読書日誌
2002’11〜12月

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02'12'30 星界の紋章 帝国の王女 (著)森岡浩之 <amazon>
 宇宙に生まれ、銀河の大半を手中に収めた《アーヴ》と言われる人間から生まれた種族。父のお陰でアーヴの貴族となってしまったために故郷を追われたジントはラフィールというアーヴの少女と出会う…壮大な《人類対アーヴ》の戦いに巻き込まれてしまった二人の冒険を描く。
 私は
かなりの設定マニアであり、割合軽めの作品も好き。それでSF好きと来てるのだから、当然本作は楽しめるものと思っていた。それでもこれまで手に取るのが何故かためらわれた作品だった。
 結局ようやく本作を手に取ったのは今年の夏
(既に二つの続編が刊行されている)。3巻本を半年ほどかけて読んでいった。
 確かに楽しい作品とは思う。それは認める。用語も面白いし、設定もよく練られている。それでやってることは非常に限定されていて、ちゃんと読み物として作られている。
 それはよく分かる。それにこれは確かに私のタイプの作品。の、
はずだ。
 理性的に見る限り、この作品を楽しめないはずはないのだが、実は
ほとんど楽しいとは思えなかった(いくつか確かに面白いと思う部分はあるんだけど)。
 内容よりむしろ、それが何故か?と言う事の方が私にとっては興味がある。
演出がアニメっぽいとか、ストーリーが陳腐だとか、どうも『銀河英雄伝説』に影響を受けた部分が鼻につくとか、いくつか考えられるんだけど、現時点では、何故はまれなかったのかはっきりしない。
 機会があれば続編を読んで
(それよりはアニメを観た方が良いか?)、考えてみようと思う。
星界の紋章〈1〉
02'12'26 夜の子供たち (著)ダン・シモンズ (訳)布施由紀子 <amazon><amazon>
 免疫学の女医ケイトはチャウシェスク政権が倒れた直後のルーマニアで難病に冒された一人の赤ん坊を養子にし、アメリカへ連れ帰った。ジョシュアと名付けたその子供は複数のレトロウィルスに冒されているにも拘わらず、輸血をするだけでその症状が軽減する。この子の血清を研究することにより、HIV治療への道が拓かれると直感したケイトは早速研究を始めるが…
 「ハイペリオン」を途中で放り出してるって言うのに、何故か同じ著者の作品を読み始めてしまった。元々著者の作品と出会ったのが「カーリーの歌」というホラー小説だったから、むしろ著者はSFよりホラー作家として見てしまう傾向があるな。
 本作は吸血鬼をレトロウィルス
(普通ウィルスはDNA→RNAへの転移のみで、元のDNAに影響を与える事はないが、レトロウィルスと呼ばれる特殊なRNAのみがDNAそのものに干渉できる。HIV、つまりエイズがその例)と関連づけて考察するという、伝承と科学をまとめた作品で、観点がとても面白いのだが、ストーリーそのものは普通の冒険活劇になってしまったのがちょっと残念。それでも当時のルーマニアの政情や免疫学など、色々な知識が詰まった作品なので、設定好きな人間には充分楽しめる内容となっている。後、勿論吸血鬼ものの小説が好きな人にも充分お勧めできる。
02'12'24 夜の声 (著)小松左京 <amazon>
 著者の短編集。
 日本SFの第一人者は誰か?と聞かれたら、たとえどんな時代であっても、やはり私は著者の名前を挙げたい。著者作品と初めて遭ったのは小学生の時、ジュブナイルでだったが、その後高校になって本格的に読み始め、5年ほどかけてほとんどの作品を読んだと思う(そう言えば「首都消失」は死蔵してたな)。それでも時折、こう言った短編集なんかで読んでないのが時折発見されたりする。それにこれはとてつもなく私の好みだった。特に伝奇とSFの融合とも言える「女狐」(名前で安部清明の話と分かる人はそれなりの通だけど、今は増えてるんだろうな)は完全な衝撃だった。例えばこれが書かれたのが現代だったとしても、そのまま傑作として受けいれられるぞ。
 こう言う衝撃を受けるからこそ、SFは止められないねえ。
02'12'21 はじめの一歩63
森川ジョージ (検索) <amazon> <楽天>
 前戦の傷が癒えぬまま、新しい挑戦者唐沢と戦う事になった一歩。明らかに格下の彼に対し、一歩は「基本に立ち返って戦う」と宣言する。万全なデンプシー対策を立ててきた唐沢に対して一歩の取った戦術とは…

 いつのまにやら63巻か。始まったのが10年以上も前の話だ。よくつきあってるよな。私も。それでもまだ世界が見えてないのだから、最終巻までにどれ程時間がかかるやら…
