Homeへ
Essayへ
tea2へ

紅茶の話

紅茶の話 その1  実は私は大の紅茶好きである。一日一杯ティーポットでじっくり入れた紅茶を口にする瞬間が好きだ。くつろぎの一時とでも言おうか。その時の紅茶が最高に美味ければ、一日はそれで終わっても良いや。とさえ思うことがある(残念なことにさほど多くはないが)。これを酒の飲めない人間の負け惜しみと言ってはいけない。それがたとえ事実であっても。
 お茶の味が分かるのはある程度の年齢になってから。と言うのはその通りで、私が紅茶に凝り出したのも大学に入ってしばらくしてであった。
 元々コーヒーが好きでなく、かといってジュースばかり飲んでいるのもあんまり良くないな。と思い出した頃に手に取った小説
「銀河英雄伝説」(一般には「銀英伝」という略称で有名)にとにかく紅茶好きのキャラクターが登場し、そんなにおいしいものなのだろうか。と考えたのがきっかけ。今から思うとあまりに単純、且つ情けないが、まあ、若かったと言うことで…
 それまでは紅茶と言えば、レモンスライスを入れて、砂糖をどっさり入れて飲むものと思っていた。これだったら緑茶の方がはるかにマシな飲み物だ。と思っていたのだが、暇に任せ、何缶かの紅茶とガラス製のティーポットを購入。とにかく飲んでみる。
 飲み始めて分かったのは、紅茶というのはまず、値段がとにかくバラバラだと言うこと。割合簡単に手に入るものに限っても、100グラム500円くらいから50グラム1000円などと言う、どうも一定しない飲み物らしいと言うこと。更に紅茶、と一口に言っても実に様々な味があると言うこと。値段に応じてうまいかどうか決めるのは極めて難しいと言うこと。程度だった。
 そうこうしているうちに、だんだんと紅茶の味が分かってくる。そして気がつくと深みにはまってしまっていた。病みつきになってしまった訳である。特にこの時期はよく飲んだし、「茶」の名前が付いた本はすぐに読んだ。
 一番飲んでいた時期で100グラム缶が二週間保たなかったから、一日5、6杯は飲んでいただろう。
ただし、この時期は私の不眠症が最も重かったときと重なっているため、そう言う意味では、眠られなかった一因となっていたのかも知れない。
 大学を卒業し、就職したときは静岡にいたのだが、ここでの紅茶は最悪だった。お茶の産地のはずの水が、とにかくひどかったのである。寮生活をしていたので電気ポットを使わざるを得なかった。(しかも安い奴だっただけに)沸かしたお湯はカルキ臭さが抜けず、それで淹れた紅茶も全然美味くなかった。お陰で急激にお茶の消費量が減っていった(好きな種類の紅茶がなかなか買えなかったというのも大きい)
 以降、各地を転々とし、それと共に紅茶の飲み方も変化していった。器もいつの間にやら現在使っているもので6つ目になる。
平均2年ちょっとで壊してるわけか。

付記
 私の知り合いの中学生が紅茶に凝り出した。話を聞いてみるとなかなかしっかりした紅茶の入れ方をし、味も分かっている。茶は年齢が必要とされると言うことには少々修正を加えねばならないようだ。
紅茶の話 その2  私が好む、と言うより、専ら愛飲している紅茶の葉はキーマン(keemun)と呼ばれるもの(キーモン、キームンとも呼ばれる)。中国産の紅茶である。産地は安徽省の祁門(きもん)県。
 中国のお茶で有名なものに烏龍茶があるが、あれは青茶と言われる半発酵茶で、同じ葉を使っていても完全発酵させたものが紅茶となる。
 紅茶の産地は世界各国にあるが、その中でも最高峰と呼ばれる紅茶の産地は三つある。スリランカのスリランカ茶(セイロン茶と言う名前の方が有名)。インドのダージリン茶。そして中国のキーマン茶。この三つ
だが、今ひとつキーマン茶の知名度は低い。
 確かに香りはちょっとばかり生っぽいクセのある感じだし、飲み慣れないと味にも不満を覚えるだろう。(これは決して紅茶そのものが悪いのではなく、この紅茶に砂糖やクリームを入れようとする輩がいるからだ)だけど、飲み慣れると、そして一度でも完璧な味が出せると病みつきになる味となる。
 日本ではどこにでも売っていると言うわけではないが、注意深く捜せば結構見つかる。メーカーも様々。色々味わってみるが、どれが飛び抜けて良い。とは言えない。トワイニングスの「プリンス・オブ・ウェールズ」のファインは値段も手頃でかなりおいしい。ハロッズのものはやや癖が強いが、喉ごしは小気味よいほど。フォートナム・アンド・メーソンは高いが味としてはオーソドックス。ロイヤル・コペンハーゲンも高いが、これはお勧めできない。フォションはかなり上質。リッジウェイは可もなく不可もなく。と言ったところか。他にも二、三味わったが、メーカーの名前を忘れてしまった。他にも横浜の中華街で祁門直販。と銘打った中国産のものがあり購入したが、これは不味かった(でも、これをどうおいしく飲むか、色々試行錯誤繰り返したので、一番印象に残ってる)。
 一度吉祥寺にある専門店に入ったら、100グラム4,500円というのを発見。その時は金を持っていなかったので購入できなかったが、一度は飲んでみたいものだ。
 鹿児島には紅茶専門店があり(前は喫茶も出来たのだが、現在は閉鎖中。これは惜しい。もっと色々な紅茶を味わってみたかった)、現在はもっぱらそこで購入している。これはフランスの会社。勿論良質の紅茶は独占的にイギリス管理で作られるので、そこから一旦輸入してから出しているらしい。ここでの紅茶の種類の豊富さはかなりのもので、200種類以上あるそうな。内キーマンは2種類。ちょっと混ぜものをした方が味としては上。又、ここで初めてラプサンスーションという、やはり中国産の紅茶を飲んでみた。これはキーマンを凌ぐクセを持つ。まるで燻したかのような強烈な香りがする。ただ味と喉ごしはなかなかのもので、こいつにはまるとキーマンでさえくすんでしまうかも知れないとさえ思われる。病みつきになる可能性を秘めたお茶である。

