紅茶の話 その37 | 世界中にある茶。紅茶、緑茶、青茶(ウーロン茶)が全て同じ種類の茶樹から作られている。と言うのはご存じの通り。それぞれの地域に合った製法で茶は作られるので、そこで飲まれているお茶が、そこにある茶樹の最も適した飲み方である事は当然のこと。日本では緑茶が、インドやスリランカでは紅茶が、台湾や中国福建省では青茶が…と言った具合。 だけど、茶樹が同じであるならば、どういう環境に茶樹がある場合が、茶を抽出したとき、一番美味しいと感じられるか。つまり茶葉の質が高いかと言う事は言えると思う。 一般に言って、高地にある茶樹から取れるのが一番美味しいと言われている。実際、日本を除けばお茶の名産地は高いところにあるのが普通。 これにはいくつかの理由がある。 先ず高地は寒暖の差が激しい。朝は氷点下に近い寒さから、昼になると汗ばむほどになることもある。又気候の変化も厳しく、直射日光が激しく降り注いでいたと思うと、いきなりの暴風雨に見舞われることにもなる。 これだけ厳しい環境に置かれると、当然茶樹は強くなる。気温の変化、天候の変化に負けずに成長できるようになるわけだ。 そうすると茶葉も強くなる。具体的に言えば、より養分を蓄えるようになっていく。その養分こそが、お茶を美味しくする。スリランカ茶なんかの場合、農園の高さまでラベルに書かれていることがあるが、それは「これだけ高いところで作られているから、美味しいですよ」と言う主張に他ならない。具体的には海抜2000メートルくらいのが一番らしい(富士山の五合目より高いくらい)。 それに高地はもう一つ大きな強みがある。 標高が高ければ、虫がいない。 虫がいないならば農薬を使う必要がなく、よって無農薬の自然栽培が可能となる。昨今無農薬野菜のおいしさが盛んに言われているので、農薬を使うのと使わないのとではどれだけ味に違いがあるか分かる人も多いだろう。 もしそれなりの店で紅茶を買うなら、その生産地の高さを見てみると面白いと思う。(しつこいようだが、私の愛飲しているキーマン茶は祁門県でしか作られていないのでこれには全く当てはまらないが…そう言や祁門ってどの位の高さだろう?調べてみようっと) |
|
紅茶の話 その38 | 前に(その29)で「富士山からの雪解け水が飲める春がとても楽しみだ」と書いておいたが、春になって雪解け水が来てるはずなんだが、いつもとあんまり味が変わって思えなかった。 だけどここになって(5月末)、水がとてもおいしく感じるようになった。 水を甘さ苦さ感じるようになったのは紅茶に凝り出してからだが、訓練次第で人の舌って感覚が敏感になるものらしい(煙草も吸ってるんだが)。 元々この富士宮は水の質が軟質でかなり良いらしく、紅茶を淹れる時も抽出時間を少し短く取らなければならないほどだが、ここに来てから紅茶を淹れるのを失敗することはあまりなくなった(これも(その29)で書いたが、抽出時間を短めに取るととてもおいしい)。 私の好きなキーマン茶は上手く淹れると甘みを感じるものだが、下手な淹れ方をすると苦いだけになってしまう。だけど静岡に来てから一日平均2杯ほど紅茶を淹れているが、その間に本当に苦いと思ったのは、特に最近になってからとみに減っている。 私がこの水に慣れてきたとか、銅製のやかんを使っているとか理由はいくつか考えつくけど、一番の理由は、単純にここの水がおいしいと言う点だ。 春先の雪解けの時はさほど水質に違いがあるように思えなかったが、このところ、普通に水を飲んでも、これまでとはちょっと違って感じる。明らかに私好みに水質が変化している。 これで淹れる紅茶は又格別。とても甘い。 時折キーマンが甘すぎると感じる事もある。初めての経験だ。 |
