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2009年 J・J・エイブラムズ |
25年前。異形の宇宙船によって撃沈された惑星連邦軍戦艦USSケルヴィン。この中でジェームズ・T・カーク(パイン)は生を受けた。その後、無軌道な青年時代を経、父を継いで艦隊に志願する。優秀な能力を発揮しながらもトラブルが絶えないばかりに士官になれずにいたカークだが、そんな時にへの壁を越えられずにいた。たまたま謹慎を受けている時に緊急事態が発生し、同期の仲間たちがそれぞれ艦に乗って出動していく。友人のマッコイ(アーバン)の機転でなんとかエンタープライズに潜り込んだカークだが、そこには副長としてバルカン人と地球人のハーフ、スポック(クイント)も乗っていた。バルカン人特有の論理的で冷静沈着なスポックと直感で行動する男カークは互いに相容れない存在として対立してしまうが… 昨年公開されたハリウッド製特撮の佳作『クローバーフィールド HAKAISHA』は、何のタイトルも、怪獣も出してない予告編のお陰で公開前から凄い話題になっていた。その仕掛け人こそが製作に当たっていたJ・J・エイブラムズだったが、そのエイブラムズが今度は監督として作り上げたのは、古典SFシリーズで、高らかに新シリーズ開始を謳い上げた本作だった。 実は本作は私にととっても期待度の高い作品だった。“あの”エイブラムズが“あの”スター・トレックを作る。なんかそれだけで嬉しい気がしたし、トレッキーとまでは言わないまでも、それなりにファンでもある私には、やっぱり初期のスター・トレックと言うだけでなんかワクワクさせてくれる。 そしてワクワクしながら映画館に入り、ワクワクしながら映画を観て、そしてワクワクしながら帰宅した… なんか変な言い方だが、この作品は、本当にあらゆる意味でワクワクさせっぱなしにさせてくれた作品だった。 最初に感じたワクワクは、勿論期待感によるもの。 劇中に感じたワクワクは、「おー。こいつ分かってるじゃん。こうくるか。じゃ次は何が来るんだ?」という、トレッキー的な設定や物語のつながりを感じさせてくれるワクワク感。次々に出てくるキャラの名前や惑星の名前だけでも、次々に記憶が引き出され、「あー、こいつはこういう役だったが、ここではこういう役か」とか考えてしまい、ニヤニヤ笑える。 そして終了後のワクワクは、「さーて、この話は勿論続くんだろうな。次はどんなのが出来るんだろう?」という続きを待つワクワク感。 結果として、ずーっとワクワクさせてくれた作品で、今も尚ワクワク感は終わってない。 だから、素直に本作は良い作品だと言ってしまおう。こんなにずーっとワクワクさせてくれる作品なんて滅多に出会うことが出来ないよ。 さて、それで本作の内容だが、アクション作品好きにはストレートに楽しめるだろうが、それなりにディープなSFファンにとっては、たいした作品に思えないだろう。実際SF的な意味においては、物語として単純すぎるし、特に主人公のカークの幸運っぷりは予想の上を行き、あまりにもご都合主義な主人公の言動に、「いくら何でもこりゃ無いだろう」と思わされたりもする。後、航行中の宇宙船が戦闘で揺れるなんて事はあり得ないとか。 私もそれは認める。これが普通のSF作品だったら、その部分でクサしていただろう。しかしこれはSFではない。スタートレックなのだ。往年のテレビシリーズを観た人なら分かるだろうが、その、単純なストーリー+幸運すぎる主人公のコンボこそが実はスタートレックの魅力そのものなのだから。だから、本作を観た感想は「良いSF作品を観た」じゃない。「良いスタートレックを観た」というのが正しい感想になる。 だから極めて単純な本作のストーリーはスタートレックとしての強味に他ならない。 だけど、単純でありながら、話も色々捻ってはいる。 最も大きな改変は、これはスター・トレックの始まりの話であると共に、オリジナルシリーズの続編になっていると言う事。