 調べてみたら、ネット販売では意外によく売られていることが分かった。わざわざ「祁門県から輸入してます。」と言うコピーがあったりして、見ていても楽しい。その内通信販売のを買ってみようかな。
 
祁門紅茶
紅茶の話 その3  私の好きなキーマン茶だが、淹れ方そのものは他の紅茶と同じで、ティースプーンに人数分+1の茶葉をあらかじめ熱しておいたティーポットに入れ、そこに熱湯を注ぎ込む(基本的にお湯を作るにはペットボトル入りの水はやめた方が良い。あれらの大部分は硬水であり、茶に合う軟水は少ない。又、製造過程で空気を抜いてあるため、沸騰時に水内部に空気が入りづらいと言う難点もある)。水道の水を用いる場合、沸騰してもしばらく置いておき、カルキを飛ばすようにするのが良い。そして煮えたぎった熱湯をなるだけティーポットの口から離すように、注ぎ込む(これはホッピングと呼ばれる茶葉が元気に動く状態を促すため。このほうが良く紅茶のエキスが出る。この際にやけどをしないように注意)。そして蓋を閉める。ティー・コゼがあればそれを用いるに越したことはない。
 
それから約3分半。(ちなみに私は時計は見ないようにしている。淹れるタイミングや季節によって微妙に時間が違うし、コーヒーより味わいが微妙な分、毎回違った味が楽しめるからである)この際、ティーポット全体に茶葉が行き渡るように、そして茶葉のホッピングを促すためにもティーポットの中に茶漉しを入れないようにした方がはるかに良い。最後にカップの上に茶漉しを置いて注ぎ込む。出来るなら時間をかけ、全ての紅茶をカップに注ぎ込むようにしたい。残った部分に最高のエキスが含まれている。これで美味しい紅茶のできあがりである。
 元々イングランドで大流行した紅茶だが、意外なことにイギリスの水は大概硬水であり、本来なら紅茶はあまりおいしく淹れられない。それをいかに美味く飲むか。そこに努力が必要となる。最も単純な方法として、コーヒー同様クリームや砂糖を落として飲む方法。紅茶本来の愉しみ方とはやや離れていたが、これが英国風の伝統と言われるようになった。日本に入ってきた紅茶の飲み方はこれに則っている。
 しかし、紅茶本来の茶の愉しみ方も英国にはある。先程述べた紅茶の淹れ方は英国風の淹れ方そのもの。つまり元々これは硬水の紅茶の淹れ方なのである。硬水のお茶は冷めると不味くなる。だからいかにお茶を冷やさないか。と言うのが鉄則。茶器をあらかじめ熱しておくのはその為で、しかも「薬缶をポットに近づけるのではなく、ポットを薬缶に近づけろ」と言われるほど、熱の管理に気を付ける。
 日本の水は幸いなことに軟水。お茶に合う水である。そこまでの熱管理をする必要はないのは助かる。
紅茶の話 その4  持論だが、紅茶の楽しみ方は三通りある。一つ目は香り。この香りにおいて群を抜いているのがなんと言ってもダージリン。まさしく芳香と称するに足る素晴らしい香りがする。次がスリランカ、最後にキーマンだろう。やはり中国茶で柑橘系を思わせるアール・グレイと言う強烈な香りの紅茶もある。正直キーマンは決して香りは良くない。やや生臭さのようなものを感じる(慣れればこれも良い香りになるけど)。
 
二つ目は味。これは好みもあり、決してどれがどうとは言えない。ただ、素直な味で加工がしやすく、ストレートでも混ぜても良い。と言う意味で言えばスリランカだろう。日本人が最も慣れ親しんだ味とも言える。ただ、あまりに味が素直なため、物足りなく感じることもある。(そういう人はウバ産のファースト・フラッシュを試して欲しい。かなり評価が上がるはずだ)
 ただ、私は味に関してもキーマンが好きだ。最高に上手く淹れた味を一回味わうと、キーマンが混ぜものをしてはならない。と言った訳が分かると思う。舌ではなく、その奥、喉付近で甘さを感じることが出来るはず。(たった一度だけだが、かなり高級のダージリンでこの味を感じたことはある)
 そして最後の
三つ目は喉ごしである。これに関しては、声を大にして言えるが、キーマンの独壇場。ダージリンであれ、スリランカであれ、香りや味がいくら良くても最後の喉の通りだけ、どうしてもざらついた感触を受ける(本当に高級なものだとこれも少なくはなるが、そういう紅茶って滅多に飲めないし、普通置いてない)。キーマンの場合、喉をこじ開けるように、しかしなめらかに滑り落ちる熱い固まりの感触を味わうことが出来る(ただし、上手く淹れた場合に限る)。そして更に胸の辺りでほっかりとした余韻を保つ。これはもう、最高の気分である。これは安いのでも比較的簡単に感じることが出来る。初心者でも1缶、若しくは2缶分をひたすら淹れ続ければ、一度くらいは感じることが出来るだろう。
 