キーマン |
紅茶の話 その39 | ちょっと紅茶の話から離れるが、私が前に住んでいたのが鹿児島で今は静岡にいる。さて、この二つの県で共通するところは? …と、わざとらしく書いてみたけど、別段たいした意味はない。実は日本における緑茶の生産量が1位2位の県である。 ところでどっちが1位かと訊ねられたら10人中10人が「静岡!」と答えるはず。 まあ、実際その通りなんだけど、実は調べてみると面白いことが分かる。1965年時点での生産量は静岡4万トン、鹿児島2千トンだったのに、2000年になると静岡4万トンは変わらないのに、鹿児島はなんと2万トンに変わっている。35年の間に鹿児島に関してはなんと10倍に変わっているのだ。 これは日本人の味覚の変化にあると思ってる。 実は静岡に来てお茶を飲んでちょっと首を傾げた事があった。 鹿児島で飲み慣れたお茶と較べると、妙に渋いのだ。しかも高いお茶になればなるほど渋くなる。鹿児島の茶の場合、渋さがあまりない。喉の通りがするっとしてる。 それでどっちが好みか?と自分で考えてみると、鹿児島のお茶の方が私は好き。 そこで思ったのだが、現代は渋さよりもするっとした味覚が好まれるようになったんじゃないだろうか? 考えてみると、ペットボトル入りのお茶も、出たばかりの頃は結構渋さを感じたもんだが、今は全然渋くない。お茶に対する嗜好そのものが随分変わってると思える。 中国茶を飲み慣れると、喉の通りが良いのが当たり前なので、それは大歓迎なのだが、伝統的な日本のお茶の嗜好が変わってきてるのはちょっと寂しいかも知れないな。 甘っあいお菓子を少量口に放り込んで、渋茶をズズッと啜るってのは、これはこれで日本人に生まれて良かったと思える瞬間でもあるんだが…(そういやそんな甘いお菓子自身少なくなってるよな)。 |
|
紅茶の話 その40 | 紅茶、殊にキーマンを愛飲している私だが、最近中国茶を飲むことが多くなった。理由は映画のビデオにある。 夜に時間が空いて、ゆっくりご飯が食べられる時、私は大体食事に2時間をかけるようになった。2時間というと長いが、作ってる時間に30分かけるし、残りの1時間半は映画のビデオを観てる(アクション映画とかだったら丁度良い時間)。実質食事を食べてる時間は多分10数分と言うところだろうが、食事をしながら映画を観るってのも、慣れてみるとなかなか良いもんだ。 ただ、そうすると食事開始後30分も経たないうちに全部食事を食べ終わってることになるから、残りの時間が手持ちぶさたになる。口元が寂しくなる。ここで優雅に紅茶ってのも良いんだが、紅茶だとどうしても時間が分断されてしまう。かなり凝ってる分、蒸らし時間なんかはずっとポットの前で待ってることになるから、折角観てる映画を途中で切ることになってしまう。一応これでも体重に気を遣っているので、食事後すぐにお菓子に手が伸びるのも考え物。 その点緑茶は便利。ポットのお湯で済むし、2煎から3煎まで飲めるので、時間がよく保つ。それで折角飲むんだから普通の緑茶よりは中国茶の方が味わいを感じられて良い。 それで最近はしばらく水仙と言う青茶に凝ってたが、折角色々あるんだからと言うので、今度は黄金桂というお茶を買ってきた。産地は福建省(烏龍茶と同じ)安渓。葉の色や味わいから、これは緑茶のようだが、これも半発酵茶である青茶(低発酵茶だから、実際にも緑茶に近い)。喉ごしが良く、喉の奥から金木犀の香りがすることからこう呼ばれるらしい(桂とは中国語で金木犀のこと)。 実際に淹れてみると、香りが非常にフルーティで甘みを感じるし、後味がすっきりしている。やや熱めのお湯で淹れて、ふうふうやりながら飲むととてもおいしい。値段も手頃なので、食事の後や、普段何気ない時に飲むにはとても良いお茶だ。お茶のおいしさだけで充分間が保つので、映画を観る時にはうってつけだし、 |
