名もなく貧しく美しく |
1961ブルーリボン脚本賞
1961キネマ旬報日本映画第5位
1961毎日映画コンクール脚本賞(松山善三)、女優主演賞(高峰秀子) |
|
藤本真澄
角田健一郎(製) |
松山善三(脚) |
小林桂樹 |
高峰秀子 |
島津雅彦 |
王田秀夫 |
原泉 |
草笛光子 |
沼田曜一 |
松本染升 |
荒木道子 |
根岸明美 |
高橋昌也 |
加山雄三 |
藤原釜足 |
中北千枝子 |
三島耕 |
南道郎 |
織田政雄 |
一の宮あつ子 |
中村是好 |
井上大助 |
田中志幸 |
南美江 |
十朱久雄 |
小林十九二 |
賀原夏子 |
河内桃子 |
小池朝雄 |
多々良純 |
加藤武 |
村上冬樹 |
|
|
★★★★★ |
物語 |
人物 |
演出 |
設定 |
思い入れ |
5 |
5 |
4 |
5 |
5 |
|
ろうあの秋子(高峰秀子)は、一度嫁に行ったものの、夫が死別すると夫の実家龍造寺家からあっさりと縁を切られ、実家に帰ってくる。戦後のことで実家も苦しく、働き口のない秋子はいたたまれない思いにさせられるが、同じろうあ者の片山道夫(小林桂樹)のプロポーズを受けることとなる。同じしょうがいを持つ者同士の、連帯しての生活が始まった。それは幸せであると共に、苦しさの連続でもあった。二人の間に最初に出来た子は二人の耳が聞こえないための事故から死んでしまったし、秋子の弟弘一の遊びのお陰で実家はつぶされ、二人目の子一郎は、周囲のイジメに遭ってしまって、両親を恨む。そんな苦しさの中、力強く生きていく夫婦の生涯を描く。
戦後数多く作られた社会派作品の脚本家と知られた松山善三の監督デビュー作。松山脚本は一貫した人道主義に立ち、その上でエンターテインメント性を高めた作風が特徴だが、本作では監督としてもその実力を遺憾なく発揮。妻の高峰秀子を主役とした本作は評論家からも高く評価され、1960年邦画興行成績8位と社会派作品にしては珍しく興行的にも成功する。
一応「エンターテインメント」とはいえ、本作の設定は無茶苦茶きつい。昔の日本は特にしょうがい者には厳しい社会で、それだけで言われ無き迫害を受けていたし、現実に生活そのものがとても苦しい。更にはそんな肉親がいると言うだけで家族までが迫害に遭うというもの。それを直球で描いてしまったのだから。観てるだけでキツイと思える描写が続き、観てるだけで体力を消耗しそうな気分にさせられてしまう。
しかしながら、それでも本作は全く目を離せない。それは、主人公の秋子であれ、道夫であれ、どんな迫害を受けていても、生きる希望を決して捨てていないという一点にこそあったから。どんなに苦しくても生きていこうとする意志がそこにはあった。生きることが彼らにとっては一番の目的だったのだろう。その中でたとえ悲しみがあろうと、苦しさがあろうと、真っ正面からそれを受け止めつつも、生きていく。だからこそ本作は最後まで希望を演出できたのだろう。
生きていこうとする意志を描くというのは、実は最も重要で、最も難しい描き方だと思う。いかにして生きるべきか。というテーマは時代と共に描写がどんどん変わっていくものだが、この作品ではひたすらストレートど真ん中。どんなに大変でも逃げずに真っ正面からそれに挑み、描ききった松山監督の実力は特筆すべきだし、初監督でよくここまでまっすぐな作品を作れたものだ。
社会派作品は低予算が多いが、本作に限っては、しっかり予算が取ってあったのも良かった。内容がとても骨太なのだから、それを支える屋台骨がしっかりしてないと、設定先行でちぐはぐなものになってしまいがち。それを支えるのが製作費だとすれば、この当時の邦画の力強さってものをしっかり見せてくれた。
何より役者の巧さが光る。松山監督は高峰秀子の夫だが、連れ合いだからこそ、ここまでの汚れ役をやらせることが出来たのだろうし、しかもその中でもとびきり輝いた演技を引き出せた。更に何も言わず黙って(文字通り)彼女を支える夫を演じた小林桂樹の演技も素晴らしい。一人だと倒れてしまうかもしれない現実を二人で支えることで立ち続けられたのだ。二人一組で一つの人生だったのだな。ラストで秋子が亡くなってすぐに道夫が亡くなってしまったと言う事が示されているが、それも二人で一つと言う事を表していたのだろう。
それにしても最後のあのどんでん返し…というかちゃぶ台返しは本当にどきっとした。最後の最後、加山雄三が登場して爽やかな笑顔を見せた次の瞬間にあんな事になるとは予想だにせず。やってくれるよな。でも、このラストあってこそ、本当のエンディングなんだろう。ドシッとした重さと共に、本当に「観て良かった」としみじみ思わせるラストシーンだった。 |
|