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特撮事典

井口昇

電人ザボーガー

<A> <楽>
2011年
 次期首相の前評判も高い若杉議員(木下ほうか)が狙われているとの情報を受け、警視庁は特別警戒を敷く。そんな中、ミスボーグに率いられたサイボーグ組織Σ(シグマ)が現れる。超科学を持つΣの前に、警視庁の精鋭は全く歯が立たなかったが、そこに颯爽と現れた一人の男と顔が付いたバイク。それこそΣに父を殺され、復讐に燃える大門豊(古原靖久)と父勇の遺したロボット“ザボーガー”だった。同じく大門勇の開発されたロボット同士の戦いの幕が切って落とされる。
 青年期と中年期の二部作で展開する特撮ドラマ。青年期のタイトルは「たたかえ! 電人ザボーガー」で古原靖久を主役とするストレートなヒーローもの、中年期のタイトルは「耐えろ大門! 人生の海に!」で板尾創路を主演に、くたびれた中年ヒーローが宿命の戦いを繰り広げる。
 最初、この作品が作られるという噂を聞いた時、正直
「何の冗談だ?」と思えた。
 
「電人ザボーガー」これは特撮を良く知る人なら当然知っているが、「仮面ライダー」「ウルトラマン」と比べてしまうと、相当に知名度が落ちる作品である。しかも円谷でも東映でもなく、あっと言う間に消えてしまったビー・プロダクションの作品。ここまでマイナーな作品を作るなんて、なんと無謀な。
 それでも監督の名前見た途端、
なんか納得してしまったのも確か。井口昇だったら、ウケ狙いだけでもやるだろう。まあ、ヒットはしないだろうけど、一特撮ファンとして見てやるか。そんな気持ちを持って劇場へ…

 はっきり言って、
私は大きな間違いをしていた。多分井口監督は、他の版権がもらえなかったので、仕方なくマイナーな作品を選んだのだと思ってた。おそらくはどんな作品でも、昔の特撮だったら何でも言いから作りたいのだろう。そんな先入観を持っていたのだが、それは大間違い。
 観てはっきり分かった。間違いなく井口監督は最初から
「ザボーガー」を作りたかったに違いない。そう思わせてくれる作品だった。

 ではオリジナルのテレビ作品
「電人ザボーガー」とはどんな作品だったのか。
 70年代は特撮の最も盛んな時代で、東映と円谷、東宝などで特撮番組が作られていたが、後発で特撮技術も金も少なかったビー・プロは、先行するそれらの作品と差別化を図らざるを得なかった。
 折しも70年代というのは激動の時代だった。同時多発に起こった学生運動はあっと言う間に燃え広がり、いわゆる先進国全体を巻き込む巨大な運動になっていった。一方ではアメリカで起こったヒッピー運動も大きな広がりを見せていた時代だった。
 これは大きな意味合いを持ってもいた。当時“常識”とされていたことに対し、若者が疑問を呈した運動とも言える。つまり、“常識を疑う”ことをこの運動は内包していた訳だ。
 これはメディア界にも大きな影響を与えた。いわゆるアメリカン・ニューシネマはこれらの運動の影響を受けた作品でもある。
 特撮にもその波は来ていた。「ウルトラマン」シリーズでも、例えば「ウルトラセブン」の「ノンマルトの使者」、「帰ってきたウルトラマン」の「怪獣使いと少年」など、明らかに正義を逆転させた作品が出ていたし、「仮面ライダー」に至っては、ヒーローの誕生そのものが悪の組織によるものという、明らかに正義の逆転によって作られていたものだ。概ねストレートなヒーロー物語の中にそういう話が挿入されると、深く考えさせられるようになる。
 ビー・プロは、そこに活路を見出した。
「ザボーガー」に至るまで何作かの特撮番組を作ったが、それらは通常のヒーローものと比べると、明らかに異質な作品に仕上げられるようになった。具体的にそれらの作品は、「正義とはいったい何なのか?」という疑問から出た話が多かったのだ。その中には、正義を行っているはずのヒーローの活躍を、視点を変えてみると悪人に見えるというものもあった。極端にそれが出たのが「ザボーガー」の前に作られた「鉄人タイガーセブン」だった。最早今になったらネタにしかならないが、主人公が誤って無実な人を攻撃してみたり、これまで正義だと思ってやっていたことが全て否定され、ついにはイップスになってしまい変身できなくなってしまうとか、無茶苦茶な描写がなされていたものだ。
 「電人ザボーガー」は、「タイガーセブン」の反省もあって、かなり純粋なヒーロー作品としては作られているのだが、作り手が同じなので、話の端々に、そう言った疑問が挿入されていったものだ。
 一言で言えば、「電人ザボーガー」とは、“正義とは何か?”ということを大まじめに考えた作品だった訳だ。

 この前提あってこそ、この映画は意味を持つ。
 特に本作の前半。復讐に燃える主人公大門は、Σを倒すことだけが正義を全うすると信じ、そのためだけに戦い続ける。ここら辺は暑苦しい普通のヒーローの姿なのだが、そんな彼がミス・ボーグの悲しい姿を見せられ、更に自分が救っている市民が、救うに値しないものだという事を知らされたとき、彼は正義を見失ってしまい、その葛藤が相棒ザボーガーの破壊を招いてしまう。
 この下りは本当に秀逸で、ここ観ただけでも「これこそビー・プロの遺伝子だ」と思えてしまう。
 この作品は基本笑いを中心とするコミックショー的な作品だけに、その中にこれを入れてくれた事がなんとも嬉しいし、井口監督が本気でこの作品を作りたがった理由がわかる。