水仙 黄金桂 |
紅茶の話 その41 |
前に一度一杯の紅茶の量について書いたことがあった。 茶葉は人数分プラス一杯。これがイギリス風の紅茶の淹れ方の基本である。昔CMで日本でもやっていたから、一定の年以上(笑)の人はそれを覚えておられるかも知れない。 しかし、これはイギリスの水が硬水だからであり、日本のような軟水の場合、よく抽出されるのでそうたくさん茶葉を入れる必要はない。一人分に大きめのスプーンで山盛り一杯で充分。 だけど、飲み較べてみると分かるが、紅茶というのは面白い性質がある。 スプーン山盛り一杯分の茶葉で一杯分の紅茶を淹れる場合と、スプーン普通盛りで二杯分の茶葉を使い、二杯分の紅茶を淹れる場合、どっちがおいしいかというと、間違いなく二杯分の紅茶の方。 これは恐らく茶葉のジャンピング/ホッピングに理由があるんだろう。 これも前にも書いたと思うが、紅茶の旨味というのは、熱湯の中で泳がせることによる。熱湯だと対流が強いので、その分茶葉は湯に揉まれ、自然な抽出がなされる。紅茶を淹れる場合、熱湯を用い、茶葉を押しつぶさないこと。それは苦みが出るだけ。 そうなると茶葉がゆったりと泳げるようなスペース、つまりお湯の量が必要となる。 こう考えると明らかだろう。スプーン山盛り一杯の茶葉に少量のお湯と、スプーンに普通二杯の茶葉に倍の量のお湯。ゆったり茶葉を泳がせることが出来るのは勿論後者だ。 カレーと同じでたくさん作ればおいしくなるのが紅茶だ(カレーと違うのは量に限度があることだが)。 私は一人暮らしなので当然紅茶は一人で飲むことになるが、大分前から普通のティーカップの倍くらいの大きさの器を使うようにしている。これは昔たまたま大きなティーカップをおもしろ半分に買ってみて、それで紅茶を飲んでみたらとてもおいしく感じた事と、やっぱりたくさん飲めるのも魅力だからだが、実際にちゃんとおいしい理由が考えつく。 余計なことかも知れないが、私の紅茶の淹れ方をここで紹介したい。充分に暖めた二杯用のティーポットにスプーン二杯の茶葉を入れる。このスプーン、私はマドラススプーンという柄の長いスプーンを用いている。本当はこれ、カクテルなどの攪拌用のスプーンだから本来の用途とは違っているのだが、茶葉を大盛りにしてもこぼれないし、缶の底まですくえるので重宝している(これがとても気に入ってるので昔から愛用してる)。これで山盛り二杯(普通のスプーンより受け皿がやや小さいため)の茶葉を取ってさっとポットに放り込んで、沸騰してるお湯を目分量で好きな量注ぎ込む。それからティー・コジー(保温用の布)を用いてポットをくるんでおく。 抽出時間は二分から三分。だが、私はこれは適当に取るようにしてる。毎日変わった味になるし、これでぴたりと美味さが符合した時は凄い幸せになるから(今住んでいるところは水道水がおいしいので、抽出失敗しにくいのも助かってる)。 それからおもむろに茶こしを使って大ぶりのティーカップに注ぐ。茶こしは最後まで空中に浮かして絶対お茶にはつけない。それで出来る限り最後の一滴まで注ぐ。 と、こんな感じ。 私は中国の紅茶を愛飲してるのでこういう淹れ方をするが、これがスリランカ茶なんかの場合、違った楽しみ方が出来る。 同じように二杯分の紅茶を作ってから、普通のティーカップに一杯分だけ淹れ、ストレートティーで楽しんだ後、ポットの中で濃くなった二杯目を、今度は砂糖とミルクを入れて飲むと言う手も使える。これはこれでなんだか落ち着く飲み方だ。 ま、紅茶の淹れ方は人それぞれ。要するに自分で一番おいしいと思える自分流の淹れ方を見つけるのが楽しい。是非色々試して、結果自分の一番を見つけて欲しい。 |