 出来は相変わらずテンション高く、楽しく読む事が出来る。緩急の付け方が巧いから、これだけ巻数が進んでも、ちゃんとした話になっているのはさすがと言うべきか。
<A> <楽>
02'12'18 小僧の神様・城之崎にて (著)志賀直哉 <amazon>
 著者による短編集。
 いわゆる「白樺派」と呼ばれる文学作品は正直あまり好きではない。現実から遊離し、様々な先達の作品を頭でこねくり回したような作品がどうしても多くなるから。特に著者の
「暗夜行路」は私にとっては最も苛つく作品の一つだった。
 だが、著者の文体の、なかんづく日本語の使い方の巧さは特筆に値する。殊にこう言った短編だと物語そのものよりも文体の方が重要になる事が多くあり、著者の力量は十分に発揮されているのではないかな。物語としてこれ程美しい日本語を書ける人は滅多にいないだろう。それだけは評価しすぎと言う事もあるまい。
02'12'11 ミオよ、わたしのミオ (著)アストリッド・リンドグレーン (訳)大塚勇三 <amazon>
 ストックホルムで養父に育てられたブーはある日、瓶に入った魔神を助ける。その魔神は驚く事にブーを連れに来たと言う。実は彼こそがこの世界とは異なる世界、「はるかなる国」の王子ミオだと言うのだ。そこには本当の父が彼を待っており、そこで新しい友や、自分のための馬と出会い、幸せに暮らし始めた。ただ一つ、噂に聞く恐ろしい騎士カトーを除いて…
 著者の作品は結構読んできたつもりだが、彼女の作品は基本的に現実に即した童話が多いのだが、こう言うファンタシー然とした作品も書いてるんだね。読みやすいし、心情もはっきり描かれているため、とても楽しかった。最近ファンタシーは
『ハリー・ポッター』でブームらしいが、ひねくれたファンタシーじゃなくて、こう言った素直な作品こそが本来必要なんじゃないか?とにかくこれは好みだよ。
02'12'10 魔女狩り
森島恒雄(検索) <amazon> <楽天>
 中世ヨーロッパで行われた負の歴史の一つ。魔女狩り。異端裁判としての側面をも持つこの出来事を歴史的事実として見据える。
 魔女狩り。この言葉は不思議な印象を持って響く。私がローマ史に興味を持ったのは多分この言葉から入っていったのだと思う。まだガキだった頃マーク・トゥエインの「不思議な少年」を読んだその時から、人災としての歴史が、多分心に残り続けていたのだと思う。
 そう言う事で実は随分この関連の本は読んでいる。本書だって大学時代に一度読んでいる。それ以外にも有名なジュール・ミシュレの「魔女」があったし、フランス人、ドイツ人が書いた、題目そのもの「魔女狩り」も読んでいる。多分5、6冊は関連書を読んでいるはず。
 それで偶然引っ越しの段ボールの中に入っていた本書を手に取り、懐かしさで読み返してみると、これ又随分と新しい発見があった。
 やはり著者が日本人と言う事で、極めて冷静な、それであくまで歴史から学ぼうという姿勢で書かれているため、生々しさこそ無いけど、逆に冷徹な事実を読んでいる感触が強く、大変面白かった。
 最近こう言った歴史書を読む事が少なくなってきたけど、時に読むとやっぱ楽しいな。
<A> <楽>
02'12'06 招かれざる客 (著)アガサ・クリスティ (訳)深町真理子 <amazon>
 霧の深い夜、高名な狩猟家ではあるが、半身不随となり、粗暴で知られるようになった一人の男が撃ち殺された。彼の家族と、そこにたまたま居合わせた男とが容疑者として挙げられるが、家族それぞれの思いこみにより、捜査は難航していく。果たして真犯人は…
 私は結構様々な分野の本を読むようにしているが、その中では比較的推理小説の占める割合は低い。別段理由はあまりなく、特別に買おうと思わないだけ。それに特に日本の推理作家の書く小説はどうも私に合わないのが多いので(横溝正史とか江戸川乱歩とかは別な意味で面白いけど)。
 それでも推理小説の中で最も良く読んでいるのはやはりクリスティだろう。著者の描く舞台は様々な伏線と人間ドラマに満ち、最後もあっと思わせる仕掛けが置いてあったりするから、時々不意に読みたくなったりする。
 本作も質は高く、楽しめた作品。特にラストは面白い。だけどこれは実際には“謎解き”はされてないんだよね。そう言う人を食った終わり方というのも楽しい。
招かれざる客
02'11'30 のんびり行こうぜ
野田知佑 (検索) <amazon> <楽天>
 カヌーイストの著者によるエッセイ集。
 私は釣りはしないのだが、何故か好きなエッセイには釣りに関したものが多い。例えば開高健、椎名誠、そして著者の野田知佑…釣りとかなんとかより、元々が田舎の出なので、自然に関するエッセイが好きなのかも知れない。それともデスクワークばかりしてるから、せめて本では外の空気を感じたいからか?
