天井桟敷の人々
Les enfants du Paradis |
1946アカデミー脚本賞(ジャック=プレヴェール)
1946ヴェネチア国際映画祭特別賞(カルネ) |
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フレッド・オラン(製)
ジャック・プレヴェール(脚)
アルレッティ
ジャン=ルイ・バロー
マリア・カザレス
マルセル・エラン
ピエール・ブラッスール
ルイ・サルー
ジャヌ・マルカン
シモーヌ・シニョレ
ジャン・カルメ |
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| 物語 |
人物 |
演出 |
設定 |
思い入れ |
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19世紀のパリの街「泥棒横町」は天井桟敷まで鈴なりの芝居小屋が立ち並ぶ歓楽街だった。その街のパントマイム役者のバチスト(バロー)はスリの容疑をかけられた見せ物小屋の美女ガランス(アルレッティ)を助ける。二人はそれをきっかけに淡い恋心を抱くようになるが、ガランスはまさにバチストに恋心を告白されたその夜にバチストの同僚ルメートルと床を共にしてしまうのだった。そして5年の月日が流れ、お互い成功者として再会するバチストとガランス。今度こそ二人の愛情は燃え上がるが、既にバチストには妻子がいた…
映画を観ていて、本当に良かった。と思うときがある。様々なときにそれを感じるものだが、大体は映画のクライマックスシーンとか、終わった後の余韻に浸っているとき、あるいは劇中の何気ない仕草にそれを感じることもあるし、時としては映画見終わって数日から長い場合数年して、ズンっ。と来る場合もある。
私にとって、本当に素晴らしい映画と言うのは、これら全てを兼ね揃えた映画。と言うことになるが、そう言う作品は滅多に出会えるものではない。ここで注意して欲しいのは、観ている映画に感動しているのとはニュアンスが異なると言うこと。その作品を通し、映画を観ていて、本当に良かった。と、映画そのものに対する感動を覚えると言うことである。
それ程の作品は私が知っている限りでもほんの数作だけである。ただ、その中でも筆頭は何か、と言われたら、間違いなく私は本作を選ぶ。これは私にとって、それほどの映画だ。
本作のストーリーそのものは不器用な男女間のラブ・ストーリーなのだが、それを実に上手く仕上げている。勿論それだけでなく、間の取り方と言い、表情と言い、どこを取っても素晴らしいものだ。自由というものを希求する役者魂をも見せてくれる。実際、上映時間は実に長いのだが、まるで時間を感じさせず、幕間の休み時間でさえ映画に浸り込んでいた位だし、終わってからどれほど時間が過ぎているのかを知り、驚いた程(約3時間にわたる作品で、間に休憩が入った2部作の形を取っているが、これは当時のドイツが1時間半を超える作品は赦さないとしていたからとか)。
主人公のバチストは座長からも馬鹿にされる駄目役者だったのだが、自分の才能がどこにあるのかを見極めてからは、パリで最も有名な喜劇俳優となる。だが、それが彼にとって幸せだったかどうか。実際の彼はプレッシャーに押しつぶされそうになり、「精神医からバチストを見て大笑いするようにと言われた。自分で自分を笑わせられるか」とシニカルに笑う人物であり、彼の相棒でガランスを奪ったルメートルは女ったらしの行動をとりつつ、それでも役者としては真摯で、自分の才能のなさに悩む。そしてガランスを愛するあまり、殺人まで犯してしまう作家。そう言う人物をお互い、実に上手く演じている。ガランスに至っては本当の愛を最も欲していながら、人間関係を崩さないよう、配慮に配慮を重ねる人物として、それでも結局破滅へと向かう人物を好演している。
ストーリー自体が自分の欲望と相手への配慮の狭間で悩む人間をモティーフにしているのだが、結局悪い方悪い方に向かっていくのが面白い。喜劇というのは、悲劇を演出するのに優れた方法なのだと知った作品でもある。
本作は第2次世界大戦下、ドイツ占領下のフランスで撮られた映画で製作にはえらく難儀したそうだが(出演者やスタッフの多くは実際のレジスタンスメンバーで、中でも音楽を担当したコスマはユダヤ人だったため、当時地下潜伏中。親ナチの俳優は連合軍のノルマンディ上陸の報を聞いた途端ドイツに逃げてしまうなどなど)、登場人物全員が生き生きとしており、とてもそれを感じられない。特に祭りシーンでの生の迫力は圧倒されるほどだ。しかし逆に考えれば、ドイツによって支配されていたフランスと言う状況下だからこそ、フランスの文化を守っていこう!という思いで作られたため本作はこれほどの圧倒的な出来になったのかも知れない。勿論これはカルネ監督の卓越した感性によるものだが、それを支えるジャック・プレヴェールの脚本の素晴らしさもある(二人は水と油のようで、接点がまるで無かったそうだが、こと映画についての情熱とコンビの力は本作を観るだけで分かる)。
これをビデオではなく、劇場で観ることが出来た、それが何より嬉しい。
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