02'09'11 |
嗤う伊右衛門
有名な『東海道四谷怪談』をベースに、著者流の解釈を加えて描いた、もう一つの「お岩」と「伊右衛門」の物語。
著者はかなり好きな作家で、特に「京極堂」のシリーズはあらかた読んでいたし、その質の高さ、なにより日本語のこだわりは好みで、この人の操る言葉は私のボキャブラリーを増すのに大変役立っている。それが怪談噺を描くというので、かなり期待していた(読んだのは随分経ってからになってしまったけど)。
『東海道四谷怪談』は歌舞伎の舞台劇として観たことがあるし、講談本も読んだことがある。勿論有名なのはお岩さんなのだが、実際の主人公は彼女の夫伊右衛門であり、真面目一徹の伊右衛門がついには妻と子供を殺害し、極道に堕ち、ついには妻の岩に呪い殺されるまでを描いていた。題字に「嗤う」と書いてあるので、最後にどのような笑い方を見せてくれるか。と言う所に興味があった。
だけど、本作での伊右衛門はあくまで真面目さを崩すことなく、最後に見せた笑い顔も決して「嗤い」ではなかった(嗤いとは相手を蔑んでの笑い方であり、極めて差別的な表情を見せるはずなのだ)。まあ、確かに質は高いが、言葉にえらくこだわる割りに、こんな所で題字を外すとは少々興ざめか。 |
|
|
03'10'15 |
どすこい(安)
現代日本においていくつか登場したベストセラー小説を全て相撲に置き換え、ギャグ小説にしてしまうと言う、天下の奇書。「四十七人の力士」(元ネタ池宮彰一郎著「四十七人の刺客」)、「パラサイト・デブ」(元ネタ瀬名秀明著「パラサイト・イブ」)、「すべてがデブになる」(元ネタ森博嗣著「全てがLになる」)、「土俵<リング>・でぶせん」(元ネタ鈴木光司著「リング」及び「らせん」)、「脂鬼」(元ネタ小野不由美著「屍鬼」)、「理油」(元ネタ宮部みゆき著「理由」)、「ウロボロスの基礎代謝」(元ネタ竹本健治「ウロボロスの基礎論」)の7編を収録する。
うーん。ベストセラーなのは分かってるけど、この中で読んだのは3冊しかないぞ。
これはマジでくだらない。くだらなすぎて思わず笑ってしまうと言う作品だ。これだけくだらないものを全部描いたってだけで凄いもんだが、著者が「京極堂」シリーズの、シリアス作家ってのが又凄い。一体著者の頭の中には何が詰まってるんだろうか?と見たくなるような作品だった。自分の出世作にして大ベストセラーになった「姑獲鳥の夏」を「でぶめの夏」と書いた自虐ネタも笑える。色々な意味で「面白い」と言って良い作品だ。 |
|
|
14'08'27 |
冥談
著者による短編集。「庭のある家」「冬」「鳳の橋」「遠野物語より」「柿」「空き地のおんな」「予感」「先輩の話」を収録する。
著者の作品はこれまで(超)長編しか読んだことがなかったのだが、短編は短編で味わい深い。最後の数行で「あっ」と思わされる掌編の手本みたいな話から、全体を通してじわじわと怖さを与えるものまで描き方は様々だが、かなりの水準にまとめられており、味わい深い。 |
|
|