オムニバス映画

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斬〜KILL〜 2008

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押井守
深作健太
辻本貴則
田原実(監)
藤田陽子
菊地凛子
溝口琢矢
今野真菜
大野百花
木村耕二
森田彩華
水野美紀
山口祥行
池田成志
石垣佑磨
辻本一樹
★★★
物語 人物 演出 設定 思い入れ
 4人の監督による“刀”を題材にしたオムニバス映画。
 
『キリコ』(監督:辻本貴則):組織への裏切りを知られ、妹のキリコ(森田採華)を人質に取られた女殺し屋のキリナ(水野美紀)は、妹を救い出すべく、罠を張って待ち構えるボスのクモタチの元へと向かう。
 
『こども侍』(監督:深作健太):時は現代。のどかな城下町に一人の侍の子が転校してくる。決して刀は抜かぬと亡き父に誓った少年剣士の机龍太郎(溝口琢矢)だったが…活弁風アクション。
 
『妖刀射程』(監督:田原実):いにしえの昔より妖刀として知られた一振りの刀があった。それは、その力を抑える脇差しと共に山中深く封印されていたが、明治時代にある兵士がその封印を解いてしまう。銃と刀の融合を果たし、“鋼の魔物”となったそれは、現代に再び甦る。
 
『ASSALT WOMAN2』(監督:押井守):雨の中、何かをひたすらに待ち続ける白銀の女戦士(藤田陽子)。そして彼女の前に現れたのは、漆黒の鎧を身につけた女性(菊地凛子)だった。
 2002年に公開された劇場実写作品『KILLERS』に続いて武器をモティーフとしたオムニバス作品。今回は“剣”を主題に、四人の監督がそれぞれ個性ある作品を作り上げている。
 低予算で短い時間にアクションを取り入れて剣劇を演出しなければならないというハンディはあるものの、それぞれの監督が、個性にあった多彩な作品を作っているのが本作の売り。四本の中でネタ系が二本、アクション重視が一本、そして雰囲気重視が一本と、比較的バランス良く仕上げられている。
 以下一本ごとの短いレビュー。
 
『キリコ』:これまでの押井守監修のオムニバス作品には常連となった辻本監督による作品だが、この人の描くアクションというのは、全部変わらず。物語自体が無理があり、アクションの最中に取るアングル映えする停止時間がちぐはぐな印象。オチは『世にも奇妙な物語』的。この四本の中では最もクォリティが低いかも。
 
『こども侍』:これまで馴染まなかった深作健太監督をちょっと見直した。舞台は現代ながら、侍がまだいるようなパラレルワールドで話が展開し、トーキー以前の活弁士による解説を加えつつ行われている。雰囲気は面白いけど、やってることは深作欣二っぽいチャンバラで、割腹自殺する子供のシーンとか、子供同士の喧嘩で刀に斬られて腕がすっ飛ぶとか、まこと不思議な世界観を作り上げている。50年代の大映作品(主人公の名前からして『大菩薩峠』の机龍之介からだし、基本固定のあおりカメラにこだわってるのもそう)と70年代の東映作品を混ぜ込んで、チープであるが故にその利点を活かそうとしたネタ系作品。
 
『妖刀射程』:監督の田原実はこれがメジャーデビュー作品。本作品中では最もアクション性が高く、短い時間をいかに格好良くアクションシーンを撮るかで腐心したかのよう。衝撃波を発する刀と銃の融合した武器の使い方も面白い。アクションシーンにはかなり長けている監督のようだ。
 
『ASSALT WOMAN2』先の『真・女立喰師列伝』の一エピソード『ASSALT WOMAN』の続編らしいが、ここでは天使と悪魔という二人の存在の確執が描かれることになる。四本の中では最も雰囲気重視の作品で、相変わらずの川井憲次の音楽や、雨や風と言ったエフェクトを使い、ほとんど無言のまま切り結ぶシーンは、これまでの押井守には観られなかった“色気”の演出まで見て取れる。ただ、こう言っちゃ何だが、完成度はそんなに高くない。雰囲気重視にするんだったら、もうちょっと徹底して欲しかった感じ。少なくとも、「おそらくこんな感じで作るんだろう」と事前に考えていたことから、一歩も出るものではないので、ファンとしては全く裏切られなかったことが、逆に寂しい。

 今度IGの肝いりで作られる実写映画
『武蔵』の脚本を任された押井が、その感触を知るためも含めて好きなように作ってみました。的な作品になるんだろうが、とりあえずDVD化されたときのコメンタリーが楽しそうな作品ではあった。
KILLERS 2002

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きうちかずひろ
大川俊道
辻本貴則
河田秀二
押井守(監)
酒井伸泰
ハント・ケーシ
山下真希
井上千尋
秋葉祐希
日下田隆雄
星野マヤ
清水あすか
杉山あすか
赤星昇一郎
荒木良明
松谷賢示
才谷ゆきこ
大高洋夫
河田秀二
小澤朋美
鈴木祐二
麻生健介
仁乃唯
神谷誠
★★★
物語 人物 演出 設定 思い入れ
 5人の監督による“銃”を題材にしたオムニバス映画。
 
