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紅茶の話その5

紅茶の話 その25  先日ネットで購入したユンナン茶で失敗していながら、性懲りもなくネットで紅茶を購入した。今度の紅茶は金毫茶と言う。多分知っている人は殆どいないはず。何せ今年初めて市場に投入された紅茶だ。
 中国茶好きとしては…
その23で既に述べた)。しかし、その値段が結構凄かった。50グラムで2200円。私がいつも飲んでいるキーマンで100グラム通常800〜2300円程度(メーカーによってバラバラ)。つまり私が普通飲んでいる紅茶の優に倍はする値段だ。
 まあ、初物だったら話のネタ
(つまりこのコラムで書けると言うことだが)くらいにはなるだろうと思ってネットで購入。
 まずはパッケージを開けてちょっと驚く。何と茶葉が細いことか。金毫と言うだけはある
(金毫と言うのは、茶葉の本当の先っぽだけで作られた紅茶。極めて細い)
 それで先ずパックの中の香りを嗅ぐ。どこかで嗅いだような…気が付いた。最近スチールペットボトルで発売された
「中国緑茶」の風味によく似ているのだ。キーマンとはまるで異なる香り。
 さすがに茶葉が細いから蒸らし時間は相当に抑える必要がある。いつもの手順でお茶を淹れ、少し早めにカップに移す。水色(すいしょく)はやや薄目。
 香りはますます芳醇になっている。生っぽいと言うべきか。これが嫌いな人も多いが、キーマンで慣れている私としてはとてもかぐわしい。
 それで口に含む。
 確かにこれは未体験。今まで飲んだことがある中国紅茶とも、勿論スリランカ茶やダージリン茶ともまるで違う。
 そして中国茶で最も大切と私が思っている喉の通りと後味。するすると喉を通っていくこの感触。キーマンに勝るとも劣らぬ。しかも、後味が甘い。キーマンで淹れた時でも5〜10回に1回くらいの割合でこの甘さが出ることはある
(この甘さが好きだからこそ、病みつきになった)。しかし、これは見事に一発だった。香り、味、喉ごし、後味。全てが見事だ。
 ただ、偶然と言うこともある。直後に二煎目を淹れてみた。
 全く変わらぬ。
 素晴らしい。
 丁度今、二煎目の紅茶の残り1/3ほどが残っている。これを一気に喉に流し込んでみよう。
 …美味しい。
 しかも後を引くぞ。この紅茶は。中に麻薬の成分でも入ってるんじゃ?
(確かに紅茶には多少アルカロイドは入ってるはずだが)
 こんな紅茶があろうとは。今度ばかりはネットに感謝したい。
 ようやくキーマンを超える紅茶を発見できた。正直50グラムじゃ足りないと思う。又注文したくなってきた。これが簡単に手に入る時が来るのだろうか?それとも超高級なマニア用として確保するしかないか…
金毫茶
紅茶の話 その26  世は今や、健康食ブーム。どうせ食べるなら、なるだけ身体に良いものを求める風潮がある。自然食やサプリメントは大変良く売られ、身体に良い料理。と聞くとこぞってそう言う料理が作られるようになる。
 これはなにも日本国内だけではない。世界的なブームとなっている。
 それでお茶もこの健康ブームに乗って、世界的に認められるようになり、今や空前のお茶ブームなのだそうだ
(日本でもペットボトル入りのお茶が随分発売されてる)。特にヨーロッパではドイツがようやく(笑)身体を大切にすることに目覚めたらしく、特に伸びが激しいのはドイツだそうだ。
 お茶が見直されたというのは、紅茶好きとしては嬉しい部分もあるが、同時にちょっと嫌な所もある。
 具体的に言えば、紅茶の値段が上がる。と言うこと。
 私が飲んでいるのは中級から下級のお茶になるので、今のところあまり影響は無いが、100グラム数千円という上級及び中級の紅茶の値段は、着実に上がっている。痛し痒しと言うところか。
紅茶の話 その27  紅茶の最大の産地はどこと聞かれたら、これは言うまでもなくスリランカ。ここでの産出量で全世界の紅茶産出の半分以上を賄っている。そして二番目、これがインドになる。いわゆるダージリンを中心とする地域がそう。この二つの地域で世界の70%以上の紅茶が作られているのだから、馬鹿にならない量である。
 スリランカ(セイロン)であれ、インドであれ、どちらもイギリスの支配下あったことはご存じだろう。つまりそのどちらの地域も、イギリスによって茶樹が栽培されていた過去を持つ。その内のインドについてだが、ここでイギリスが独占的に扱っていたのは、実は紅茶だけではない。
 
