力と栄光
The Power and the Glory |
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ジェシー・L・ラスキー(製)
プレストン・スタージェス(脚)
スペンサー・トレイシー
コリーン・ムーア
ラルフ・モーガン
ヘレン・ヴィンソン
フィリップ・トレント
ヘンリー・コルカー
サラ・パッデン |
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★★★ |
物語 |
人物 |
演出 |
設定 |
思い入れ |
4 |
3 |
2 |
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鉄道王と呼ばれた富豪トム・ガーナー(トレイシー)が自殺した。トムは貧しい田舎の出身で、鉄道の保安員として働いていたが、向学心の強いトムは小学校の教師サリー(ムーア)との結婚を機に読み書き計算を学ぶようになった。サリーの後押しもあり、以降彼はどんどん自分の才能を発揮し、どんどんのし上がっていった。そんな彼を見守っていた秘書のヘンリー(モーガン)は、彼の死に疑問を覚え、その真相を探るが…
大金持ちの男が自殺し、時代を後戻りしつつもその真相を探る。という、『市民ケーン』(1941)的な作品。と言うよりその先駆的作品と言うべきか。時間軸をバラバラにして過去と現在を自在に飛び回るという、この当時にしてはなかなか実験的な作品で、まさしく『市民ケーン』で用いられた方法そのもの。。
確かに今の目で観る限り、物語と設定は大変面白い作品に仕上がってる。何かを得た結果、何を失ったのか。という面から見ると本作は興味深い。トムは元々ガキ大将気質で、若い頃はそれなりの人達が彼と一緒に働くのを楽しんでいたし、面倒見も良かった。しかし、結婚して妻に苦労をかけながらも地位を手に入れたとき、彼はそれまで持っていた人脈を全て失い、妻からの愛も失ってしまった。大金を得ることは出来たが、そのため多くの人々から恨まれ、時として自殺者まで出してしまう。そして本当に愛そうとした女性エヴァを手に入れると妻が自殺。エヴァの秘密を得たとき、彼は自分の命を断つしかなかった。そして結果的に金は残ったが、ほとんど誰も彼の葬儀に来る人もいなかった…あらゆるものは等価交換と言われることもあるが、表面的に栄光を駆け上がった人間というのは、他人よりも遥かに多くのものを失っているという事実を描いたものとして考えることも出来るだろう。過去と現在を分割して、時間の流れを変えて二重に話が展開するのも、現在の基本テクニックとはいえ、この時代にしては頑張ってる。
やや道徳的な部分が強い感じはするが、かなり面白い物語と設定である。
ただ、これは多分『市民ケーン』)を観る前か後かで評価はがらりと変わってしまうだろう。同じ設定を使い、しかも突出した演出力を誇る『市民ケーン』と較べると、どうしても本作は演出面が弱すぎ。有り体に言えばかなり退屈な作品になってしまった。先行する実験的作品のため監督の力不足のせいにするわけにはいかないが、傑作になり得た作品を、凡作にしてしまったのがちょっと勿体ない。物語が似ているため『市民ケーン』と比較され続けてしまうのも弱み。
まだトレイシーは若く、老け役が今ひとつはまってないけど、青年時代を演じている姿はそれなりにはまっている。ただ、この作品ではむしろその謎を追う秘書のヘンリー役のモーガンの方が上手く感じてしまう。
ちなみに、それまで脚本は映画の成功とは全く別に決まった額が支払われていたが、本作から脚本も歩合制を取るようになる。その第一号。 |
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