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2017 | タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜 監督 | |
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1975 | 5'4 誕生 |
タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜 2017 | |||||||||||||||||||||||||||
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1980年5月。ソウルのタクシー運転手キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は、外国人記者が現在学生デモの激化で封鎖されている光州に行きたがっていることを聞き込み、大金を報酬にタクシーを出すことを申し出る。裏道を使ってドイツ人ピーター(クレッチマン)と共になんとか光州に潜り込んだ二人だが… 韓国民主化の礎であり、歴史的には恥ずべき出来事である1980年5月に起こった光州事件をモティーフに、その渦中にいたという実在の人物を描いた作品。 まずなにより、こんな作品が韓国本国で作られたと言う事実を称えたい。 光州事件は時の全斗煥の下、自然発生的に始まった学生運動が発端で、5月に戒厳令が敷かれることになる。その中で学生達を中心に運動が続けられていた光州では、運動家と政府軍の武力衝突になってしまった。 政府が自国民に対して銃を向けるという出来事は政府によって隠蔽され続けていたが、全てが解明されたのは1997年になってからという。 政府による民間人殺害など、国にとっては恥ずべき事であり、これを映画化するなど、政府からの圧力がありそうなものだが、それを映画化。それだけでこの作品はとんでもないものだと分かる。 しかも描写に容赦ない。銃撃で手脚撃たれて重傷になる光景やら、政府軍によるスパイ活動、拷問に至るまで細かく描く。現実はここまで酷いものではなかった可能性もあるのだが、ここまで容赦なく描いたか。『キリング・フィールド』(1984)かよ。 これだけでも充分な作品だが、物語性の高さも言っておくべきだろう。 なにより本作は主人公のキムの心情の変遷が見所。 彼は元々金に意地汚く、金のためなら割と簡単に人を騙したり、得にならなければ平気で逃げるような人物として登場した。いわば個性のない一般市民の代表である。 そんな彼が半分強引に引き受けた仕事。これも単純に金が良いからというだけに過ぎず、ピーターを光州に送り届けてそのまま変えるだけと考えていたのだが、実際の光州はそんな状況ではない。 命の危機を感じたキムは金と命を天秤にかけ、最初は命の方を取った。ピーターも見捨ててそのまま帰ろうとする。 ここまでは本当に普通の人の行動で、このまま帰ることが出来ていたら、彼は名もない一介のタクシー運転手で終わっただろうし、それはそれで幸せだったかもしれない。 ただ、逃げ帰ろうとした時に、道ばたに座り込んでいた老婆を見つけてしまう。ここでの行動が彼を変える。たったこれだけで人間の運命が変わることもあるのだ。 彼女をタクシーに乗せた、その時から、一介のタクシー運転手はキム・マンソプという血肉が通った人間へと変わる。 彼は全く意識してなかっただろうが、ただそれだけで英雄的行動を行ったのだ。この瞬間こそが本作の最初のクライマックスと言えるだろう。 その後、キムは自分の過去のことを人にも話すようになり、自分が金にがめついのは、亡き妻の遺した幼い娘のためであること、愛する人を最小単位にすることで、なんとか人間的感情を保てたと言う事が分かってくる。そうなってしまうと、これまで押さえつけてきた良心とか、人を思いやる気持ちとかがぐっと広がってしまい、実際自分の命を賭けてでも人を救おうとするようになっていく。 偶然のきっかけで行われた英雄的行動だが、実はそれだけの心を彼は最初から持っていたのだ。それが分かってくると、本当に彼が格好良く見えてくるようになる。 話としては割とベタなのかもしれないけど、実際に起きた事件の異常事態を背景にこれを行う事によって、格好良さは何倍にもなっていく。 だから結局本作は、人間の熱い心こそが、本当の英雄となると言うことを示そうとしたものであり、どんな人間でもヒーローになれると言う事を示して見せた話でもある。それこそが本作の面白さと言える。 そして本作の興味深い点はもう一つ。キムはタクシー運転手として、劇中長い距離を走って行く。距離が進めば進むほど自分を取り戻していくというその構造は、まさしくロード・ムービーそのものであるということ。物語を通して主人公が成長するからこそ、本作は素晴らしい内容になる。 |