麻薬、ヘロインや阿片の原料となる大麻もそう(現在黄金の三角地帯と呼ばれるようになった大規模な大麻畑は、この時代あってこそ)。で、これも歴史的に突っ込んでいけば大変面白いのだが、今日はそれとは違う。
 紅茶、殊にミルク・ティには欠かせないもの。
砂糖がそれ
 お茶だけでなく、いやむしろこの砂糖の独占貿易こそがイギリスに大きな富をもたらした。殊にフランスでは18世紀以降、爆発的な砂糖ブームを引き起こし、その消費量は一気に跳ね上がる。
 フランス料理と言えば、味もそうだが、その豪華な飾り付けが一つの大きな特徴でもある。食卓を彩る食べ物だけで作られた飾りは貴族のみならず、裕福な庶民にもブームを起こした。そしてその中心となったのが砂糖なのだ。
 砂糖というのはサラサラとした粉には違いないが、少し熱を加えてやれば、あっという間に可塑性の高い粘土細工のようにもなる(ちょっと加工するには技術が必要としても)。更に粉に少量の水を加えてやると、崩れやすいが立派に細かい細工が可能な造形素になる。フランスでは食事のためのみならず、こう言うところにも砂糖はよく用いられていたので、非常に砂糖の需要が高かった。しかもこのような造形に用いるためには純度を高くする必要があった。通常用いられる砂糖は黒っぽくて複雑な味がするが、純化を繰り返すことによって細かいパウダー状にしていく。それを国内で行うのではなく、輸入に頼っていたのがフランスという国だった。
 贅沢をする事がステータス・シンボルとなるのは洋の東西を問わずだが、ここでのフランスでの贅沢は度が過ぎていた。結果としてヨーロッパ中で一番貧富の差が大きくなっていったのがフランスで、それが後のフランス革命の原動力の一つとなったのも確かな話である。
革命を起こすのは高邁な思想ではない。今日のパンに事欠くことこそがなによりの原動力だ。
 今回はちょっと紅茶からは離れたが、これも又、紅茶が間接的に世界経済に与えた影響に他ならない。食べ物から見た歴史と言うのも、調べてみると面白いもの。
紅茶の話 その28  紅茶好きな人なら分かると思うが、紅茶を淹れる際、やはりこれだけは納得いくものが欲しい。と言うものがあるとすれば、やはりティー・ポットとティー・カップだろう。
 ちなみに私はティー・ポットは凝る方ではない。今使っているのは五年ほど前に東急ハンズで買ってきたティー・コゼ
(保温用の断熱材。布を使うのが一般的だが、私のはティー・ポットに装着するタイプ)付の奴で、確か値段は2800円だったかな?そんなに高いものじゃない。それ以外にも、色々な所からいただいた、結構高そうなティー・ポットが二つほど。どっちも棚の奥に置いて一度も使ってない。やっぱり使い慣れたポットの方が良いからね。(でもこれも4つ目だったかな?よく壊すから)
 それに対し、ティー・カップに関しては、結構こだわってるつもり。いつも紅茶を淹れるときは普通のティー・カップの1.5倍位の量を淹れるので、それに合うカップを用いるが、
ちょうどこの大きさってあまりないのが問題。
 今まで5つのカップを使ってきたが、そのほとんどが観光地で買ったものだ
(何故か観光地には大きめのティー・カップが多い)
 1つ目は今から10数年前。普通の陶器屋で買ってきた普通の大きさのカップだったが、これはすぐに割れた。
 2つ目のカップは高知に旅行に行ったとき。坂本龍馬の絵がかかれたもの(笑)。これがかなり大きなカップで、それで飲み慣れたら、大きなカップが好きになった。割ってしまう可能性を考え、以降旅行に行くたびに土産物売場でその大きさのカップを今でも探している。
 それで3つ目のカップは松山だったはず。道後温泉に入って、ぶらぶら土産物売場を回っていたら、まさにぴったりの大きさのものがあった。歴代のカップではこれが一番高く、
5500円くらいだったかな?。2年くらいで壊れてしまったけど…
 4つ目は沖縄。カップ自体は薄いのに、かなり頑丈で、とても気に入った。これを使っていた時期は結構長いし、未だに割れずに、棚で眠っている。これが
2800円
 そのお気に入りをお蔵入りさせることになったのは、知り合いに趣味で陶器を焼いている人がいて、冗談半分にこれこれこういうカップを作って欲しい。と言ったところ、本当に作ってくれたことから。色々難癖つけた上で作られたものなので、完全な私のパーソナル・ティー・カップとなっている。もう2年使ってるな。ほとんど毎日毎日、日によっては一日二杯や三杯…随分お世話になってる。
 実はこれだけでなく、先日熊本に行って来たときも色の良いカップを見つけてきたので買ったし(
5000円くらい)、紅茶好きだと知られているので、贈られたティー・カップもある(勿論普通の大きさのカップだから自分では使ってない)。合計で6脚くらいあるかな?
 陶器で出来ている以上、ティー・カップは消耗品。あまりに凝るのも考え物だが、自分で飲むものを見つけるって言うのは楽しみでもある。
紅茶の話 その29  先日鹿児島から静岡に引っ越した。
 それで分かったことがある。
 ここでも相変わらず紅茶を飲み続けているが、鹿児島の時と同じように紅茶を淹れたらやたら苦い事に気が付いた。
富士山から来た水は美味いと聞いていたのだが、意外な話だ。実は水のおいしさというのが楽しみの一つだっただけにちょっと肩すかしを食った気分。
 それでちょっと考えた。なんでこんなに苦いのか?
 紅茶を淹れるのに時間を計ることはないのだが、どのくらいの時間でおいしい紅茶が淹れられるのか、鹿児島では大体理解していたのだが、やはり所変わると淹れ方も違ってくるらしい。
 それでちょっと抽出時間を短くしてみた。
 あれ?
とてもおいしい。何回か淹れ直しても、おいしさは変わらなかった。
 その理由というのを考えてみる。ちょっと化学的に。
 水には硬度というのがあり、その硬度によって茶の抽出は変わってくる。
 硬水になればなるほど水の成分が茶の成分とくっつきあってしまう。
 具体的に言えば、硬度が高ければ抽出時間は長くなり、硬度が低ければ抽出時間は短くなる。
 日本の水は硬度が低い軟水なので、抽出時間は短くて済むのだが、それでも鹿児島と富士とでは随分硬度が違うらしい。ここの水は更に硬度が低いということだ。