紅茶の話 その5  紅茶を飲む際、お茶はどんなものを使っているだろう?
 ティーポットに茶葉を入れて…と言うのは少数派で、ティーバッグを使う人が多いのではないか、と思う。
 確かにティーバッグは手軽だし、お茶を飲んだと言う気分にはさせてくれる。
 だが一つ、大きな問題がある。
 先に書いたのだが、何故紅茶には熱湯を用いねばならないのかと言えば、ティーポットの中の茶葉を可能な限り揺り動かすためである。
これをホッピング(若しくはジャンピング)と言う。
 茶葉はぎゅっと押さえつけると、タンニン成分が強く出過ぎて、苦みが強くなる特徴がある。苦みを出さず、必要な旨味だけを取り出す方法として、このホッピングが重要になるわけである。可能な限り茶葉を抑えず、自然にエキスを出すには、熱湯を使うのが一番楽な方法だからである
(最後にぎゅっと茶葉を抑える型のポットがあるが、あれは元々紅茶用ではない。コーヒー用なのだ。紅茶に使うのは間違っていると知って欲しい)
 それでティーバッグだが、ご存じの通り、あれは茶葉が狭いところに閉じこめられているので、ホッピングは起きない。その代わりとして、出来る限り茶葉を細かく砕くことにより、成分を抽出しやすくしているのである。
 だから、同じ銘柄、同じ葉っぱの紅茶を淹れても、茶葉で淹れる場合と、ティーバッグで淹れる場合では、まるで味が変わってしまう。
事実暇なときに並べて試したことがあるから、よく分かる。
 結論から言って、ティーバッグは茶葉には敵わない。最近出回り始めた三角錐型をしたティーバッグもあり、それはそこそこの味がするが、家で飲むなら、少々の手間を惜しまず、茶葉にすべきだ。それでもコーヒーよりは簡単だ。

 ところで、ティーバッグを用いて紅茶を淹れる場合も、やはりちゃんと方法がある。
 まず、よーく暖めておいた空のティーポットにバッグを入れ、そこにおもむろに熱湯を注ぐ。ファミリーレストランで見られるような方法に近い。ただし、重要なことは、完全に抽出が終わるまではティーポットを動かさないようにして、時間を見て抽出が終わったと思ったら、ちゃんとバッグを出すこと。
 
要するに、茶葉で入れる場合と何ら変わることがない。
 カップの中にティーバッグを入れ、ぬるま湯を注ぎ、更に出が悪いとバッグを押さえつけるなど、
言語道断。少なくとも、おいしい紅茶を飲もうという気が少しでもあれば、そんなことをしてはいけない。

 くだらん知識だが、何かの役に立てば有難い。

 
紅茶の話 その6
 少し前に水の違いを書いたが、これに関してもう少々。硬水と軟水の違いだが、その大きな違いは中にあるミネラル分、殊にマグネシウムの量の違いである。大体地下水は鉱物と接触し続けているので、どうしても金属分がとけ込んでしまう。降水量の少ない地域などでは水は基本的に地下水を利用するので硬水が多くなる。ヨーロッパなどは全土に渡り硬水の地域が多い。
 一方、日本は地下水よりむしろ雨水を飲料として用いるので、鉱分を含まない軟水を基本的に飲んでいる。一方売られている水の大部分は硬水だと思って良いだろう。
 硬水と軟水の見分け方はいくつか簡単な方法がある。例えば硬水は石鹸の泡が立ちにくいと言う特徴がある。これも面倒くさいと言うなら、もっと簡単な方法は水に茶殻を入れてみると良い。放っておいてしばらくすると、黒い沈殿が出来ていればそれは硬水。何も変わらなければ軟水である。これは
硬水に含まれるマグネシウムが石鹸質やお茶のタンニンと結びつきやすいと言う性質による。つまり、お茶の場合、主成分であるタンニンが変質してしまうと言うこと。それ故硬水はお茶には向かない。紅茶はご存じの通りイギリスで大流行したのだが、ここの水は硬水。いかに紅茶に合わない水で淹れて、おいしくするかと言う努力の賜である。

 紅茶好きな私だが、最近になってコーヒーも飲むようになってきた。眠気覚ましが主な理由だが、最大の理由は簡単で、
「まずい紅茶を飲むくらいならまずいコーヒーを飲んだ方がまだマシ」と言うこと。世の中、まずい紅茶ならどこにでもあるものだ。
 
紅茶の話 その7  『紅茶は心臓病に効果が? 議論続く』 これは2001年7月11日付のアメリカのニュース。

 紅茶を飲むことで、冠状動脈性心臓病の進行や、卒中やがんのリスクを抑えるという研究結果が発表された。米茶取り引き健康研究協会がスポンサーとなり、心臓病患者50人に研究が実施された。これまでにも、紅茶が、がんや心臓病などの予防に役立つという説が出ているが、紅茶が体内で実際どのような働きをするかについて、はっきりとした結論は出ていない。

 研究に参加した50人は1カ月間にわたって、毎日4杯の紅茶と水を摂取。マサチューセッツ州ボストン大学メディカル・センターのジョセフ・ビタ博士は、「患者が紅茶を摂取した後、血管の働きが活発化するのを確認した」と話しますが、博士は同時に、紅茶が薬に取って代わるものではないとも強調しています。すでに、ブドウ、りんご、たまねぎ、紅茶に含まれるフラボノイドを多く摂取する人は、心臓発作や卒中になりにくいという研究結果が報告されていますが、この紅茶の効果に首をかしげる研究者も少なくありません。