 ポストモダンの時代を経て、視聴者はだいぶすれてしまった感があり、正義を相対的に考えるようになった。むしろ“正義”は胡散臭いものであり、疑ってかかる傾向が強まってきた。こんな時代に、それでも作られている特撮も色々チャレンジをしているが、概ね今作られているものは、“正義”を曖昧にしているのが特徴でもある。
 そんな中、真っ正面から“正義”を主題にした作品が作られている。それだけでも大変嬉しいものである。

 先に少し書いたが、作品そのものはコミカルで、特撮も敢えて安っぽく作られているが、この暑(苦し)さを受け入れる人は必ずいる。この熱い魂を心の中に持っている人だったら、絶対に観てほしい作品だ。

 

AKIKO
【あきこ】
 悪之宮博士によって育てられた、大門豊とミスボーグの間にできた半分は人間で半分は機械の女の子。ジャンボメカの中枢部品であり、彼女を取り込んだジャンボメカは彼女と同じ姿となる。心はあくまで少女で、父である豊のために献身的に尽くす。役は佐津川愛美。 甘崎
秋月玄
【あきつき-げん】
 悪之宮博士によって育てられた青年。悪之宮に絶対忠誠を誓っていたが、自分が大門豊とミスボーグの間の子であることを知らされ、忠誠心が揺らぐ。ブラックホークを駈り参戦する。役は宮下雄也。 甘崎
悪之宮
【あくのみや】
 Σ団を創設した悪の博士。大門勇博士とは親友の間柄であったが、人々に裏切られ、体に重度の障害を受けてからは、人間社会そのものを憎むようになった。役は柄本明。 甘崎
屈強な男達に陵辱された方がましだ
【くっきょう-な-おとこ-たち-に-りょうじょく-された-ほう-が-まし-だ】
 Σ団への協力を強要された大門勇博士が叫んだ台詞。その後本当にそうなってしまう。 甘崎
ザボーガー
【ざぼーがー】
 大門豊のパートナーとなる変形型バイクロボット。父勇によって豊の双子の弟の命が組み込まれている。豊の音声指令によってのみ戦う存在だったが、やがて自意識が生まれる。ミスボーグによって一度は破壊されたが、その後Σによってレストアされ、ストロングザボーガーとして甦る。 甘崎
Σ団
【しぐま-だん】
 悪之宮博士によって結成された、人間を憎み機械の世界を作ろうとしている悪の組織。大門博士から奪ったダイモニウムを用いて数々のロボットを用いる。 甘崎
ジャンボメカ
【じゃんぼ-めか】
 Σ団が長年にわたり作り続けてきた巨大ロボット。AKIKOを頭脳として入れることによって、AKIKOそっくりの姿になる。 甘崎
ストロングザボーガー
【すとろんぐ-ざぼーがー】
 一度は破壊されたザボーガーの残骸をΣが豊に敵対するロボットしてレストアしたもの。AKIKOによって再び豊の命令を聞くように改造される。 甘崎
速射破壊銃
【そくしゃ-はかい-じゅう】
 ザボーガーの口に装着された機関銃。 甘崎
ダイモニウム
【だいもにうむ】
 大門勇が開発した特殊な鉱石。人間から取ったエキスをロボットのパーツに出来る。ザボーガーのエネルギー源でもある。 甘崎
大門勇
【だいもん-いさむ】
 大門豊の父で、ダイモニウムの開発者。失った豊の双子の弟をザボーガーに封じるが、ダイモニウムを狙うΣの手によって拉致され、拷問の末死亡する。特殊体質なのかあるいは体質改造をしたのかは不明だが、母乳も出せる。役は竹中直人。 甘崎
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大門豊
【だいもん-ゆたか】
 熱き正義の心を持つ秘密刑事。父を殺したΣに対する復讐の念に凝り固まっており、正義と私怨を取り違えているところがある。ミスボーグとの戦いと交流を経、正義とは何かを真剣に悩むようになる。ザボーガーが破壊された後、若杉総理の運転手となっていたが、解雇されてしまう。役は青年期を古原靖久、熟年期を板尾創路が演じる。 甘崎
チェーンパンチ
【ちぇーん-ぱんち】
 ザボーガーのロケットパンチのような武器。腕と手は鎖でつながっている。 甘崎
新田
【にった】
 警視庁刑事。若杉議員を守る特別班に属していたが、後に失職する。役は渡辺裕之。 甘崎
ブーメランカッター
【ぶーめらん-かったー】
 ザボーガーの顔側面に付いている刃を投げつける武器。必殺技として用いられる。 甘崎
ヘリキャッツ
【へり-きゃっつ】
 ザボーガーの頭部から出る小型ヘリコプター型メカ。主に偵察に使われる。 甘崎
マウスカー
【まうす-かー】
 ザボーガーの両足から出る小型車両メカ。半分ずつが出て合体して車型となる。 甘崎
マシーン・ザボーガー
【ましーん-ざぼーがー】
 ザボーガーのバイク形態。 甘崎
ミスボーグ
【みす-ぼーぐ】
 悪之宮博士の忠実な部下であり、Σ団の戦闘部隊を率いる幹部。かつて男達に手痛い裏切りを受けて人間を捨てた経緯を持つが、大門豊との交流を経て、愛し合うようになり、やがて秋月玄とAKIKOの母となるが、最後の戦いでザボーガーと相打ちして破壊されてしまう。 甘崎
若杉
【わかすぎ】
 将来を嘱望される議員。度々Σ団に狙われる。後に総理大臣となる。役は木下ほうか。 甘崎
名称
【】
  甘崎

 

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