近未来。火星に移住を始めた人類は、様々な用途で用いられるロボットの需要を高め、人間型ロボット“セカンド”を開発する。そんな火星に赴任してきた警官のロイは、彼を出迎えに来た少女のような刑事ナオミ=アミテージと対面する。だが、彼の到着直後から、連続ロボット殺人事件が起こる。人間とほとんど変わらず、人間社会に適応して生きるロボット“サード”のみを狙って暗躍する殺人者。人に知られることのなく人間として生活できるサードは何の為に作られたのか、そして犯人の狙いは…その難事件に立ち向かっていくロイとナオミだったが…
『ブレード・ランナー』(1982)を思わせる世界観と、アニメならではの表現を用いて作られた好作。制作は日本だが、なにせアメリカの資本を用いているだけに豊富な資金があったお陰で、描写は大変素晴らしいものに仕上がっている。
それは単にキャラがよく動くと言うだけでなく、世界描写や細かい設定がしっかりしていること。何より重い題材を真正面から捉えつつ、尚エンターテイメントとして成立させているバランスの良さにある。スタッフはしっかり仕事していたようだ。
日米合作(正確にはアメリカ側で資金を出して日本で作る)というのは結構前からあり、有名なものだとテレビ・シリーズの『トランスフォーマー』がそうだったし(一部韓国でも作られていたそうだが)、マイナーなものだとOVAの『ジェノサイバー』がそうだった(LD所有)。本作も元々OVAとして作られたのだが、好評を博したため、再編集が行われ、『AMITAGEIII POLI-MATRIX』という題で劇場でも公開された。
さすがアメリカと言うところで、キャラの声を当てているのもそうそうたるメンバーで、主役のアミテージとロイにはエリザベス=バークレイとキーファー=サザーランドが声を当てている。日本語版(この場合、吹き替え版とは言わないと思う)での声優より自然に演技していた。
日米合作のアニメーションの特徴として、実写では出来ないことを真っ正面からやろうとするチャレンジャー精神に溢れていることが多く、他ではあまり描かれることがない、スナッフを思わせる惨殺シーンや、SF的なものとはいえ、社会問題を直視しているのが特徴。この作品に関しても、残酷とは言えないまでも、ここまでアニメで描くか?と思えるような流血シーンや、感情を持ったロボットという存在を人間側はどのように捉えるのか、と言う問題が核にあるため、単純なアクション作品ではなくなっており、人間に使役されるロボットという存在の悲しみや主張が強く出ている(脚本は海外SFをよく学んでいることが窺える)。こんな重い設定は無茶苦茶私の好みだ。
更に言わせてもらうと、私の好みとは、満身創痍の主人公が更にボロボロにされつつも、決して諦めず、立ち向かっていく姿にある。私が特撮好きなのはそれが一つの理由として挙げられるだろう(逆か?)。特に特攻は良い(アニメはなんと言っても『宇宙戦艦ヤマト』(1977)の特攻の姿は格好良い。小説では友人から推薦されて読んだ第二次世界大戦のイギリス軍艦をモティーフとした「女王陛下のユリシーズ号」がとにかくお勧め)。この作品はまさしくその、私が観たかった描写そのものだ。アミテージは自分自身が“サード”であると言う悲しみを負いつつ、死んでいった仲間達のために戦う。彼女は常人を遙かに超える力を持ちはするが、精神的には決して強くなく、時にロイに支えてもらいつつも、最後はロボットの未来のために特攻的な戦いを余儀なくされていく。特に最後の戦いは、倒しても倒しても次々とやってくる敵を前に、徐々に戦闘能力を失い、それでも立ち向かっていくという、極めて格好良い姿を見せてくれた(しかもここで音声を一切カットして画面に集中させるという小粋な演出もあり)。はっきり言えば、無茶苦茶好みな作品だ、と言うことだ。
尚、本作はOVA版と劇場版ではラストが違っている。ハッピー・エンドという感じで終わるOVA版、虚しさを強調した劇場版。どっちも悪くない(私にしてみれば、どっちかというとOVAの終わり方の方が好みではあるんだけどね)。
ちなみに本作は後にTVムービーとして続編『AMITAGE THE DUELMATRIX』(2002)が製作されている。
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