 歴史を見ると面白いことに、日本であれ、イギリスであれ、茶は最初は薬として輸入され、後に嗜好品へと変化している。特にイングランド(グレート・ブリテン)では時の王室は上流社会のみならず、どのような家庭にも隅々にまで紅茶を行き渡らせることに躍起となった。ロンドンの医者も絶賛し、お茶はどれだけ飲んでも構わない。むしろ飲めば飲むほど体に良いと言っていたそうだ。
 紅茶の薬効と言うのは半ば嘘ではないが、本当の話を言えば、当時の社会にとってはお茶の薬効成分など二の次だった。それより大変な事態が生じていたのである。
 イングランドは全島に渡り伝統的に蒸留酒の精製が盛んである
(ウィスキーと言う言葉も、本来ゲール語の「命の水」を表すウスケベアから来ている)。そこに寒さや、霧のため外に出歩くことが出来ないと言う事が重なると、必然的に酒瓶に手が伸びるようになる。
 外に出られない
→酒を飲む→外に出る気が起きなくなる→ますます酒を飲む の悪循環が起こり、自然と酒量が上がる。
 これが家庭が貧しい時代ならそんなに問題はなかった。
飲みたくても飲めないなら働くしかないから。だが折しも紅茶が国内に入り込み始めた17C初頭。ルネサンスの時代。特に都市部の家庭には数々の文明の利器が据え付けられ、嗜好品に回す金の余裕も出てきた時代である。当然酒が各家庭に日常的に据えられるようになってきた。
 ある意味、この時代、イギリスは深刻な問題を抱えていたのである。豊かになればなるほど、働ける人が少なくなっていく。これを阻止せんとしての、紅茶に対する大宣伝攻勢が敷かれた訳である。アルコールの代わりに紅茶を。と言うわけ。
 これは見事に成功した。かくしてスタンダードな英国流喫茶として一日五回のお茶会が出来るまでになった(機会があれば、これも後述しよう)。
 ここで中東産のコーヒーではなく東洋産の紅茶が用いられたのは面白いところ。コーヒーがフランスに、紅茶がイギリスに。と言うのはこの二国のライヴァル関係を示すようで面白い。

 ところで紅茶の薬効はどうか。と言うことだが、前述の不確かな話はともかく、
茶葉に含まれるタンニンはかなり強い利尿作用があるので、毒素を外に出す。と言う点においては確かに効果はある(柿を食べながら紅茶を飲んで欲しい。どちらも強い利尿作用があるため、その相乗効果は凄まじい(笑))し、カテキンは殺菌作用がある(出涸らしの紅茶をうがいに用いる人もいる)。又、カフェインは覚醒作用もある。ただ、あまり飲み過ぎると睡眠障害が起こるのは確かな話。
 アル中になるのと不眠症になるの、どっちを採る?
 
紅茶の話 その8 諸般の事情により、削除。
紅茶の話 その9  本日はちょっとお茶にまつわる歴史の話など。
 東洋の一部で飲まれていたお茶を世界に広めたのは英国。ご存じの通りここでは紅茶が飲まれている。だが、意外かも知れないが、ヨーロッパに最初に輸入されていたのは、緑茶だったそうである。しかも
日本産の!
 種子島にポルトガル人がやってきて、日本は世界にその名を知られることになるが、その際、日本でよく飲まれていたお茶がエキゾチックな飲料としてポルトガルやスペインから入り込んでいったのである。勿論英国もそれに乗った。
 ただ、日本の緑茶というのは加工が難しく
(「日本の」と言う注釈を入れるのは理由がある。後述)、ミルクや砂糖を入れられない(説明の必要も無かろう)。そこで目を付けたのが中国産の茶なのである(後述するが中国では茶の種類は色で分けられる。緑、紅、青、白、黒、黄の六色)。当時どんな茶が輸出されていたのかは実はよく分かっていないのだが、やはり中国産の緑茶ではないかと言われている。
 茶を飲み始めた当時は英国は中国茶を飲んでいた。ここから毎年新茶を中国から英国へ持ってくるため、高速船クリッパー船が用いられるようになったのである。
ティー・クリッパーと呼ばれるこれらの船は(ウィスキーのラベルで有名な「カティ・サーク」はティー・クリッパーの一隻)、毎年船主のために急いで帰ろうと、しのぎを削るようになった。これがエスカレートして、いわゆるクリッパー・レースが毎年行われるようになったのである。毎年これには大量の金が賭けられ、楽しみにされた。最初にたどり着いた船はその年の栄誉が与えられ、『○×船』によって運ばれた。と言うだけでその年の最高級茶とされたのである。
 ただ、このクリッパー・レースも有名な割にはそう長くは続かず、植民地化したインドとセイロンに茶を移植することで、自国領内で生産出来るようになると(更に英国人好みの紅茶が出来ると)、中国茶は一部マニアの愛飲する飲み物へと変わっていく。
 皮肉なことに、勇壮なクリッパー・レースが行われている時、紅茶の代金として英国の銀は多量に中国
(清王朝)に流れ込んだのだが、インドを植民地化することによって得た阿片がそれを全く逆にする。インドはイギリスに紅茶と阿片と、帝国主義を与えた。いわゆるパックス・ブリタニアを支えた資金の多くは中国から流れてきたものなのである。
 イギリスは茶で経済を破綻させ、阿片で空前の好景気に沸く。それも全て中国あってのこと。歴史というのは、意外な接点を持つ。