 いずれにせよ、好きなエッセイだし、ちょっと古いけど、これは楽しかった。丁度同時期に椎名誠もエッセイを出しており、そのリンクが垣間見られて楽しい。
 著者は「日本人は遊ぶのに真剣じゃない」と言っているが、それは本当のことかも知れないとしみじみ。本当に好きなことは命を賭ける。それが遊びであれば本当に素晴らしいことなんだろうな。どうやら私はその境地にはほど遠いようだけど。
<A> <楽>
02'11'18 広き迷路 (著)三浦綾子 <amazon>
 出世のため、常務の娘と結婚するために恋人の早川冬美と別れようとした男、町沢加奈彦は、知り合った探偵、田條に彼女を殺してくれるよう依頼する。彼は首尾良く彼女を殺すことに成功したと、加奈彦に報告し、彼は幸福な結婚をしたのだが、何故か加奈彦の前に冬美によく似た女性が現れるようになった…
 著者の作品は悲惨なものが多いが、そのどこかに救いが現れるので、そこが好きなのだが、本巻は随分と気を持たせた割りに本当に悲惨なだけの作品になってしまった。テレビでやるサスペンスものの陳腐さとなんら変わるところがなかったのが残念。文章自体は巧く、引き込まれはしたけど。
02'11'17 新・ゴーマニズム宣言12
小林よしのり (検索) <amazon> <楽天>
 SAPIOに掲載された漫画を大幅加筆して単行本化したもの。
 昔、SPA!をよく読んでいた時期があり、本作と出会った。思えば随分長い間この漫画とはつきあってる。さすがに今は漫画類の立ち読みを全然していないので、雑誌では全く読んでいないが、単行本化すると性懲りもなく買ってしまう。
 それにしても著者は随分変遷したものだ。最初はむしろ社会運動の旗手のような位置づけにあったのに、その後極端な右傾化。そして本巻を読むと、今までの保守からも離脱して独自の理論を展開し始めてる。私が小学校時代に「東大一直線」を描いていた人間と同じとはとても思えないほど。随分社会に影響を与える作家に育ったものだ。
 この作品はとにかく極論を展開するので、読んでいると楽しい。自分自身の政治的立場を明確にするためにも本作は良い標識となってる。私にとってはメルクマール的な位置づけになるんだろう。
 知り合いにはこの著者を目の敵にする人が結構いるのだが、所詮作家に過ぎない人間を、そこまでこき下ろす事もなかろうに。こき下ろすことで自分の正しさを証明しようと言う気分は分かるんだけど、そんなことをするよりもっと大切なこともあるだろうに(別に私は擁護派でも反対派でも無し。自分が楽しめればそれで良い)
<A> <楽>
02'11'16 宝島 グインサーガ外伝17
栗本薫 (検索) <amazon> <楽天>
 イシュトヴァーン19歳。彼は義兄弟のちぎりを交わしたランという青年と共に、自分の船を持って大海原に乗り出す。目的は呪いのかかったと噂されるクルドの財宝。首尾良くその情報を手に入れることが出来たイシュトだったが、彼の動きはレントの海の海賊に知られることになり…

 久々の外伝であり、著者の思い入れがたっぷりと詰まった作品となった。それは確かだ。
 ただ、著者が思い入れたっぷりに描くと、嫌味なほどにベタベタな作品となるため、私は好きじゃない。特にイシュトヴァーンの若い頃の活躍というのは、私が一番読みたくない作品なので、ほとんど消化のために読んだようなものだ。物語自体の出来は、そう言う思い入れの部分を突き放して読めば可もなく不可もなし。あまりにも古くさい手法の物語ではあったな。
<A> <楽>
<A> <楽>
02'11'14 寝盗られ宗介 (著)つかこうへい <amazon>
 芸能界の吹きだまりのような旅回りの一座。面倒見の良い座長市ノ瀬花之丞はそう言った人間を集め、一座を何とか作っていた。彼には大学時代からつきあってきた内縁の妻レイ子がいたが、花之丞は何故か次々とレイ子を一座の男と駆け落ちさせていた。彼の真意は…
 複雑な家庭環境に育ち、大学で演劇を学んだインテリでありながら、場末の劇団を率いる座長を主役に、一座の一人の男が婚約者に出した手紙という形で構成された作品。映画にもなった『蒲田行進曲』の著者は、こう言った芸能界の吹きだまりのような所を描くのが本当に上手い。著者自身が劇団を率いてたからこそ、描ける作品なのだろう。こんな舞台での人間関係が本当に上手く描けてる。
02'11'12 ハリー・ポッターと炎のゴブレット ハリー・ポッター4