結局それは本作がタイムスリップを物語の中軸に据えているからだが、それはあまり重要視されてない。『ドラゴンボール』のセル編よろしく過去と未来は連続した時空ではない。というだけのあっけない説明で全て済ませている。でもその思い切りが良し。その分キャラ描写に深みが出た。 例えばネロが率いるロミュランの宇宙船だが、オープニングカットの禍々しいフォルムと良い、巨大感と言い、重力兵器をも持つ科学力とも言い、あたかも強大な敵のように思わせておいて、実は単なる作業船であったという皮肉。まあ、『戦国自衛隊』で自衛隊の代わりに土木作業員が重機と共にタイムスリップしたような設定になるのだが、そうする意味は物語上、何の意味もない。別段本当に過去の歴史を変えに来た強大な武力を持つ敵であっても話はそのまま通じる。だが敢えて敵を卑小化することで諧謔趣味が溢れているから楽しいのだ。こういう皮肉な設定が溢れていて、特にオリジナルシリーズとは異なる登場のさせ方をさせると、そこも楽しめる。 又、人物についてもオリジナルシリーズとはやや描写が異なることも特徴的だろう。オリジナルシリーズではカークの父は生きていて艦隊司令になっていたし、劇中破壊されてしまったバルカン星を舞台にした話もオリジナルシリーズにはちゃんと重要な物語としてあった。その辺がキャラの性格に影を落としていたりするし、後半に現れる元々のスポックも随分人間的に丸くなってる。特に年老いたスポックがあんなに丸くなってるのは、妙にしんみりさせる部分。きっと死に別れた(『ジェネレーションズ』で分かるが、正確には行方不明となった)カークとの思い出を大切に胸に秘め、そのどれだけカークを信用し、親友となっていったのかを思い起こさせるし、だからこそ、歴史が変わった過去の自分に対し、「カークに付いていくように」とアドヴァイスが出来たと思われる。歴史が変わっているのだから、自分とカークが味わった冒険が繰り返される訳ではない。しかし、このコンビなら、たとえどんな出来事が起こっても、絶対に乗り越えることが出来る。という全幅の信頼感に溢れた言葉になってる。今は反発し合っている二人も、そうしている内にやがては運命のように二人は親友になるはず…何という信頼感だろうか。これを聞いたとき、嬉しい気分になった。 私はトレッキーと呼ばれるほどの熱烈なマニアではないが、先に特撮館でスター・トレックのレビューを作る際、主に海外サイトを漁って情報を集めていったのだが、その際にトレッキー達のムーブメントの歴史や、ファンが本当に求めているのは何か。と言う事も頭に入れることが出来た。その意味で本作は、そう言うムーブメントを通ってきたトレッキーへの優しさに溢れた作品だと言う事が出来るだろう。最後のスポックの言葉は、トレッキーが望んでいた言葉だ。 |
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2013年 J・J・エイブラムズ |
西暦2259年。惑星ニビル探査中のUSSエンタープライズ号艦長のジェームズ・T・カーク(パイン)は、副艦長スポック(クイント)の命を救うために重大な規律違反を犯してしまう。地球に帰還したカークはその責任を問われ、艦長を解任されるのだが、まさしくその時、地球では議会に対する軍の陰謀が進行中だった。やがて首謀者ジョン・ハリソンはクリンゴンが支配する惑星クロノスに逃亡したことが判明し、この緊急事態に、再びUSSエンタープライズの艦長に復帰したカーク… 今年は、いわゆるオタク監督が夏を席巻した感がある。『パシフィック・リム』(2013)のデル・トロ。『マン・オブ・スティール』(2013)のスナイダー、そして本作のJJ・エイブラムス。何というか、とにかく私のような人間にとっては幸せな夏を送らせていただいた。まずはこんな作品を作ってくれたJJには感謝したい。 