紅茶の話 その10  ところで一人当たりの紅茶の消費量が世界で一番高いのはどこかご存じだろうか?ちなみにイギリスではない

 前回の話でいかにして紅茶がイギリスに受け入れられたかを話したが
、そうして受け入れられた紅茶はすっかり庶民のものとなっていった。
 ところが、喫茶の習慣が浸透した辺りを見計らい、議会は紅茶に高い関税を導入するようになったのである。推測だが、あまりの喫茶量のため、折角上向いていた経済が下がり始めたのが理由だろう。
 ティー・クリッパーの競争が起こったのも、その関税の影響が大きい。早く到着すれば、名前が上がるだけでなく、高く紅茶が売れるからで、だからこそ、船主は躍起になって速い船と優秀な船乗りを捜すようになっていったのだ。
 だが、そうすると到着が遅れた船はどうなるか。その年の
「下級品」と言うレッテルを貼られ、関税でごっそり持って行かれると、儲けがあまり出なくなってしまう。
 そこで目を付けたのが隣国のアイルランドだった。ここはイングランドに較べるとはるかに関税が安い。
 だから、紅茶を運んできた船は、一旦アイルランドにより、かなりの分量の荷を
「抜いて」から本国に帰るようになっていった。
 そしていつの間にか、アイルランドは紅茶の最大の消費地となっていったのである。この紅茶の一台消費地アイルランドで愛飲されている紅茶というのも、そもそもはイングランドの国の事情による。
 経済が文化そのものをも変えてしまった好例とも言えるだろう。

 私の知り合いの話だが、アイルランドの喫茶は(そしておそらくイングランドもだろうけど)主にティー・バッグを用いるそうだ。しかも、カップの中に入れっぱなしにしてそこにミルクや砂糖をどさどさ入れて飲むとか。
 あんまり趣味じゃないな。

 付記
 先日ネットの知り合いからアイルランドの紅茶事情について伺うことが出来た。ここの紅茶の普及率は本当に高いらしい。なんでもファーストフードの店でさえコーヒーよりは紅茶の方を飲む人が多いらしい。
 その理由は簡単で、特にこう言うところのコーヒーは凄く不味いからだそうだ。しかも紅茶を飲むときはかなり大振りなカップを用いるそうだから、消費量はかなりに上るとのこと。
紅茶の話 その11  今回は番外編。11月1日が何の日であるか。知っているだろうか?
 これは
「紅茶の日」。ネットというのは便利で、これに関して検索をかけたらちゃんとひろってくれた。
 この日は日本紅茶教会が定めた紅茶の日で、この日は実は日本人と紅茶の交わりがあった日を記念して、と言うことらしい。
 江戸の商人、大黒屋光太夫(
『おろしや国酔夢譚』の主人公)は、漂着したロシアから帰国の許可が下りたとき、エカテリーナ女王に謁見してお茶会に招かれた。それが1791年の11月1日で、日本人が初めて紅茶を飲んだ日というわけらしい。

 だけど、
これは嘘だ。紅茶とはヨーロッパが原産ではなく、隣国である中国が原産なのだから。それまでに数多くの日本人が中国入りしているし、当然紅茶と接する機会もあったと思われる。
 まあ、これはあくまで
「公式記録」として、と言うこと。些細な雑学。

 ちなみに
「コーヒーの日」もある。これは10月1日で、ブラジルのコーヒー豆の収穫が9月ごろに終わり、10月から新しい収穫周期に入るからだそうだ。こちらの方は現実的な理由である
紅茶の話 その12  今回は「紅茶」の話とはやや離れる。
 みなさんは中国で作られる茶で何が一番作られ、飲まれているかご存じだろうか。
 
「烏龍茶に代表される青茶」。と答える人間はまだまだ。実のところ、青茶を作っているところはかなり限られている。殊に烏龍茶に関しては作られているのは福建省と台湾だけである。
 答えは緑茶。次に紅茶(私の好きなキーマンやラプサンスーション)もここに入る、それから青茶と続く
(ちなみに日本で本当によく飲まれている烏龍茶の占める割合は中国では1/10に満たず、その多くは日本への輸出用である)
 中国でも緑茶が飲まれていると言う事実に驚かれる向きもあるかもしれないが、大部分の中国のお茶と言うのは緑茶なのである。有名なジャスミンティーも緑茶ベースだ。
 でも、日本で飲まれる緑茶とは、やや異なるのは事実。これは製法の違いによる。
 茶と言うのは緑茶も紅茶も青茶も同じ茶葉から造られるが、その製法において違いがある。緑茶と言うのは、茶摘みの後、あまり時間を掛けずに一度熱を通すのだが、
日本ではこれは蒸すのに対し、中国では炒るのである。この製法の違いが日本の緑茶と中国の緑茶の違いとなる。だから、中国茶の場合、青茶、紅茶、緑茶は見た目あまり変わって見えない。
 ちなみに紅茶の場合、茶摘みの後、火を通すまでに時間を置き、自然に乾かし、葉が発酵するのを待つ。緑茶が
「無発酵茶」、紅茶が「発酵茶」若しくは「完全発酵茶」と呼ばれるのはこの製法の違いによる。青茶はこのどちらの方法も用いる。つまり、しばらくの間発酵させ、それから火を通す。やや過程が複雑なものとなっている。
 中国で二番目に多く造られているのが紅茶だが、それでもインドやスリランカには敵わず、世界では三番目の生産量である。中国においてはそれだけ緑茶の占める割合が多いことの証拠でもあろう。
プーアール茶(黒茶)