J.K.ローリング(検索) <amazon> <楽天>
 4年に一度開かれる魔法使い達の祭典。クィディッチのワールドカップがイギリスで開催された。ハリー達を含め、熱狂して試合を観る観客の前に突如、闇の紋章が空に浮かんだ…闇の司祭ヴォルデモートの復活がいよいよ近づいていることを予見させ、人々は恐怖の念に打たれる。一方、ホグワーツ魔法学校では、他の二つの魔法学校を交えて、三学校対抗試合が行われることになった。何故かその選手に選ばれてしまったハリーだが…
 言うまでもなく、大好評の「ハリー・ポッター」シリーズの邦訳最新刊。何でもこの一冊で(正確には上下巻で2冊だが)今年の日本の出版の総売上の1/10を見込むそうだ。出版元の静山社は社員10名にも満たないはずだが…冷え込んだ出版業界の中にあって、唯一熱すぎる会社だ。それにしても本当にとてつもないベスト・セラーに育ってるな。
 それで、この本は読むのに偉く時間がかかった。長さで言っても、一巻『賢者の石』の約三倍の量があるそうだ。上下巻でとてつもなく分量があるため、さすがに読み切るには苦労したよ。
 一読して思う。確かにこの作品、質は高いと思う。だけど、元々が童話として始まったはずのシリーズにしては、この巻は内容がハード過ぎはしないか?とてもこれ、子供向きには見えないぞ。
 兎角著者は他人の悪意を描くのに長けているが、ここまで来ると、著者の精神状態そのものを疑いたくなるし(過去に余程腹に据えかねる事があったのかな?)、終わり方も救いが無い。最早後戻りできないところまで来てしまったような…
 こう書くと熱烈なファンから石投げられそうだが、著者、完全に方向性を見誤ってるぞ。本巻以降のシリーズは子供に読ませるべきじゃない。もし著者が最初からこの方向性で書くつもりでいたとしたら、とてつもない悪意的確信犯だと言おう。
ハリー・ポッター (4)
02'11'05 N・P
吉本ばなな (検索) <amazon> <楽天>
 アメリカに住む高瀬皿男という男によって描かれた97編の短編小説「N・P」。これは著者を含め、この作品に関わった者は次々に自殺していくという曰く付きの作品だった。かつてこの作品の翻訳にあたり、自殺した庄司という男を昔の恋人としていた風美は、時が経ち、高瀬の双子の遺児、咲と乙彦が同じ町に住んでいることを知る。二人と、乙彦の恋人の萃と知り合いになった風美の不思議な日常を描く作品。

 著者の作品とはご無沙汰だったが、とにかくこの人、日本語の使い方が巧い。決して正しい日本語というわけではなく、むしろ簡略化したような文体なのだが、これが不思議なほど見事に場面を描写しており、誰にも真似が出来ないバランスを持っている。
 本作はかつて読んだ作品と較べ、随分と雰囲気が変わった感じだが(今までのような透明感が無くなり、かなりドロドロした人間関係を描いている)、相変わらず著者にしか描けない見事な文体は健在で、傑作と言って良い作品だと思う。
<A> <楽>
02'11'03 黒猫・モルグ街の殺人
エドガー・アラン・ポー (検索) <amazon> <楽天>
 岩波文庫収録の短編集。「黒猫」「ウィリアム・ウィルソン」「裏切る心臓」「天邪鬼」「モルグ街の殺人事件」「マリ・ロジェエの迷宮事件」「盗まれた手紙」を収録する。
 小学校の頃、怪奇小説が好きだった。それは子供らしい好奇心と言えないこともないが、今になって思うに、よくも変なのばかり読んでいたものだと感心するほどだ。江戸川乱歩も横溝正史もラヴクラフトも、そしてこのポーも(ついでに言うなら牡丹灯籠も東海道四谷怪談も)、彼らの作品はみんな小学校の時に出会った。
 子供向きのポー作品は図書館に置いてあったので、その全集を小学校時分に読み切った(詩集は除く)。当時の私をワクワクさせ、同時に怖がらせてくれた短編の数々。それを今になって大人向きの作品として読み直してみると、当時ほどのワクワクした気持ちにはなれなかった。ただ、逆に大人になってこそ分かる楽しみもそこには見出すことが出来た。特にドッペンゲルガーを扱った「ウィリアム・ウィルソン」は人の良心のあり方と言うことについて、色々と考察できた。
 著者の小説のテーマの一つとして、天邪鬼と言うのがあるように思える。してはいけないからこそしたくなると言う人間的な思いを見事に小説化している事に気付く。卓越した心理描写の作家として評価できる。
<A> <楽>