ケルベロス

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ケルベロス 地獄の番犬 stray dog KERBEROS PANZER COP
<A> <楽>
押井守(脚)
藤木義勝
千葉繁
スー・イーチン
松山鷹志
★★★★
物語 人物 演出 設定 思い入れ
 ケルベロス動乱から三年。自分を置いて逃げた都々目紅一(千葉繁)を求め、乾(藤木義勝)は台湾を彷徨う。何故追うのか、自分は彼と会って何をしたいのか、それも分からないまま。台湾で出会った紅一の情婦と思わしき少女唐蜜(蘇意菁)と共に紅一を見つけだした乾は…
 物語としては『紅い眼鏡』の前日譚に当たる話だが、微妙なところでこの二作は設定が異なる。一種のパラレルワールドのような物語として考えるべき作品だろう。
 はっきり言って、
退屈な作品である。言葉の端々に押井風をまとわせつつも、淡々と物語は進む。
 予算そのものが極めて低額で作られた作品で、その予算の大半を最後のプロテクト・ギアをまとっての殺陣に金をつぎ込んだため。と言う悪評もある。それだけに最後の殺陣描写はなかなか凄い。
邦画でMG-42をあれだけ縦横無尽に扱った実写作品は本作をおいて他に無い(アニメだと、やはり同じ世界観からなる『人狼』(1999)があるが)
 ただ、確かに最後のシーンは圧巻とは言え、実際には監督の描きたかったのは、その退屈なシーンにあったのかも知れない。この眠気を誘う描写はある意味、押井氏の本当に描きたいものが含まれているような気もする。極端なまでにこだわった道端の描写も、
かつて日本という国が持っていた、失われた「何か」を求めるための彷徨なのだろう。
 その意味で監督自身の彷徨とオーバーラップさせることが出来れば、この作品はかなり楽しいものとなるはず(ちなみに、筆者はこういった邦画の作り方、決して嫌いではない)。

 

紅い眼鏡 1987
<A> <楽>
伊藤和典
押井守(脚)
千葉繁
鷲尾真知子
田中秀幸
玄田哲章
兵藤まこ
永井一郎
大塚康生
及川ヒロオ
兼松隆
古川登志夫
西村智博
中村秀利
平井隆博
立木文彦
船戸健行
中村大樹
三井善忠
上部光弘
吉永尚之
品田冬樹
田内和夫
栗崎教雄
平野文
伊藤乃良
坂田金太郎
天本英世
★★★★★
物語 人物 演出 設定 思い入れ
「正義を行えば世界の半分を怒らせる」
「犬は生きろ。ネコは死ね」
「トイレの中には義理も人情もない」
「1995年夏。人々は溶けかけたアスファルトの上に己が足跡を刻印しつつ歩いていた。酷く暑い」
「あなたの見る夢はどんな夢です?」
「待っていたのは、俺だけだ」
 1995年。ほんの少し現代の日本と異なる日本。頻発するテロに首都圏治安警察機構(首都警)は特機隊を組織する。プロテクトギアと呼ばれる重装備により、「ケルベロス」の名で犯罪者を震え上がらせた特機隊であったが、世論の非難のため、解体を余儀なくされた。ただし、そこから3人の精鋭が逃げおおせた。
 そして1998年。国外逃亡していたたった一人の特機隊員都々目紅一がトランクを片手に日本に戻ってきた。彼の目的は?そしてトランクの中身は?
 初の押井守実写映画。キネカ大森の単館上映で、これを最初に映画で観たと言う人は数少ないだろう。筆者は当時大学受験で東京に来ており、このチャンスを最大限に活かすべく、わざわざ観に行った
(お陰で東京での受験校は全て落ちたという思い出もある)
 1985年。
『天使のたまご』を世に送り出し、アンダー・グラウンド的展開をさせた押井守監督が再び世に問う不条理劇。本来これは主演の千葉繁を題材にした個人のプロモーション映画を作ろうという企画が膨らみ、ついに映画となった作品。元々は情緒的な、任侠映画を撮るはずだったのが、どうせ採算は度外視と言うことで、押井氏が好き勝手に作り上げたため、まるで訳が分からなくなってしまい、又してもアンダー・グラウンド的な作品となってしまった。
 ただし、この作品を作ったことにより、後々押井氏の作品は不思議なふくらみを持った「戦後の日本」像が出来ていった。そこの世界では日本はアメリカではなくドイツに敗戦し、そして町中ドイツ製の機械で溢れると言う戦後の日本が描かれることになる。当時は氏としてもここまで設定が膨らむとは思っていなかっただろうに、まさに瓢箪から駒状態。
 この
『紅い眼鏡』から、やはり実写作品『ケルベロス 地獄の番犬』(1991)が誕生し、後に藤原カムイ氏との共同執筆の形で漫画版「犬狼伝説」が、そして更に最後のアナログ・アニメの大作『人狼 JIN-ROH』(1999)が誕生する。そのルーツ的な作品と言って良かろう。
 この作品は押井氏にとっては初の実写作品であり、その分かなりの苦労もあったらしい。物語は基本的に同じ建物で撮られているのだが、これは東北にある脚本家伊藤和典氏の実家の映画館。登場人物のスケジュールを強引に空かせて、バスで移動。不眠不休でカメラをまわし、帰りの移動バスで泥のように眠ったとか…まさしく強行軍で、様々な逸話を産んだ。
(ちなみによく画面を見ると、プロテクト・ギアのデザイナーである出淵裕がいたり、画面には顔が出ていないが、漫画家のゆうきまさみが出演していたりもする)。メインキャラの殆どが声優で、その顔が覚えるにも最適。特に玄田哲章氏によるダンスは必見。
 この映画の見どころと言われると困るが、強いて言うなら、名台詞の数々((下記)、前述の玄田哲章氏によるダンス、後年押井作品とは切っても切れない関係になる川井憲次氏の音楽。勿論カメラ・ワーク等々…
なんだ、結構見どころあるじゃないか(笑)
 ところでこの映画は私にとっては非常に思い出深い作品。実はキネカ大森の単館上映で放映された本作品を、当時大学受験で東京に出ていたのを幸いとばかり、わざわざ観に行った。お陰で東京での受験校は全て落ちたという苦い思い出がある。LDプレーヤーを秋葉原で購入した際、5、6件CDショップを回り、ようやく見つけた時は本当に感動ものだった。
 この訳の分からない作品にはまった時の私は、完全に押井ワールドにはまったことを確信した。
たとえどれほどアンダーグラウンドな作品を作ろうとも、誰も褒めなくとも、私だけは観続けてやる!そう心に誓った映画でもあった。

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