烏龍茶(青茶)
紅茶の話 その13  ここで中国の茶全般についてもちょっと述べておきたい。
 中国の茶と言うのは大きく分けて6種類ある。全てに色の名前が付けられており
、白、黒、青、黄、紅、緑となる。勿論全て同じ茶の葉から作られている。
 折角だから一つ一つについて述べさせてもらおう。
 
白茶(はくちゃ):緑茶をほんの少し発酵させたもの。白毫と呼ばれる白い毛を多量に含むのが特徴。これは全て新芽だけで作られるお茶だけに高価となり、採算も合わないらしく現代では殆ど飲まれなくなったそうで、私も飲んだことはない。
 
黒茶(こくちゃ):これは日本でも比較的手に入りやすい。一番有名なものだとぷーあーる茶がそれ)。この特徴は一旦緑茶として作ったものを寝かしておき、徐々に発酵させたもの。プーアール茶が黴臭く感じるのはそこだ。本当に黴びてるんだから(笑)。しかし、これが実は黒茶の最大特徴で、この黴の成分がえも言えぬ風味を増す。新茶が好まれるように、お茶は新しいものが好まれるのだが、唯一これだけは例外。年数を重ねるほどに高価になる。30年ものなんかもあるそうで、これになると本当にグラムで数万するとか。
 
青茶(せいちゃ):いわゆる烏龍茶がその代表。紅茶と緑茶の製法を半々に取り入れたもの(この言い方は少々乱暴。ちゃんと独自の製法がある)、半発酵茶と言わる。割合苦みが少なくスッキリした味わいがある。
 
黄茶(こうちゃ):緑茶をほんの少しだけ発酵させたもの。青茶と似た工法が用いられるらしいが、むしろ青茶の方がメジャーになってしまい、白茶同様現在では殆ど飲まれていないらしい。
 
紅茶(こうちゃ):言わずと知れた紅茶のこと。このエッセイの主題でもある。昔はあまり作られていなかったそうだが、イギリスへの輸出用に多量に作られるようになり、現在に至っている。
 
緑茶(りょくちゃ):これ又日本に住む人なら馴染みの味である。特に最近はペットボトル入りの緑茶が烏龍茶を抜いて良く売られている。前に述べたが、中国の緑茶と日本の緑茶はやや異なるが、基本的には同じものである。

紅茶の話 その14  紅茶が好きなら中国紅茶にははまるな。と言う言葉を聞いたことがある。
 気がつくと紅茶ではなく中国茶そのものにはまっている自分に気付くからだそうだ。
 今のところ、私が飲んでいるのはキーマン、ラプサンスーション、そしてアールグレイ程度だが、確かに普通飲んでる紅茶は全部中国産。その傾向は確かにあるようだ。
 確かに茶そのものは中国から始まり、その歴史たるや二千年に及ぶ。日本でお茶が入ってきたのは唐の時代だから、千二百年ほど前。ヨーロッパで茶が飲まれるようになったのは高々四百年ほど前に過ぎないのだから、茶の歴史の源流であり、そして世界で最も豊富に、茶樹が作られているのも中国。
 それだけにそのヴァリエーションは実に豊富。そう言うのをテイスティングして、味が分かってきたら、確かに嬉しいだろう。確かに憧れもする。
 それで何故中国茶にはまるな。と言われるかは単純。
 値段である。
 何せ中国は華僑に代表されるように、商売上手。クズのような茶葉を最高級と偽って売るなど日常茶飯事で、高い金出して、これは美味い。と思っていたら、何のことはない。
「高さ」で美味さを感じているだけ。と言う笑えないオチがついたりする。
 結局
確実な買い物をするためには本物の高級茶を何度も何度もテイスティングして自らの舌を磨くしか方法が無い。本物の高級茶等というと、値段も馬鹿高い。紅茶が百グラムせいぜい三千円程度、高くても万を超えるものはそう多くないのに対して、グラムで万単位と言うとんでもないのまであるのが中国茶なのだから。
 桑原桑原。
紅茶の話 その15 紅茶の飲み方は千差万別。今までここで話してもきたが、茶の本場中国では基本的にストレート。それに対し紅茶の本場イギリスではミルクティーが普通である。他にも南アジアで主流のチャイもあるし、ジャムを入れるロシアン・ティと言うのもある。一つ一つで充分コラムが書ける魅力的な素材ばかり。
 それで十年ほど前から日本に入ってきた新しい紅茶の飲み方がある。
 
「ロイヤル・ミルクティ」それがその紅茶の名称。
 スリランカ茶をベースとして、水を用いずに熱した牛乳をお湯代わりに用いる方法である。牛乳と茶葉を一緒に煮出すチャイと違い、茶葉はあくまで「蒸らす」のが特徴。
 変わった飲み方なので、紹介記事を見つけたときに早速作ってみて、何度も失敗したものだ。
(後になってその理由ははっきりするが、それは又筆を改めて)
 冒頭に
「ロイヤル」と付くことから、王室との関わりを思わされ、高級感が感じられる。イマジネーションがたくましい人だったら、こうやって王室では飲んでいたのだろうと、未だ見ぬイギリス王室を紅茶の湯気に思い浮かべているかもしれない。
 
だが、ちょっと待って欲しい。
 イギリスの高級な紅茶の飲み方と言うのは、茶の質もさることながら、その器を愛でるのも一つのステータスとなる
(この辺、日本の茶道にも当てはまるが)。白い陶磁の中にたゆたう水色の液体に白いミルクジャーから軽くミルクを流し込む手順。そしてそこから漂う芳醇な香り。これが紅茶の楽しみ方だ。
 そして、このいわゆる「ロイヤル・ミルクティ」は淹れてみると分かるのだが、沸騰させた牛乳をベースにするため、透明感は全くなく、しかもベタベタする。更に飲んだ後脂肪分が固まって器に付着するため器を愛でることも出来ない。これに高級感を感じることが出来るだろうか?
 
