モロッコ
Morocco |
1930〜31米アカデミー主演女優賞(ディードリッヒ)、監督賞、撮影賞、美術賞
1992アメリカ国際フィルム登録簿登録 |
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ジュールス・ファースマン(脚)
ゲイリー・クーパー
アドルフ・マンジュー
マレーネ・ディートリッヒ
ウルリッヒ・ハウプト
ジュリエット・コンプトン
フランシス・マクドナルド
アルバート・コンティ |
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★★★★ |
物語 |
人物 |
演出 |
設定 |
思い入れ |
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第一次大戦中。ドイツのモロッコ駐留軍の風紀は乱れていた。その中でも傭兵部隊のトム・ブラウン(クーパー)は、無聊を慰めるために次々と駐留軍人の細君に手を出しては捨てるという男だったが、そんなときエイミー・ジョリー(ディートリッヒ)というキャバレーの歌姫を見る。すぐに恋仲となった二人だが、トムは自分自身が彼女に夢中になっているという事実を信じられず、ある日彼女の元から逃げ出す。やがてこれまでの悪行がばれてしまったトムは危険な砂漠の駐留地へと転属を命じられるのだった…
本作は映画史でもかなり重要な位置づけを持つ。まずはスタンバーグ監督が、ヨーロッパでの撮影旅行中出会い、彼自身最も愛する役者となったディートリッヒをアメリカに紹介した作品としてだが、これは単に一人の女優の誕生話に留まらなかった。
少なくとも第二次世界大戦が始まる前までのアメリカ映画の最大特徴は“溌剌さ”と言って良い。新興国であり、これからどんどん伸びていくことを目標とした国家の形そのものが映画にも影響を与えていたのだが、そこには強烈なポジティヴ・シンキングはあっても、退廃的雰囲気を受け付けない雰囲気があった(本作でもラストシーンはいかにもアメリカっぽさを演出している)。しかしそれでは映画は娯楽に留まり、芸術的な雰囲気を持ち込むことがなかなか困難な状況。そこにディートリッヒが入り込んだことによって、映画芸術に深みを与えることになったと言われる。彼女を受け入れたことがアメリカ映画の進歩でもあった。
だがむしろ影響が強かったのはアメリカ以上に日本の方だったようだ。本作が日本でスーパーインポーズ(字幕)が使われた初めての映画だと言うこともあるが、内容的にも本作から多くのものを取り入れた。それまで輸入されていたものは基本的にパントマイムを中心とした陽性のもの。そこにこういった退廃的な雰囲気を持った作品が入り込んだのは、おそらく映画人や文化人たちは狂喜したことだろう。遙かに日本は陽性の作品よりもこういう作品の方が好まれるのだから。それに更に言わせてもらえば、サブカルチャーの方に大きな影響を与えたようでもある。日本では様々なメディアで男装の麗人が登場するが、そのどれもがここでのディートリッヒの姿を参考にしてるっぽい。男装のアイディアはディードリッヒ自身が思いついたというが、これほどまでに似合う女性もなかなかおらんだろ(ついでに言えばこの人ほど煙草の似合う女性もいない)。
物語そのものは本当になんと言うこともないメロドラマに過ぎないのだが、キャラクタの立ち具合が異様なほどはまっているので、それだけでも忘れ得ぬ名作であると言えるだろう。クーパーも得意とする純朴な青年役をかなぐり捨てたかのようなやくざな役柄を好演(と言うよりそう言う役はこの後で演じることになるんだが)。雰囲気的にはクーパーはこっちの方が合ってるんじゃないのかな? |
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