ティーコージー |
紅茶の話 その42 | 今中国茶をよく飲んでいるが、中国茶というのは本当に奥が深い。種類も多い。最近は日本に入ってくる中国茶もかなりの数に上り、ありがたい限り。色々飲み較べたりしてる(紅茶ほど飲んでる訳じゃないけど)。 で、この前購入したのは東方美人(ドンファンメイレン)というお茶(尚、これは俗名で、正式には白毫烏龍茶)。これは日本でも高級茶として割合ポピュラーな中国茶。その名前に負うところが大きいのかな?ちなみにこれは台湾産の青茶。 この特徴はと言えば、先ず値段の高さ。私がいつも飲んでいる紅茶(中国産のキーマン)で100グラム1200円程度。ところが同じ店でこの東方美人を見ると、何とその倍以上。50グラムで1500円位する。お茶にしてはずいぶんと高額な… それでもやっぱり一度は飲んでみたいので50グラムほど購入してきた。 まず茶葉を目で見てみる。茶葉はかなり長く、曲がりくねっている。一切ブロークンしてないのがこれから分かるが、こんなにひん曲がるのは珍しい。 それに、色が面白い。紅茶は黒っぽい褐色をしているが、中国茶は様々な色がある。例えばここで書いていた名間金萱(ミンチェンチンシェン)だと鮮やかな緑色。水仙は褐色。黄金桂は深い緑。そしてこの東方美人だが、これはくすんだ灰色をしている。白っぽい茶葉は紅茶ではシルバー・ティップスなどと呼ばれ、最高級の茶葉と言うことになるのだが(中国茶の場合白毫と呼ばれる。最高級の証)、なるほど高い訳だ。その白いのを中心に茶色や黒っぽい葉が結構含まれている。面白い色合いの茶だ。 それで味を知るために先ず一煎。 あれ?薄いぞ。前に書いた黄金桂と同じ程度の蒸らし時間だったのだが、どうやら蒸らしが足りなかったようだ。 それでも中国茶の良さは2煎目。こちらは良く出ていた。 それで飲んだ感想。これは確か青茶だったはずだが、紅茶に近い味がする。だから蒸し時間は紅茶に準じた方が良さそうだ。と言うこと。 それでもう一度、紅茶と同じくらいの蒸らし時間で淹れてみる。 うん。確かにこれは美味い。 紅茶っぽいとは言え、やっぱり味そのものは青茶。ほのかな甘みと喉ごしの良さ。すっきりした後味は確かに青茶の特徴だ。 それでちょっとネットで調べてみることに。 ネットでは絶賛されてる。水色(すいしょく)の良さや蜂蜜のような味わいとか… ところで調べてみて面白い事が分かった。このお茶の特徴は、虫食いの葉を使う点にあるそうだ。虫と言っても大きく葉をかみ切るのじゃなくて、葉からエキスを吸う虫。いわゆるウンカと言う奴だ。稲にこれがたかると米の出来が悪くなるけど、茶葉に付くと、その味わいが深まるのだとか。先に不思議に思った茶葉のひん曲がり方はこのためらしい。虫を必要とするんだったら、確かにこれは台湾だけでしか摘むことができない。無農薬で夏の暑い盛りに手摘みで摘まれるので、どうしても高くなるらしい。 尚、この名前だが、一説によると、イギリスのビクトリア女王がこの茶を飲んだ時、「オリエンタル・ビューティ」と感嘆したからだとか(直訳すると確かに東方美人になるな)。 お茶好きな人にはお勧めできる。ただ普通の中国茶と較べて心持ち長く蒸らし時間を使うことをお勧めする。 …しかし、こう言っちゃなんだが、やっぱり私には高すぎる。前に飲んでいた黄金桂が私には丁度良いレベルかな? |
金萱茶 水仙 東方美人 |