『PAYOFF』:地下駐車場での銃の密売現場。そこで繰り広げられる緊迫感溢れるドラマを描く(監督:きうちかずひろ
 
『CANDY』:リストラされたOL桜井めぐみが風俗に転職しようとしたところ、手違いで彼女が連絡を取ったのは暗殺組織だった。(監督:大川俊道
 
『PERFECT PARTNER』:暴力団幹部を殺害し、他の殺し屋に狙われることになったヒットマンのヒデ。そこに昔の相棒ヨシがやってくる。そこに居合わせたピザ宅配員のユキを巻き込んで逃走劇を繰り広げる。(監督:辻本貴則
 
『KILLER IDOL』:アメリカでテロリストの首領を暗殺したことで一躍ヒーローとなった殺し屋・ダンディ中尾(河田秀二)。彼がなんと日本のテレビでバラエティ番組に出演することになった。すぐに愛銃を抜く中尾に司会者の佐野はキレかかるが…(監督:河田秀二
 
『.50WOMAN』:某アニメプロデューサー(実名)を殺すため、ビルの一室にこもり、銃(リサーチアーマメント・インダストリーズ・モデル500と言うそうな)を組み立てて彼の出現を待つスナイパー。彼女(彼?)はその間、途中で買い込んだコンビニの袋を開ける…(監督:押井守)
 試写券をいただいたので、上京して観に行った作品(このサイトを作って初めて物理的な得をした)。どうやら「押井守」でネットを検索した結果、このサイトに辿り着いたらしい。それで試写室に行くと、連絡を取ってくれた方から、
「BBSなどで盛り上げてくださいね」と念を押される…
 それでは悪いことを書けないじゃないか。
と微かに思いつつ僅か8名しかいない試写室へと。
 大体、オムニバス映画ってのは一本一本が短いのでよほどテーマを明確にしないと良い映画にはなりにくい。
実の話、(一本を除き)あんまり期待してなかったりして…(済みません済みません。ここで謝っておきます)
 だけど、杞憂だった。いや、真面目な話でこれ、面白かった。そりゃオムニバスだから
今ひとつ。ってのも確かにあったけど、作品一つ一つに銃への愛着が感じられ、そのマニアックさがまず気に入った。
 以下、長くなるのを覚悟して、一本毎レビューを書かせて頂く。
 
『PAYOFF』。漫画家のきうちかずひろ氏が作った作品。ハリウッド製アクション作品あたりだと冒頭5分位で終わってしまう物語を、20分以上克明に描いた作品で、マニアックな銃の解説や緊張感がとても心地よい(ある程度の銃の知識がないと困るが)。たださて、これからどうなる?と言うところで終わってしまうのがちょっと物足りない感じを受ける。それにこれ、デジタルビデオで撮られているらしいが、兎に角粒子が粗い上にカメラ・ワークがあまり良くない。固定されたカメラ・アングルは良いんだけど、動かすと途端にギクシャク。それがちょっと気になったかな?
 
『CANDY』。5本中一番くだらない。ストーリーそのものは確かに映画してるけど、演技がまるで駄目だし、派手にしようと壁に立てかけた酒瓶がバシバシ割れてながら、壁に全く弾着がないとか、銃撃戦が酷すぎ。なんかテレビの『太陽にほえろ』の銃撃戦を彷彿とさせるなあ…と思ったら、この監督、『太陽にほえろ』のシナリオライターだったそうだ。笑ってしまった。尚、この作品で「超星神グランセイザーで博士と助手をやっていた赤星昇一郎と清水あすかが競演してるのはなかなか興味深い。
 
『PERFECT PARTNER』。5本の中では一番金を遣った作品だけど、銃撃戦やワイアーを使ったアクション・シーンの出来はなかなかのもの。ストーリーはややベタなところもあるけどちゃんと緩急を入れてるし、捻りを効かせてるし、終始大阪弁で展開する会話も和める。笑いもあり。監督はメジャー初挑戦だそうだけど、とてもそうは思えないほどの手慣れた作りだった。これからが期待できる監督だ。
 
『KILLER IDOL』。無茶苦茶現実離れしたストーリーなんだが、終始笑いっぱなし。この荒唐無稽な設定とキャラクター。よくやったと褒めてやりたいよ。主演も務める監督もこれがメジャーデビューだが、このセンス、好きだなあ。喋り方は一番素人臭いけど(笑)
 
『.50WOMAN』。まあ、私にとってはこれが一番のメインだった訳だが、多分5作の中で一番金遣ってない『裏窓』を思わせるような、ほとんど一室でたった一人のドラマが展開する。贔屓目は確かにあるけど、これはもう大好き!ツボを押さえた笑いと(微妙な間が又上手いこと)、終始無言でひたすら食い続ける主人公が良い。押井監督のギャグって必ず犬と食べ物(それもとても安っぽい奴)が出てくるけど、この短さだからこそ、そのギャグが冴え渡る。敢えて名前は伏せるけど、特別出演が泣かせる。押井守のギャグセンスが好きな人だったら、絶対楽しめること請け合い。

 と、言うことで決して大作とは言えないながら全般的にとても楽しい作りに仕上がっている。充分お勧めできる。

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