いつの間にか英雄になってしまう。それで本人にその自覚が全くないのがとても笑える話になる。これは天性の感性と言えようし、その姿勢は今もなお健在。どんなものを作ってもデビュー当時から視点が変わらないというのは、一種貴重な監督と言えよう。
 本作はコメディの中でもパントマイムを重要視した作品だが、パントマイム型のコメディにはチャップリン型とキートン型があると思う。どちらも卑下した動作で人を笑わせるのは同じだが、
キートン型はそれを純粋に馬鹿げたものとして見せるのに対し、チャップリン型は笑っている内にだんだん自分自身を振り返ってしまうようなもの。
 アレンの笑いは間違いなくチャップリン型に入るだろう。ただ特にチャップリンの作品はそれをペーソスという形に持っていくのに対し、アレンは乾いた笑いへと転換していく。最初の内大声で笑っている内に、だんだん笑えなくなっていき、徐々にその笑いも唇を歪めるような笑いになっていくのが特徴か。
 はっきり言って、私にとっての本作は皆が言うほど大爆笑出来た作品ではない。社会不適合者を演じるアレンの痛々しい姿が、徐々に自分自身のみにつまされるようになってしまい、笑うに笑えないというジレンマに陥ってしまった。これを笑うのは自分自身をせせら笑ってる気分にさせられる。
 現代にいても過去にいても、この人は全然変わらない。
それはひょっとして私自身も…

 …少なくとも、そう思わせてくれるだけでも、アレン監督は貴重な監督と言える。

 今観ると、本作は随分古くさいSFにも見えるが、それは単にSFとして古いというのではなく、70年代というヒッピー風俗そのものを未来に持ち込んだため。劇中ではそれをファッションとして捉えているので、不思議な感触が得られる。風俗などもそれがベースなので、本作をSFとして本当に楽しむにはその時代の空気を吸っている必要があるのだろう。そこのところが、知っている人が羨ましい。

 ちなみに本作がアレンとキートンの出会いとなったが、このコンビは後々映画史においても様々な意味で影響を与えていくようになる。記念すべき作品だ。

 

アーノ
【あーの】
 22世紀の革命家。独裁国家を打倒するため、武力闘争を呼びかける。ルナをパートナーとして選び、彼女を利用してマイルズを手駒として用いようとする。 甘崎
エレイス計画
【えれいす-けいかく】
 独裁者による反乱分子一掃計画。 甘崎
オルガストロマシン
【おるがすとろ-ましん】
 22世紀のセックスの代用品の機械。こちらの方がより快感を得られるため、むしろこちらの方が好まれているようだ。 甘崎
水素服
【すいそ-ふく】
 22世紀の服。紐を引っ張るとまるで風船のようにふくれてしまう。 甘崎
マイルズ
【まいるず】
 NYに住む食料品店店長でクラリネット吹き。胃潰瘍の検診で入院したはずが、いきなりコールドスリープさせられ、200年後に解凍されてしまった。 甘崎
ルナ
【るな】
 22世紀のヒッピー女性。家事ロボットを買ったはずが、何故かマイルズを買ってしまい、彼の騒動に巻き込まれてしまう。 甘崎