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紅茶の話10

紅茶の話 その55  今回は紅茶そのものではなく、紅茶と共にいただくもの、つまりお菓子について書いてみよう。
 紅茶にはお菓子が付いているのが普通。これはそもそもイギリスでの風習から来ている。イギリスでは紅茶の時間は単に楽しむのみならず、小腹を満たすためにあるから。
 だから単独で紅茶を楽しむも良いが、やはりこれは避けて通ることが出来ないだろう。
 さて、しかしながら紅茶に合うお菓子。と言うと、ちょっと考え込んでしまう。
 取り合わせがあまりにも多すぎ。しかもどれが合うか合わないか。というのは大変主観的なものになるから。紅茶自体に入れるのもミルクやレモンなど、又紅茶を甘くするかそのままストレートに飲むかで、合うお菓子というのもずいぶん変わる。それにお菓子を主体とするのか、紅茶を主体とするのかによっても合うお菓子というのは難しくなってしまう。
 それで今回これを書くに当たって、いくつかの縛りを入れてみよう。
 まず、
紅茶を主体としたお菓子であること。つまり紅茶の味を引き出す、あるいは紅茶の渋みを緩和すると言う形でのお菓子。それと、なるだけなら紅茶は甘くないものとして考える。この二つを念頭に置いて、合うお菓子を考えてみよう。
 とりあえず取り合わせで合う(と思われる)ものを書いてみる。

1.スリランカ(ウバなど)
  この紅茶が一番ポピュラーで色々なお菓子に合うが、紅茶自体の味わいを楽しみたければ、カステラ、スコーン、マドレーヌなどシンプルなお菓子を。紅茶はミルクでもレモンでも好みで。

2.アッサム
  紅茶自体よりもお菓子の方を楽しむタイプの紅茶なので、ちょっと味の濃いものも大丈夫。シュークリームやショートケーキなど。紅茶はミルクでもレモンでも好みで。

3.ダージリン
  香りが身上だけど、味わいは癖があるので、お菓子はかなり甘いものが良し。やっぱりケーキ類が一番。ただし、紅茶自体は味を付けず、甘くなった口の中を洗い流す気分で。味も強いので、甘いお菓子に負けない。意外なことに辛いお菓子にも結構合う。

4.ラプサンスーション
  中国産の極めて癖の強い紅茶。これも味がきついので、思い切り甘いお菓子が良く合う。そしてこの紅茶の最大特徴として、なぜか和風のあんこにも良く合う。饅頭やきなこ餅など、試してみると意外によく合うことに気づく。他に煎餅などにも結構合う。これも紅茶自体には味を加えずに。

5.キーマン
  私の大好きな紅茶で、これに関してだけは他に一切いらない。紅茶自体の味を楽しむべきもの。上手く淹れると、ほのかな甘みが出るので、これだけで他には何もいらない。 ただし、淹れ方を失敗した場合、焼き菓子などが結構合う。

 と言ったところ
。紅茶には香りが身上のものと、口当たりの良さが良いもの、紅茶の味自体を楽しむものと言う具合に分かれるため、それぞれの特徴を活かすためのお菓子が欲しくなる。
 概ねスリランカおよびアッサムは紅茶の口当たりが良いので、朝食などに一緒に出して飲まれることが多いが
(この場合は甘くする)、お茶主体で考えると、その口当たりの良さを活かして、お菓子自体はあまり複雑な味を持つものより、単純な味のものが良い。クッキーとかスコーン、ビスケット。カステラなんかも結構いける。ミルクと小麦粉で作ったものに合うと言うことになるだろう。紅茶自身を多少甘くしても良い。ちなみにクリームの付いたケーキなど濃いめのお菓子を出すと、紅茶の味が分からなくなってしまうので、紅茶を主体と考える場合は避けた方が良い(ただし、お菓子が主体だったらそれで充分)
 一方、ダージリンは芳香と、渋みの強い味が身上。この場合、多少味が濃いお菓子でも充分。むしろ
多少味が濃い方が、紅茶の酸味とぴったり来る。口の中が甘くなったら、それを洗い流す感じで紅茶を飲む、あるいは口腔内の渋みをお菓子の甘さで中和する感じで。もちろんこれも好み次第で、後お茶の味自身を楽しみたかったら、少し甘めのクッキーなんかが一番良いかもしれない。紅茶にミルクを入れるのも良いが、なるだけなら砂糖は避けたい。
 あと、参考にラプサンスーションを入れてみた。これは極めて特殊な紅茶で、いぶした松の木で発酵を促した紅茶なので、香りも味も、かなり強い酸味を感じる。で、このラプサンスーションについてだが、面白いことに和菓子がよく合う。これは考えてみると、濃茶と同じ感覚なのかもしれない。濃い日本茶に合うものは大抵何でも合う。逆にラプサンスーションを単体で飲む人は、相当の通と言える。
 キーマンは私の大好きな紅茶だけに、これだけはそのまま飲みたい。ただし、この紅茶はかなり微妙で、淹れ方を失敗すると単に苦いだけになってしまうため、この場合にはなにか甘いものがあった方が良い感じ。

