恐怖の報酬
Le salaire de la peur |
1953カンヌ国際映画祭グランプリ(クルーゾー)、男優賞(ヴァネル)
1953ベルリン国際映画祭金熊賞(クルーゾー)
1954英アカデミー総合作品賞
1954ブルーリボン外国作品賞 |
|
|
| アンリ=ジョルジュ・クルーゾー(脚) |
| イヴ・モンタン |
| シャルル・ヴァネル |
| ペーター・ヴァン・アイク |
| フォルコ・ルリ |
| ヴェラ・クルーゾー |
|
|
| ★★★★★ |
| 物語 |
人物 |
演出 |
設定 |
思い入れ |
| 5 |
5 |
5 |
5 |
5 |
|
メキシコの辺境でくすぶっていたマリオ(モンタン)と仲間達の元に、危険な依頼がやってきた。町から500キロ離れた山上の油田で大火災が発生したため、多量のニトログリセリンを車で運ばねばならないと言うのだ。少しのショックで大爆発を起こす、そんな危険な任務を引き受けたマリオは、ジョー(ヴァネル)、ビンバ(ヴァン・アイク)、ルイジ(ルリ)と共に二台のトラックに乗り込む…
フランス映画におけるサスペンスの名手クルーゾー監督の名を一躍高めた作品で、既に歌手として認められていたモンタンがここで俳優としても認められるようになる。
本作のプロットはこれ以上無いくらいシンプル。ただ“ニトロを積んだトラックを運転するだけの作品”。これだけで物語は要約できてしまう。
しかしながら、そのシンプルさこそが一番重要なもの。下手に他の設定を入れてしまうと、この物語の興を削いでしまう。ひたすらその緊張感が持続するからこそ本作は名作足り得るのだ。後このプロットで必要とされるのは、狂気のみ。これだけあれば充分映画は作れる。色々なものを詰め込まないと映画ができないと思っている今の作品を見慣れていると、このシンプルさがとても新鮮に思えてくる。
ただし、必要なものを揃えても、それをきちんとした映画に仕上げるのは監督と役者の力量。ただだらだら続いても面白くはない。必要最小限度の会話と表情で物語を引っ張っていかねばならないのだから。その辺はサスペンスの名手と言われるクルーゾー監督だけあって、緊張感の持続が半端無い。下手なホラー映画よりもずっと恐ろしいし、画面から目を離すことができない。
それを可能にしたのが、食い詰め男たちを丹念に描写した前半に現れてる。
この部分で見え隠れする彼らのやるせなさと、なにより暑さを表現する日常描写が、既に彼らの精神を蝕んでいることがよく示している部分であり、ギリギリの精神状態が、中盤以降の緊張感の中で狂気へと変化していく課程を見事なまでに示すようになる(本作には長版と短版があり、私が観たのは長版の方。こちらの方が冒頭シーンが長いらしい)。
実は私も一時期フリーターやっていた時があって、その時、私自身が本当に逆境に弱いものだと痛感したものだが、最初のうだるような暑さの中、なにするわけでなく、ただタバコふかしながら会話もなくだらだらしてるシーンは、その当時の事を思い出させてくれて、それだけでもういたたまれないというか、「分かる」と思いながら、怖いところを表してくれるなあ。と思わせてくれたもんだ(そういえば私が『望郷』(1937)大好きなのも、こういうシーンがあったからかもしれない)。
こう言うとき、不用意な一言がトリガーを引いてしまい、突発的に怒りに駆られる事もあるし、かといってそれで何にもならないために、怒った直後に激しい自己嫌悪に苛まれるのもわかる。
こういう精神状態だからこそ、危険な任務とか関係なく、報酬の高さだけで仕事に飛びつきたくもなるものだ。
しかし一旦引き受けたは良いが、徐々に自分がとんでもないことをやってるという事実に気づくときがもっと怖い。
そしてもう逃げられないとなって腹をくくったとき、その時にこれまで溜まりに溜まっていた狂気が表面化してくる。観ている側としても、それはいたたまれないし、しかしだからこそ本作はものすごい説得力をもって迫ってくる。
そういった、観ている側にストレスを与えまくっているからこそ、中盤から始まるニトロ輸送がものすごく楽しい。楽しいと言うより溜まったストレスがますます溜まるような状態で、もうこうなると常軌を逸した精神状態がこちらまで感染してくるようで、「行くところまで行け」と思えてくるものだ。
それで、本当に行くところまで行ってしまうのが本作の醍醐味とも言える。
観終えたあと、これほど「疲れた」と思える作品も珍しいが、異様なほどに集中できる作品だし、自分自身に迫ってくるストレスはとても心地よい。
時折観直したくなる作品でもある。掛け値なしの傑作。 |
|
|