JJは前作『スター・トレック』でそのオタクっぷりを見事に見せてくれた。かなりメタフィクショナルだが、ちゃんとオリジナルに敬意を持って、きちんとつなげてくれていたし、テレビ版にファンとしては大満足な一本で、ほとほと前作は感心させられっ放しだったものだ。 それで今回はその続編となるのだが、ここでは一つ期待感があった。前作はモロに「スタートレック」へのオマージュだったが、ここからがJJのオリジナルとしての一作目となるだろう。さてこれからどんな方向性を見せてくれるか? …と、思ってた。 まさかこんな方法を使うとは。かなりなんというか、唖然とさせられた。まだこんなオマージュの捧げ方があったのか! ここではっきり分かったのは、一作目のオマージュはスタートレックはスタートレックでも、テレビシリーズ版についてだった。これはこれで素晴らしいのだが、もう一つ捧げねばならないものがあったか!そう。これはテレビ版「スタートレック」ではない。映画版『スター・トレック』(1979)に捧げられたものだった。 この作品、見事な程に映画版の描写に準拠してる。 最初の火山でのエンタープライズの活躍(と言うかスポックの活躍)は『3』のものだし、その後のメインストーリーは『スター・トレック2 カーンの逆襲』(1982)に準拠してる。最後のスポックとカーンの追いかけっこはおそらく『4』からだろう。劇中カーンの名前が明らかになった時点でその辺「なるほど!」となるのだが、その瞬間こそ興奮するものの、それが解ってしまうと多少気持ちが冷める。こうなると、物語そのものよりもどこにかつての劇場作品と関わりがあるのか?と言う部分に興味が移ってしまい、素直に物語を楽しめなくなる。 その最たる部分はカークの殉職シーンだろう。放射能汚染の部屋に独りで入ってエンタープライズを救うのは『スター・トレック2』でスポックがやったことと全く同じで、最後にガラス越しに手を合わせるシーンまで同じ。これはやりすぎ。本来一番感動するはずのシーンがパロディになってしまい、泣けるより笑えてしまう。これは大きな問題じゃないかな? 物語そのものは充分に魅力的ではあるのだ。だが、そこに明らかなパクり要素を多数入れてしまったことで気持ちが冷めてしまう。 JJがスタトレ好きなのは前作観るだけで充分分かるが、その“好き”と言う気持ちを“俺の作品”として自信を持って提供して欲しかったし、それを受け止めて新しいスタートレックサーガに思いを馳せるような気持ちにさせて欲しかった。それが残念でならない。JJには既に充分すぎる実力がある。一介のファンに留まって欲しくはないものだ。 もう一歩踏み出すのを恐れたか?それともまだ「俺は一介のトレッキーに過ぎない」とか言うつもりか? ただ、物語性や演出と言った重要な点はきちんと水準以上にはまとめられているのは確か。 単に派手なだけでなく、きちんと一人一人の個性を際立たせた細やかなドラマを作り出し、戦いとなったら戦ってる一人一人の実力の差も見せつけてる(短いシーンで桁違いのカーンの強さをきちんと描写出来てる実力もたいしたものだ)。スタトレ恒例のコクピットの横揺れ描写とか、工場のような剥き出しのエンジンルームとか、細かいところで「これはスタートレックだ」と主張してるのも微笑ましくてよろしい。 オリジナル版よりもやんちゃ度が上がったカークもなかなかに魅力あるけど、やっぱりスポックが良い。前作と比べても、根本的なところでカークをしっかり信頼し、そのサポートしようとする姿がなんとも好みだ。なんだかんだでこの作品、カークよりもスポックの方が画面に映ってる時間長いし、ラブストーリーまで用意されてる。 概ねにおいて本作は『スタートレック』としては大成功だと思われる。だけど、『スタートレック』だから許したくないものでもある。複雑な気分だ。 |
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