地球上の大半が汚染された未来。人類は汚染されていない二つの地域に固まって住んでいた。方や裕福な支配階級の住む“連邦”と、方や“連邦”に労働力を提供するためだけの“コロニー”に。その格差に反発する“コロニー”のテロリストは“連邦”に幾度もテロを仕掛けていた。そんな中、“コロニー”に住む工場労働者ダグ(ファレル)は妻ローリー(ベッキンセイル)と慎ましく生活していた。だが夜な夜なダグは妻とは違う女性と無理矢理引き離される夢に悩まされ、ノイローゼ気味になってしまう。そして気分転換にと、偽りの記憶を売るというリコール社を訪ねるのだが…
かつてポール・ヴァーホーヴェン監督によって作られた『トータル・リコール』(1990)。これはディックの短編「追憶売ります」を大胆に改変してフリークスとマッチョの跋扈する異色作に仕上げられていて、SFと言うよりも、なんでもありのごった煮状態の作品になっていた。でもこれはこれで“あり”な作品だったと思ってる。
まあヴァーホーヴェンだからこそこんな猥雑な作品が作れたんだろうと思ってたのだが、それがまさかのリメイク。最後まで「本気かよ?」という気分が抜けなかった。
それで出来てしまった本作だが、原作に近づけようという気は全く無し。本当にヴァーホーヴェン版を忠実にリメイク(火星が出てこないとか主人公の目玉が飛び出すとか悪趣味演出が出てないとは言え)。なんか映像の力というものを見せつけようと、敢えて困難な道を選んだ製作者の姿勢については賞賛を送ろう。
確かに映像の質は高まってる。巨大エレベーター“フォール”の迫力は満点で、その中での活劇シーンの細やかさも特筆に値するだろう。流石近年になってアクション監督として頭角を現したワイズマン監督らしさはよく出ている。
原作…と言うか、オリジナル版に対する敬意も散見できるし(オリジナルで出てきたフリークスっぽい女性が出てきたり、シュワが変装したおばさんキャラが同じ「トゥー・ウィークス」という台詞を喋ったり)、リメイク作としては充分だろう。
主人公もシュワのようなマッチョでなくなり、最後は力業で何とかするという期待感が無くなった分、アクションにはキレがあり、実にそつなくまとまった作品と言える。『ボーン・アイデンティティー』(2002)を経験した後でのアクション作品の典型とも言えるだろう。
…しかし、問題があるとすれば、それはその“そつなくまとまった”という部分なんだろう。
確かにオリジナル版はアラがありすぎるし、グロすぎる。物語も強引すぎると、良いところがないのだが、それらを含めて、「ああ、これこそヴァーホーヴェンだなあ」とほっとする部分が無くなってしまった。それが寂しいというか、それがなくてなにが『トータル・リコール』か。と思ってしまうのが問題。結局あれは“変な作品”だからこそ面白かったのであり、すっきりとまとめてしまったら、何の特徴もない普通のSFになってしまう。質としては高いものの、印象に薄い『イーグル・アイ』(2008)を彷彿とさせる。
少なくともワイズマンは『ダイ・ハード4.0』なんて馬鹿馬鹿しい作品だって作れるんだから、所詮B級にしか作れないんだったら、そつなくまとめるのではなく、個性を出す方向に向かってくれた方が良かったな。 |