感じられると言う人は結構。だが、私はどうしてもそれが疑問だった。
 先日ようやくその謎が解けた。
 ぶっちゃけた話。これは勝手に日本人が付けた名前だったのである。実は共通言語としての「ロイヤル・ミルクティ」なる名称は存在しないのである。
 どこかのメーカーがミルクティーを売り出すときにたまたまその名称を作ったところ、それが一般的に普及してしまったそうだ。

 これからは「ロイヤル・ミルクティ」はその名称の上に
「いわゆる」を付けて用いた方が良いかも知れない。
紅茶の話 その16  前に書いたが、紅茶と言うのはいくつかの定まった産地がある。最もよく飲まれるのがスリランカ産。その後でインド産、中国産、ケニア産と続くのだが、これだけお茶が作られているのに、日本産のが無いと思われるかも知れない。
 簡単に言ってしまうと、日本産の紅茶と言うのは、ほとんど無く、流通に流れることは少ない。前に私が大学卒業して就職説明を受けた茶の研究所
(落ちたけど)では静岡の普通の緑茶用の茶葉を研究室内で紅茶にしていると説明を受けた。結局研究室用でしかないのかな?とか思っていたら、ちょっと前、面白いニュースをNHKでやっていた。
 日本でもちゃんと商業用の紅茶が作られているというのだ。
 しかも、その産地は鹿児島。私が今住んでいるところに他ならない。確かに鹿児島も田舎に行くと茶樹をよく見かけるが、こいつは盲点だったな。
 紅茶のネット通販をしているところを覗いてみたら、少量ながらそこで売っている事がわかる。
 それで注文しようかどうか迷っていたら、売り切れてしまった(笑)
 私は紅茶の嗜好がはっきりしているので、好みでなければほとんど飲まないし、今持っているティーポットは中国茶専用だ
(一回他の紅茶をそれで淹れてしまうと匂いが付いてしまい、その後何杯かはどうしても味そのものに違和感を覚えるのだから、あまりやりたくない)。そう言うことで、結局鹿児島に住んでいながら飲む機会は無いかな?とか思っていた。

 つい先日、職場の同僚がニコニコして私に声をかけてきた。実は給湯室の整理をしていたら、古い紅茶のパックが出てきたと言うのだ。ちょっと冒険だけど、飲んでみません?と言われ、その紅茶の袋を貸してもらった。
 紅茶、とラベルには書いてあるが、どう見ても普通の緑茶のパック。おや?と思って製造元を見てみたら、
「鹿児島産」と書かれていた…
 何でこんな所に?ちょっと目が点になってしまった。
 
