エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
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2022米アカデミー作品賞、主演女優賞(ヨー)、助演男優賞(クァン)、助演女優賞(カーティス&スー)、監督賞、脚本賞、編集賞、作曲賞、歌曲賞、衣装デザイン賞
2022NY批評家協会助演男優賞(クァン) |
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ジョー・ルッソ
アンソニー・ルッソ
マイク・ラロッカ
ダニエル・クワン
ダニエル・シャイナート
ジョナサン・ワン
製作総指揮
ティム・ヘディントン
テリーサ・スティール・ペイジ
トッド・マクラス
ジョシュ・ラドニック
ミシェル・ヨー(製)
ダニエル・クワン
ダニエル・シャイナート(脚)
ミシェル・ヨー
ステファニー・スー
キー・ホイ・クァン
ジェームズ・ホン
ジェイミー・リー・カーティス
タリー・メデル
ジェニー・スレイト
ハリー・シャム・Jr
ビフ・ウィフ
スニータ・マニ
アーロン・ラザール
オードリー・ヴァシレフスキ
ピーター・バニファズ |
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★★★★ |
物語 |
人物 |
演出 |
設定 |
思い入れ |
3 |
4 |
5 |
3 |
4 |
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アメリカ在住の、コインランドリーを経営しているエヴリン(ヨー)。しかし国税局のディアドラ(カーティス)からコインランドリーの経営について厳しい質問を受け、その説明のために領収書など書類を全て用意しなければならなかった。更に折り合いが悪い娘のジョイ(スー)が実家に帰ってきて感情はいっぱいいっぱい。そんな時、夫のウェイモンド(クァン)に乗り移った"別の宇宙の夫"から全宇宙の命運を託されてしまう。その夫によれば、別の宇宙にいるジョブ・トゥパキを倒せと指令されるのだが、なんとそれは別の宇宙にいる娘のジョイだった。
2022年のアカデミー賞はアジア勢が席巻し、本当の意味で国際的な映画賞になったことを思わされたが、見事作品賞でオスカーを取ったのが本作だった。本作はオスカーでは二作目となるSF作品の受賞作ともなり、色んな意味で珍しい作品となった。
そんな作品をたまたまオスカーの授賞式の翌日に観ることが出来たのはラッキー。
あらかじめこの作品はマルチバースがテーマになり、様々な次元を旅しつつ、真実に近づくことと、結局は家族喧嘩である事だけはあらかじめ分かっていた。マルチバースはマーベル作品やウルトラマンなどでもう有名になっているし概念も知ってる。そんな状態で観に行った。
観た素直な感想を言えば、とにかく画面がやかましい。
同じキャラが違う役割で登場し、時に味方であったり、時に敵であったり、全く関係のない存在だったり。他人だった人間が恋人になってる世界もある。そんな世界に行ったり、時に別世界の人間が現実世界の人間に憑依したりするので、話はワチャクチャ。同じキャラが違う行動を取ったりすることが多いため、概ね話はまとまっていない。
ただ、その混乱は混乱のままで良いのだろう。大切なのは、家族の葛藤を描くことにあったのだから。
アメリカ在住の外国人は多くの困難を抱えつつも、自分たちの生活を作り上げていく。これはこれまで多くの作品で作られていたが、近年でも韓国人家族を描いた『ミナリ』(2020)があるし、短編アニメでオスカーを取った『Bao』(2018)もある。それらで描かれる移民の姿は家族を中心とした物語になる。
外国から来て、そこで商売を成り立たせるのは並々ならぬ苦労があるし、周囲の偏見もある。その中で生きていくには、負けていられないという強い意志が必要で、まさにここに描かれるエヴリンは、その強い外国人を体現した人物である。最低限法にだけは従わないといけないため、そこはしおらしく。しかしそれ以外には全方位に向かって攻撃するくらいでないと商売もやっていけない。そんな人たちは、家族という共同体でつながっていないとやっていけない。
これを考えるに、彼女は出来れば近くにいてほしくはないタイプの女性で、その攻撃対象は家族にまで向かっていて、それに家族は疲弊している。夫のウェイモンドは真剣に離婚を考えているし、娘のジョイは母に対して何の期待もしていない。心がバラバラで消耗しつつもほぼ義務で辛うじて家族関係を保っていた。
そんな中で始まった家族の危機。その危機を前に家族わだかまりを越えては団結し、互いを理解することで和解していく。これだけだと実に分かりやすいファミリードラマである。
マルチバースとかは演出の一部に過ぎず、重要なのは家族の絆の再生ということになる。心バラバラであった家族がお互いを見ることで、受け入れていけるようになる。まさしくファミリーの物語という小さな結論に持って行った。一見壮大な物語だが、事実は家族喧嘩と和解の話となっているわけだ。
…しかしそう考えると、この物語は、いわゆるセカイ系小説の系譜になるのでは?
セカイ系というのはふわっとした小説ジャンルだが、世界の危機とかを前提にしつつ、その中心となっている人物が人間関係の中だけで世界と対峙するというもの。端的に言えば、主人公が友だちと和解すれば世界は救われるという、そういうジャンルで、2000年前後に日本のライトノベルでの主流だった。日本では既に廃れたジャンルだと思っていたのだが、海外の方で発展していて、ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』(2016)の原作、テッド・チャンによる「あなたの人生の物語」や、リウ・ツーチンによる「三体」など、世界的にはちゃんと発展している。本作も確かにその系譜に乗っかっている。かつて日本で流行っていたものが、今世界に認められているという事を考えるだけでも結構嬉しく感じるものである。 |
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