 つまり、鹿児島の時と較べ、心持ち抽出時間を短くすれば、その固有の水の旨さを知ることが出来る。
 更にここの水は富士山から流れてくる。汚染度がかなり低いから、紅茶も美味くなるのかも知れない。
 時期的に今が一番水が美味くない時期に当たるのに、これだけ水が美味いというのは驚き。流石富士山というべきかも。
 これだったら、
富士山からの雪解け水が飲める春がとても楽しみだ。
富士山の水
紅茶の話 その30  新しい土地(静岡)に来て、少し困った事。
 紅茶専門店の場所が分からない。いや、そもそもそんなものがあるのかどうかさえ分からない。私の好きな紅茶、キーマンでも安いのだったら時折スーパーに置いてあることがあるのだが、ここにあるスーパーには全く置いてなかった。
 こうなると頼りは遠出をした時に買い込むか、それともネットを利用するか。になる。
 ネットはそう言う意味では便利だ。ちょっと検索をかけてみると程なく見つかるし、それに紅茶専門店のサイトはいくつか抑えてあるので、そこから購入も可能だ。
 それで先日そう言うサイトでキーマン茶を購入してみた。
(高かった)
 飲んでみての感想。
 おいしかった。
 多分今まで飲んだキーマン茶の中では
最高の美味さだろう。
 だが、ちょっと首をかしげてしまった。
 確かに美味いのは美味いのだが、これはキーマンの味じゃない。今まで様々なメーカーのキーマンを、それこそ毎日飲んでいるのだから、茶の味くらいは私だって判別できる。
 確かに奥からキーマンの味はする。だが、なんか違う。
 それで不意に気付いた。
 これ、フレーバー・ティじゃないのか?
 
フレーバー・ティというのは、紅茶に様々な香料を混ぜることによって、味に深みを増す方法だが(良い例がアール・グレイ)、この場合、屑茶を高級に思わせる方法としても用いられている。
 キーマンに関しては確かに香りが生臭い感じがするから、一般的とは決して言えないが、それでも慣れると癖になる香りだ。それが好きなのに、よりにも寄ってその良さを踏みにじるとは。
 良く味わってみると分かる。中国産の緑茶の粉末がここにはかなり入っている。
紅茶に緑茶を入れるか?確かにそれによって風味は増すし、舌での味わいもふくよかにはなってる。
 だが、それにしてもキーマンはキーマン単体で好きなんだよ、私は。
変な混ぜものをして欲しくない。

 それで昨日の出張で静岡に行った際、デパートの地下を探し回り、ようやく一缶キーマンを見つけてきた。
 今日それを淹れてみて飲んだ。
 確かに通販で買ったものと較べ、
格段に風味は落ちる
 だけど、ちゃんとキーマンの味がしてる。やっぱりこっちの方が良い。
 通販で買ったものは、時折高級感を味わいたいときに飲む特別なものとしておこう。
 結局紅茶を知るには、理論とか何かではなく、
自分の舌に頼るしかない。その事を再確認させてくれた出来事だった。