TAR/ター |
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トッド・フィールド
アレクサンドラ・ミルチャン
スコット・ランバート(製)
トッド・フィールド(脚)
ケイト・ブランシェット
リディア・ター
ノエミ・メルラン
フランチェスカ・レンティーニ
ニーナ・ホス
シャロン・グッドナウ
ソフィ・カウアー
オルガ・メトキナ
ジュリアン・グローヴァー
アンドリス・デイヴィス
アラン・コーデュナー
セバスチャン・ブリックス
マーク・ストロング
エリオット・カプラン |
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★★★★ |
物語 |
人物 |
演出 |
設定 |
思い入れ |
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ベルリンフィル首席指揮者リディア・ター(ブランシェット)は、妥協のない音楽への取り組みと、常に努力を忘れない姿勢によって世界随一の指揮者と見られていた。私生活では同性愛者としてパートナーでソリストののニーナ(グッドナウ)と共に娘を育て、自伝や新曲の作曲、これまでの集大成としてマーラーの交響曲五番の録音など、多くのストレスを抱えていた。そんな時、かつてターが指導した若手指揮者の自殺が明らかとなり、その原因がターにあるとタブロイド誌にすっぱ抜かれてしまう。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)に席巻された感のある2022年のアカデミー賞で、主演女優賞もミシェル・ヨーが獲ったが、主演女優賞に関しては本命視されたのは実は本作のブランシェットだった。その意味では主演女優賞が一番盛り上がったとも言える。実際この二作品を見比べてどっちの方が女優賞に合うかと考えると、私だったら確実にブランシェットの方を選ぶ。それほど圧巻の演技力を見せつけてくれた。
そもそもケイト・ブランシェットの演技の巧さはとんでもないレベルで、20年前からもう分かっていた。この後10年はこの人が女優賞を席巻するだろう。2000年から2001年までに『ギフト』(2000)、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)、『シッピング・ニュース』(2001)の三作を立て続けに観て、もうすっかりファンになってしまったから。全部全く違う演技をしっかり個性出して演じきってるもんだから、こんなのがいるんだとほとほと感心したものだ。『アビエイター』(2004)のキャサリン・ヘプバーン役なんて、この人以外できる人はいないとまで思う人だったし、『アイム・ノット・ゼア』(2007)では中性的な男子役までこなしてる。
そんなブランシェットの集大成と言っても良いのがこの作品。なんでもトッド監督は最初からブランシェットの当て書きでターを創造し、ブランシェットが拒否したら作品そのものをお蔵入りさせるつもりだったそうだが、脚本を読んだブランシェットは即座に快諾。二年を掛けて役作りをしていたという。
ほんとに演技に関してだけ言うなら、圧巻過ぎて他の追従を許さない。私だったら今年の演技賞は絶対ブランシェットに与える。
ただ、ここで問題が一つある。
物語が分かりづらいのだ。一見これは完璧主義で、自分が天才である自覚のある人物の生き様を描いた作品とは言える。自分が天才であることを知っているので、それに見合うだけの地位と尊敬を受けるに値することを本人も自覚しているし、そこに留まる努力を続けられる努力もある。
ただ、それ故に完璧で無ければならないという生き方を自分に強い、更に周囲の人々にもそれを求めてしまう。勿論自分ほどの天才はいないということは分かっているので、大分優しくはなるものの、いい加減さを認めるつもりも無く、そう言う人間には制裁を与えてしまう。
結局この他者への不寛容が彼女を追い詰め、スキャンダルを作り出してしまう。
そして天才は足をすくわれるとあとは転落するのみ。厳しすぎる生き方は、誰も助けてくれる人がいない生き方だった。
それでも尚音楽に執着しつづける凄まじいまでの生き方を描く。
…ということが一通りの作品の評価となる。だが、おそらくこれは表層的なもの。なんというか非情に暗喩的なものがありそうなのだが、それが現時点では推測できない。もう少し時間が経って、他の人の考察を読んでから、改めて評価する必要があるだろうと思ってる。 |
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