 他にもフレーバー系の紅茶も結構あるが、この辺はやはり好みで。甘いのが結構合うフレーバーティもありそうだ(ほとんど試したことがないから勧められるものが出てこない)。

 ちなみにダージリンは意外に辛いお菓子にも良く合う。
試しに煎餅を囓りながら飲んでみると結構おいしかったりする。これが結構合うのだ…私だけか?
ラプサンスーション
紅茶の話 その56  そう言えばスリランカ茶(セイロン茶)について書くつもりで資料を集めてたら、膨大になってやる気が起きなくなってしまっていたことを思い出した。そのうちかいつまんで書いていくことにしよう。
 で、今回は少々目先を変えてアフリカの紅茶について書かせていただこう。
 ちょっと前までは輸入品店にでも行かなければお目にかからず、しかも多量で安い。と言う悪いイメージしかなかったが、最近になってようやくそこそこ店頭でも見られるようになったってきた。
 実際アフリカ産の紅茶は近年までブレンド用もしくはティーバッグ用としてしか用いられてこなかったが、最近はケニア産紅茶などは結構評価されつつあるらしい
(と言うか、普通見られるアフリカ産紅茶の大部分はケニア産で、実は輸出量は既にスリランカに次いで2番目になってる)。だからティーバッグで紅茶を飲んでいるなら、その中身のかなりのパーセンテージはアフリカ産だと思って間違いない。
 そもそもアフリカには茶樹は自生していない。これらはインドやスリランカから持ち込まれた茶樹を栽培したものだ。やはりこれもイギリス(少しフランス)の植民地となったアフリカ各国の広大な地所と安い労働力に目を付けた管理者達がスリランカやインドのプランテーション職員を招いて作り上げたらしい。ちなみに茶樹はほとんどがアッサム種が用いられている。
 ここでもかなりの苦労があったそうだ。何せ、当時のアフリカは植民地と言っても、そこに住んでいる人たちは集団農法を経験したことが無く、それどころかそう言うことをしようとも思わなかったから。だから大規模プランテーションはほどなくして消え去り、やがて村毎の小さな茶畑の分業へと変わっていった。
 更に大戦後、独立運動が盛んになったため、イギリス人が経営していた茶工場は次々と封鎖。生産量も変動が続いたが、今は国毎の産業として安定した供給量を保っているそうだ。
 生産国で言えば、日本で手に入りやすいのは、やはり
ケニアが一番だが、他にもタンザニアウガンダマラウィルワンダブルンジジンバブウェなど。大きな紅茶専門店などに行くといくつか見つけることが出来るだろう。一応全てアッサムベースなので、味そのものはあまり変わらないようだ。

 私はずいぶん前に一度購入したことがあったが
(輸入雑貨店で、500グラム1000円というやつ)、これが結構飲みにくい上に、あまり紅茶らしくないのが問題。私が購入したのはリーフティだったが、抽出時間を結構取らないとお茶らしい味がしない上に、妙に苦い。飲むんだったらかなりミルクをたっぷりと入れて甘くして飲むべき紅茶というイメージしかなかった…飲みきるのに苦労した覚えがある。
 でも、つい先日飲んだ紅茶は結構おいしい。こちらはブロークンタイプので、アッサム系の、ややゴツゴツした味が味わえる。数年でこんなに変わるはずはないので、前に飲んだのが酷すぎたというのが結論。
 抽出時間をやや長目にとって、濃いのをたっぷりミルクを入れて飲むのが良い。個人的に言えば、砂糖もたっぷり入れると良いと思う。
 基本的にアッサムと同じように飲んでみるのが良し。
アフリカ紅茶

