有りがたうさん |
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★★★★ |
物語 |
人物 |
演出 |
設定 |
思い入れ |
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伊豆の山間部を走る一台のバス。まだ若いそのバスの運転手(上原謙)は、車の運行を助けてくれる人や動物に対し、誰にでも「ありがとうさん」と声かけをすることから「有りがたうさん」と呼ばれている。そんなバスの今日の上りの運行は東京へと売られていく娘(築地まなみ)とその母(二葉かおる)、髭の紳士(石山隆嗣)、黒襟の和服姿の若い女性(桑野通子)など。そんな人達や、途中で出会う人達を絡め、短い旅が始まる。
伊豆を走る片道のバスの運行の中での人間関係を描く、オールロケ・即興演出のセミ・ドキュメンタリー作品。大変実験的な作品だったが、不思議なくらいにすがすがしい好作に仕上げられている。
本作にまとまった物語はなく、会話にしてもありふれたものが続くし、これと言ってドラマティックな展開もない。強いて言えば、これから東京に売られていこうとする娘に対して同情的であったり、余計な世話を焼こうとしている人々の会話のキャッチボールが見所とも言えるのだが、これが全く飽きない。なんか凄く心地の良い空間に自分がいて、このまま浸っていたいと思えるくらい。
これは清水監督の特徴かとも思うのだが、物語に押しつけがましいところが無く、どんな人間に対しても、そこに良いところと悪いところがあることを淡々と描いて見せたところが良かったのだろう。そしてただ淡々と描くだけでなく、話の切れ間切れ間に運転手の「ありがとう」という言葉が挿入されることによってほのぼのした気分でリセットされる。ミニエピソードがドロドロしたものであっても、そこに感謝の言葉が入るだけですがすがしくなっていくのが面白い。
ただ淡々と描いてはいるものの、ここには様々な人間の感情やら社会的な問題も浮き彫りにされている。それはこの作品でメインとなっている少女の身売りが貧困から来ていると言う事もある。劇中「父親が働かなくて」と言い訳している母の姿もあるが、彼女としても何も好きこのんで娘を東京にやる訳じゃないというやるせない気持ちがこの一言に込められている。それに道々出会う人々も、道路工事に駆り出されている外国の人々、バスを使わず身一つで歩く行商人や旅芸人達、それを見ているバスの中の人達の目も決して温かいだけではない。その辺を踏まえてきっちり作られているのが面白い。その意味でも単純な善悪で規定されない人の姿をしっかり描いた作品として、そしてこの時代を映し撮った歴史的な一コマとして観ておくに越したことはない作品と言える。 |
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