「勿論頂きます。どうせだからみんなで飲みましょう」。そう言って職場に備え付けてあるティーポットを使って淹れてみた。

 やっぱり古かったから風味は少し落ちていたが、ちゃんと香りもするし、味もちゃんとしていた。
 味も香りもほとんどスリランカ産と変わらない。だけど、微妙に独特な緑茶の風味もした。なるほど、これが日本産の紅茶の形なんだ。何となくそれで理解できた。
 これで一つ、又良い経験をした。
紅茶の話 その17  何度か書いているが、私が好きな紅茶はキーマン(キームン、キーモン)である。
 これは世界三大紅茶(スリランカ、ダージリン、キーマン)と言われるほどメジャーな紅茶の割に、日本では結構手に入りにくい。コツが分かれば結構簡単に手に入る場合もあるが、デパートの地下の輸入専門店でさえ置いてないところがあるのだから、ちょっと困る。
(鹿児島には紅茶専門店があり、そこには二種類のキーマンが置いてあって重宝してる)
 実は紅茶の本場イギリスでもキーマンは特別な時に飲まれる紅茶として位置づけされているらしい。現在の女王エリザベス2世はこの紅茶を好んでいるらしく、毎年の誕生日には特別製のキーマンを王室に振る舞うのだとか。そう言うのを飲んでみたい。
(言うだけは無料)
 ただ日本では今ひとつマイナーな紅茶だ。それは、生産地が極めて限定されることと
(中国の祁門県のみで生産される)、無農薬で、全ての工程が手作業で行われる事などが挙げられる。それで生産量があまり多くなく(年間数百s程度)、その大半はイギリスで飲まれてしまうと言う問題がある。
 時間があるとついつい淹れて、場合によっては100グラムを2週間で飲んでしまう私だが、これもある意味資源の無駄遣いと言えなくもない。
紅茶の話 その18  私は自分で淹れる分にはあまり飲むことがないのだが、大切な紅茶の飲み方にミルク・ティがある。外で紅茶を飲む場合、もっぱら私はこれにしている(不味い紅茶を飲むくらいなら不味いコーヒーを飲む方がましなので、普通ならコーヒーにするけど)。
 喫茶店などでミルクティを注文すると、色々な出され方をする。最初からミルクが入っている場合もあるし、紅茶とミルクが分かれていて、ちゃんとミルクピッチャーに入った牛乳が出される場合もある。
 最初からミルクが入って出てくるとか、プラスチックのコーヒーミルクが付いているのは論外として、ちょっとコツなどを。
 ミルクピッチャーと共に出てきた場合、ちょっとそのピッチャーをさわってみると良い。良い店だとちゃんと暖まっているはずだ。冷たい牛乳を熱い紅茶に入れるのは避けるべき。せっかくの紅茶の熱さが損なわれるし、何より牛乳の脂肪分が紅茶の表面に固まって、見た目も味も落ちるようになる。
 牛乳及びピッチャーをちゃんと暖めて出すのが良心的、と言うより、金を払ってるんだから、その位して欲しい。
 あとこのミルクを紅茶に入れるとき、ピッチャーを持って少し揺り動かしてみて欲しい。ミルクは熱すると脂肪分が固まって表面に皮膜を作る。これは避けられないことなのだが、同じ温度でも皮膜が多い牛乳と少ない牛乳とがある。それを見て欲しいのだ。
 日本で市販されている牛乳の大部分は
高温殺菌牛乳(100℃以上で数秒殺菌したもの)だが、これは実は皮膜が非常に出やすい。ピッチャーを揺すると皮膜が厚いことが分かる。これはミルクティには向かない。向いているのは低温殺菌牛乳の方(50℃〜60℃程度で1分以上加熱殺菌したもの)。これを使っていると皮膜はあまり多く出ることなく、しかもミルクティには実に合う
 ピッチャーを揺すって、その中身の牛乳が低温殺菌のものだと分かれば、その喫茶店は紅茶のことを本当によく分かった喫茶店だと言うことになる。そしたらピッチャーを揺すって皮膜をピッチャーにくっつけてから、温かいミルクを紅茶に注いで飲んで欲しい。ミルクの分量はお好みで。砂糖をたくさん入れる人はミルクもたくさん入れる方が良いし、あまり甘いのが好きではないと言う方だったら、ほんの少し、色が付く程度に流し込むのが良い。
 もう一つコツを言うなら、紅茶の色をちょっと見てみると良い。ストレートと較べ、ほんの少し濃くしてあるなら、それはよく分かっている証拠。ミルクの味に負けないよう、濃いめに淹れるのがコツ。
 それでミルクを入れる時は、そのままミルクを注ぎ込むのではなく、一度スプーンを用いて攪拌してから、紅茶が回転している内に少しずつ注いでいく方が良い。その方がミルクの混ざり方が均等になるし、ミルクの被膜防止にもなる。
紅茶の話 その19  ミルクティについてもう少し。
 ミルクティはイギリスでは普通紅茶と言ったらミルクティを飲む。勿論ストレートで飲む人もいるらしいが、スタンダードは甘くしてミルクをたくさん入れて飲む。
 この飲み方がスタンダードになったのはいくつかの理由がある。
 先ずイギリスでの水が硬水であること。前にも書いたが、硬水と言うのは茶のタンニンと結びつき、沈殿を起こしやすい(茶渋)。そうすると味が落ちるし、見た目も悪い。だからミルクを入れてそれを見えなくするのと同時に、味に丸みを持たせる。茶の純粋性は薄れるが、会食用には丁度良いだろう。少しさましてから沈殿した茶渋を飲まないよう注意し、残った茶渋で紅茶占いもできる
(寡聞にして私はそのやり方は知らないが、残った茶渋の形で占うんじゃなかったか?)
 そしてもう一つの理由。これは歴史に関わる。
 これも前に少し書いたが、茶がイギリスに渡ってきたのは産業革命時代。上流階級に行き渡った紅茶は労働者階級にも入り込んでいった。
彼らが飲んでいたのはアイルランドやスコットランドで「抜き荷」した紅茶で、言ってしまえば「低級品」のレッテルを貼られているもの(実際に質が悪いわけではないんだけど)。とにかく安く、多量に仕入れたものを仕事の合間に飲んでいた。
 重労働の後で飲むものだから、疲れを取るためにも甘く、そして栄養があるものが良い。そう言う意味でミルクティというのはうってつけの飲み物だったわけだ。
 中国のお茶がストレートで飲まれているのに、イギリスではミルクや砂糖を入れる理由はこんな所にもある。
 そして勿論、ミルクや砂糖を入れる場合、茶が生っぽいとあまり合わないので、緑茶や青茶(烏龍茶みたいなの)ではなく、完全発酵茶である紅茶が好まれるわけだ。
紅茶の話 その20  私たちが普段飲んでいる緑茶が中国から来たと言うことはご存じの方も多いだろう。それでその原産国の中国には面白い伝説がある。
 全ての茶樹は
たった一本の茶樹から枝分かれしたというものである。どこだったか忘れたが、その木は観光地になってるとか…もし本当なら樹齢1000年以上になるんじゃないのか?まあ、眉唾な話には違いないが(DNA鑑定すると、日本の緑茶と中国茶は種類こそ同じだが、ほんの僅か系統が違っていたと言う記事を丁度つい先日読んだ)
 しかし伝説通りだとすると、日本で飲まれているのも、スリランカやケニアで作られているのも、当然ながら中国で作られているのも、全く同じお茶の種類と言うことになる。それでこれだけ個性的になるんだから、お茶というのも面白い。世界中のほとんどの紅茶や緑茶が一系統と言うのは、結構ロマンティック。

 ただ、実は茶樹の種類が違う紅茶が一種類だけある。
 
ダージリン紅茶。この紅茶の茶樹だけは完全に系統が違う。
 実はこれ、インドの高地に自生していた茶樹をイギリス人が見つけ、それを栽培してみたのが最初だという。
 更に中国産の茶樹が低地向きなのに対し、ダージリンは高地向きで、高いところで取るほど高級になる傾向がある(いつかこれに関しても書いてみたい)。その辺もちょっと茶樹の違いと言うところか。
 ダージリンが独特の風味と苦みを持つのは、そんなところに理由がある。
紅茶の話 その21以降