ケニア紅茶

タンザニア紅茶

マラウィ紅茶

ルワンダ紅茶
紅茶の話 その57  今回は日本の緑茶の話。緑茶は大きく分けて日本のものと中国のものがあり、日本では茶葉を蒸して作るのに対し、中国では煎って作るのが大きな特徴。それで日本では昔から蒸し茶ばかり作っていた訳だが、一時期、日本でも煎り茶の製造が急激に増した時期があった。
 江戸時代末期。この時代に日本に登場した初めての本格的女性貿易商である大浦慶(1828〜1884)は、欧米との茶貿易に目を付けた。折からのアヘン戦争により、中国の茶貿易が困難になった折の事である。彼女はここで中国産の煎り茶の不足を補い、欧米の茶貿易商に対して日本産の煎り茶を売り出したのである。産地は九州地方に限られていたが、戦火が拡大して行くに連れての増産に次ぐ増産で、九州北部(大浦は長崎の貿易商)の茶製造は一気に盛り上がり、更にそこで多量の煎り茶が作られていったのである。その量は年に1万斤(約6トンだが、慶の手記によれば10トン近かったらしい)以上もの量があったという。中国茶に目を付けた大浦の目算は見事に当たった訳で、九州には茶製造のブームが起こった。
 だが、中国との戦争が終結し、イギリスと中国との貿易が正常通りに行われるようになったのと、イギリスは植民地であるセイロン(現在のスリランカ)とインドでの茶樹の栽培に成功しており、そちらからイギリス人好みの紅茶が量産されるにいたり、やがて日本産の煎り茶は見向きされなくなる。やがて欧米は嗜好品として、日本の蒸し茶の方を好んで買うようになるに至り、九州での煎り茶ブームは終わりを告げることになる。大浦慶もその後、事業の失敗や維新の侍達へのふんだんな資金供給などにより多くの借財をこさえてしまい、晩年は寂しく亡くなったとのこと。
 歴史に埋もれた一コマではあるが、日本における茶の歴史にはこのような事実もあったことは明記しておくべきだろう。
中国緑茶
紅茶の話 その58  紅茶の飲み方も様々。先にフレーバードティの項目で紹介したが、紅茶に様々な果物を加えて飲む飲み方もある。
 その中で最もメジャーと思われるものを挙げろ。と言われたら、日本人であればおそらくレモンティを挙げる方が多いと思われる。
 レモンティ。これは日本ではミルクティと共に好まれる…むしろレモンティの方が好まれているかもしれないほどのメジャーな紅茶の飲み方。だが、世界的に見ると、この飲み方は実はあまり多くない。日本以外ではこの飲み方をされるのはアメリカだけ。
 これには理由がある。そもそもレモンティを開発したのがアメリカだから。という、なんのひねりもない事が真相。
 そもそもレモンを紅茶に入れる風習とはヨーロッパにはなかったが、たまたまアメリカで多く作られているレモンを入れてみたら、味がずいぶん変わったと言うことで、まずアメリカでメジャーになった。何せアメリカはレモンの生産地としても有名だけに、あっという間にこの飲み方が広まった。
 そして第二次世界大戦後の日本市場に目を向けたレモン業者が
「紅茶にはレモンを」という大々的なキャンペーンを張ったため、日本でもメジャーになったというのが真相である。まあ、バレンタインデイにはチョコレート。と同じように市場原理が働いていると考えて頂いて結構。
 では何故ヨーロッパでレモンティがメジャーにならないのかというと、これはレモンの味が強すぎて、紅茶にレモンを入れると、全く別物の味になってしまうから。という事らしい。嗜好品の一つとしては良いにせよ、紅茶は紅茶として味わいたいならば、あまり好むべきではない。と言うことだろうと思われる。実際、レモンスライスを入れる前と入れた後で紅茶を飲んでみると、全く別物に感じてしまう。レモンティは紅茶本来の味よりもレモンの酸味を味わうべき飲み物になってしまう。
 かといって、それが悪いとか、だからレモンは入れるべきではない。
などと言うつもりはない。紅茶の飲み方など、それこそいくらでも幅があるし、だからこそ楽しいのだから。
 さて、そうすると、一体どんな紅茶にレモンが合うのか?と考えてみよう。
 レモンの酸味が強くなるため、お茶自体に強い個性があるものはやはりあまり合わないようだ。特にダージリンは絶対お薦めしない。日本では主に好まれるスリランカ茶も、お茶本来の味わいを楽しもうとするなら、やはり絶対にこれ!とは言えない。結局これは最も味に癖と渋みの少ないアッサムと言うことになるだろう
(ものの本によれば、ニルギリが一番良いとのこと)。茶葉の値段もほどほどなので、これは結構お薦めである。
 それで飲み方だが、レモンスライスはなるだけ薄いものを使用し、紅茶に漬けたらすぐに引き上げるのがベスト。せいぜい1〜2秒と言うところだろう。あまり長く入れると苦みが増してしまう。それで、この場合はなるだけ砂糖を入れて甘くすることをお薦めする。砂糖の甘さが紅茶とレモンのぶつかり合いをうまく中和してくれる。この方法だと、紅茶の色が一瞬にして変化するという課程を目で楽しむことも出来る
(これはレモンのクエン酸のためらしい。茶色がかった水色が一瞬にして黄金色になる)
 お薦めはアイスで。この場合はレモンスライスよりも絞ったジュースを少し入れると良い。アイスティにすると紅茶の味がやや締まらないものになる場合があるので、アクセント的に良いし、特に水出しで作るならば、かえってレモンがあった方が味がよいと感じる。アイスティを作った際、グラスにレモンスライスを刺して、目で楽しませる事も重要だろう。お客様用にはなかなか凝った感じになるだろう。勿論ここでも甘くすることをお薦めする。この場合は砂糖ではなくガムシロップで。
レモンティ

ニルギリ紅茶